「で、昨日の夜に目がさめたら、何故か体がもとの姿に戻ってたんだぁ」
へにょぉ……という効果音の似合いそうな顔で、辰巳が笑った。
「多分初めからそうなるようにしてあったんじゃないかって、羅庵が言ってた」
「ほう、そうなのらかぁ」
辛い話になるかと思いきや、あまりにあっさりと話してくれた辰巳。
どんな反応をしていいのか判らないまろは、とりあえず素直に頷いて見せた。
「今日から此処の家に住まわせて貰うことになったから、宜しくね。まぁろ」
「おぉ、一緒に住めるのらね。どうぞ宜しくなのら」
手を差し出してきた辰巳と、握手をする。
その手は暖かく、昨日まろ達に攻撃を仕掛けてきたあの青年と同一人物とは思えない。

この家に住むってことは、まろのお兄さんになるのらね。
ちょっとボケてるけど、栗杷なんかとは違ってまろに優しくしてくれそうなのら。

「良かったわね、まろ。可愛い弟が出来て」
ポケポケと辰巳と手を繋いだまま笑いあっていたまろに、栗杷が不思議なことを言った。


……まろの、弟?


目の前に居る辰巳を見る。その姿は、どう見たってまろより年上。
「そっかぁ、まろって僕より一つお兄さんなんだよね。わぁ、嬉しいなぁ」
ギュウっと、辰巳が抱きついてきた。そこで栗杷が、意地悪そうな声でまろに耳打ちした。
「まろ、辰巳のことを自分より年上だと思ったでしょう」
「そ、っそんなことないのらよ!可愛い弟が出来て嬉しいなぁって」
栗杷に見透かされ、どもりながらも反論する。けれどこの口調では、そのウソもバレバレで。

「まろ様。もうお目覚めですか?」
栗杷に遊ばれそうになって居た所に、桂嗣の声が聞こえた。
栗杷たちにまろを起こすように頼んだものの、いつまでたっても食堂に来ないまろを呼びに来たのだ。
「お、まろはもう起きてるのらよ〜」
桂嗣がいるであろう襖の向こう側に向かって声をかける。

「桂嗣!!!!!!!!」

まろに抱きついていたはずの辰巳が、瞬間移動をしたんじゃないかと疑いたくなるような速さで襖を開け、今度は桂嗣に抱きついた。
その声は、さっきまろ達と話していた時よりさらに甘えた声になっている。

……辰巳?

「申し訳ありませんが、辰巳様。少し離れてくださいませんか」
少し呆れ顔の桂嗣が、力一杯抱きついている辰巳を引き剥がそうとしている。
なんというか、その雰囲気から言ってこれが始めて、と言う感じではなさそうだ。

「……あれはなんなのら?」

理解不能な光景に、眉に皺を寄せると言う慣れない表情をしたまろが、栗杷に小声で聞いた。
それにつられ、栗杷も小声で答える。
「辰巳って昨日、大怪我したじゃない。それで羅庵が治療したんだけど……」
そこまで言って、栗杷が口を閉じた。
そういえば、最近また変な新薬を誰かで試したいって言ってたのらね。

「……惚れ薬とかなのらか?」
「ううん、一応は痛み止めだとか。でもその副作用がアレ」
「副作用とは。羅庵は知ってたのらか?」
「知ってたから、相手が桂嗣になったんでしょう」
「と、言うと?」
「寝てる時に飲ませたらしいけど、その時に桂嗣の写真を辰巳の枕もとに置いたんだって」
目が覚めたら、一番に目に入る所に。

ため息を付きながら教えてくれた栗杷の目線の先は、未だ桂嗣から離れまいとする辰巳の姿。
惚れた相手があれでは、お先真っ暗だわ。なんて呟いている。




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