「そうか、ありがとう」
遊汰からの報告に、柔らかな微笑みを作る。
ようやく籠が開いた。そう言って少しだけ眉を潜め、巽はゆっくりと歩き出す。
その後姿を少しだけ見送った遊汰は、一礼だけをして仕事へと戻った。
巽が一人で向かう先は、あの部屋しかない。
そこは、遊汰には入れぬ場所。選ばれし者の聖域。
いや、違う。単にソレは、巽の拒否。見られてはならないと、思うココロ。
巽に仕えることが何よりも至福であると言い切る遊汰には、嫌でも気がついてしまうから。
眩しいほどの純白なる世界へと唯一人で向かう巽を、見送ることも出来ない。
***
ゆったりとした足取りで、巽は塔の隠されし一室に入った。
其処は穢れを知らぬモノが眠る場所。
息が詰まるほどに美しい。
まるで生きてはいないかのような。
見るたびにそう思い、そして絶望をかみ締める。
叶うことはない願いを持ち、それでも願い眠るその姿に。
「アナタは、誰を待っているのです…?」
小さく呟き、寄り添うように座る。
答えは、聞えない。
そんなコトは知っている。
答えて貰う気など、サラサラない。
ただ寄り添い、悲しみを共有するだけ。
ほら。あの時の約束が、ようやく果たされようとしていますよ……。
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