夢を見た、気がした。
どんな夢かは判らないが。


梨亜と別れ部屋に戻り就寝……3時間ほど後だろうか。何とも言えぬ寝苦しさを感じたまろが目を覚ました。
冷房は掛かっていて空調は最適なハズなのだが。取りあえず外の空気を入れようと、ベットを降りて窓へと近づく。
音を立てぬようにカーテンを引き、窓を開ける。少しだけ冷たい夜風が、まろの肩を通った。

「ぉや、アレは……」
一階の部屋であるからこそ見える所に、誰かの後ろ姿があった。
街灯の灯る場所でボンヤリと見えるのは、きっと梨亜であろう。
こんな夜中に、一体なんの用事があるのか。森の方へと向かっているみたいだが。

「………」
そっと辺りを見渡す。此処は子供達用に借りた部屋なので、気配を感じて起きる人はいないだろうが。
それでも慎重に靴を穿き、窓に足を掛け………………。



イカナケレバ、ヨカッタ。



「り、あ、ちゃん……」
行かなければ良かった?
違う、もっと早くに来て一緒に逃げられたなら。

グルルルルルゥ……

地を這うような声を鳴らすソイツを見上げながら、まろは唯立ち尽くしていた。
身体は動かないくせに、どうして目に映るものはこんなにゆっくりなのだろうかと、考えたトコロでどうしようもなく。

月を浴びて白銀に輝く竜。
口に咥えたソコから、ボタリボタリと落ちる赤の物体。
高く遠くに見えるソレは、見覚えのある撓る子供の死体に他ならない。

ソレハソウダ。
梨亜にやっと追いついた瞬間に現れた白銀の竜は、逃げる間もなく梨亜を襲い。
助けようとしたまろに、『竜を傷つけないで』と梨亜は言い。まろは梨亜を。梨亜を助けることも出来なくて。

グルルルルルルゥ……
口から零れた破片には興味がないのか。竜は次の獲物に、目をつけた。
梨亜ちゃんが『傷付けないで』と言ったのだから、逃げるしかないのだろう。
結論がでたトコロで、上手く身体が動くはずもなく。
頭の中に蠢く恐怖という感情が、警告音という名の耳鳴りを作り出して。

<イシを見つけた、コロセ!!!!!!!!!!!>

耳鳴りが唐突に、誰かの声へと変わった。
瞬きの後のフラッシュのように、目の前に不思議な文字が浮かぶ。
それは、脳が作り出したイメージ。
空気中の水素がまろの手元に集まり、急激に温度を下げてナニカを作り上げる。

「嫌だ!! 梨亜ちゃんが傷つけるなと言ったのら!!!」
自分の意志とは全く別のトコロで現れる凶器。
ソレヲ止めたくとも、方法も判らずにいて。


グルゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ


森を震動させるような竜の悲鳴が、まろの頭の中を支配した。
大きな氷の刃の貫通。白銀の竜。血が出ることはなく。力を受けた場所は単なる空洞。
腹の3/1は抉られて、ソコには一体ナニが詰まっていたのか。判らないが。
例え体勢を整えられぬとしても、どうにか倒れまいとする竜。に。
再度まろの手には氷の刃が作り出された。


…………………っ


今度は、ナニの音も聞こえなかった。
耳が、ヤラレタか。けれども視界だけはハッキリとしていて。
大きく見開いたまろの目に映るは、頭を壊されて崩れゆく竜の姿。
まるで粘土細工が、壁に叩きつけられて割れてしまった時ように。ただ堕ちてゆく姿。


梨亜ちゃんが、言ったのに。『竜を傷つけないで』と言ったのに。
それが最後の、最後の言葉だったのに。なのにまろが、竜をコロシタのらか?


………………………………………


思考が、途絶える。
ナニも、考えられなくなる。
唯何故か崩れた竜の周囲に、暗い靄が現れ。
全てが、立ち尽くしているまろの中へと入っていった。



イシキガ、ノマレル





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