「まぁろぉ? 起きてぇ。朝になったよ〜」
顔をペチペチと叩かれる感覚に、まろは薄っすらと目を開けた。
「むぅ、もう夕飯なのらかぁ……?」
寝ぼけた口調で、ボンヤリと呟く。
「違うよぉ。もう朝になっちゃたんだよ〜」
「え!? まろ夕飯食べてないのらよ!!!」
そんな下らない思いで、まろはガバリと起き上がった。

「あ、やっと起きたねぇ」
そして。
「……どちら様ですか?」

まろを起こしていた少年を、始めて見た顔であることに気がついた。
「まろってばマダ寝ぼけてるの?僕だよ、僕ぅ」
と語尾を延ばしながら己を指さす少年。
本当に判らないの?と首を傾げる姿は、まろから見ても可愛らしい。

そう、この可愛らしい少年。年は栗杷と同じくらいだろうか。
オレンジ掛かった髪は、多分おろせば床に付きそうなほど長く、今は頭のてっぺんでおだんごにしている。
白い肌に長い睫毛。まるでどこぞの低学年用少女コミックの王子様。
始めに受ける印象は少し大人びた感じだが、話し方からすれば甘えん坊そのものと言うふうにもとれる。

はてはて? やっぱり知らない子なのら。
何度見直したところで、その結論しか出てこない。
そこでまろはポンッと手を叩いた。
「栗杷、整形したのらか? 確かに前よりはよっぽど綺麗になっ……」

ボカッという音を立てて、後ろから誰かに殴られた。
「あうぅ〜っ。軽い冗談なのらにぃ〜」
頭を押さえながら後ろを向く。そこには仁王立ちした栗杷。
勿論まろは後ろに栗杷がいることに気がついて言っていたのだが。
「そんな言い訳効くと思ってんの? この私が整形なんてする必要ないでしょう!」
まろを見下ろしながら、栗杷がフンっと鼻を鳴らした。
確かにその顔は、間違っても不細工なんていい難いような造形で。
栗杷はまろの従姉弟なのらもん。それなりの顔をしてるのは当たり前なのら。
それよりも栗杷は、精神科で性格を治して貰った方がいいのら。

バキリと、またも良い音を鳴らして、栗杷に殴られた。
「いったぁっ。何するのら、栗杷!? まろは何も言ってはおらんぞっ」
「うるさいわねっ。今頭の中で私を愚弄するようなこと言ったでしょう!」
ビシィっとまろを指さす栗杷。
す、するどいのら……。
こういうことには異様に勘が良い栗杷に、思わず息を飲むまろ。

「あはぁ。まろも栗杷も楽しそうだねぇ」

いつの間にやら放って置かれたいたさっきの少年が、二人を見て笑った。
コノ状況の、どこをどう見たらその結論が出てくるのら? まろの頭に、クエスチョンマークが現れる。
そんなまろを無視し、栗杷が少年のすぐ横に行った。
「あ〜あぁ。辰巳は可愛いわねぇ。まろとは大違いだわ」
刺々しい言葉をまろに吐いて、辰巳と呼ばれた少年の頭を撫でる。

「おんや?栗杷はその少年が誰か知ってるのらか?」

妙に慣れた感じの栗杷に、未だ状況を把握できていないまろが尋ねた。
「あれ? あんた桂嗣達から話聞いてないの?」
まるで小動物を可愛がるかのように、辰巳を抱きしめている栗杷。
まろにはあんなこと、一度もしたことないのら……。
いや、どちらかと言えばされない方が有難いのだけど。
「辰巳は、私達の従兄弟よ。夏月叔父様の忘れ形見」
ぼんやりと二人を見ていたまろに、栗杷がそう言った。

夏月叔父の息子。そういえば、昨日桂嗣達が部屋でこそこそ話していた内容にもそんなのが出ていたはず。
あれ? でも何かどっかに売られたとか?
まろの頭に疑問マークがいくつも浮かぶが、そんなことを本人を目の前にして聞くわけにはいかない。
さて、どうしようか。などと考え始めていると、驚くほどにあっさりと辰巳が言った。


「僕ね、今まで不思議な所にいたんだよ」




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