誰かに何かを相談する、という発想が出るようになったのはいつからだったか、と考えてみるとそれが意外と最近であるということに気付く。
高三の、半ば位からだ。
暑苦しい程の友情を深め、一人で抱えるなと言い合った。今思い出すと恥ずかしささえこみ上げるような日々だ。
その時に得た友人達にならば、心を開くなんて大袈裟な事は言わないけれど、助言を求めたり話を聞いてもらったりという相談めいた事が出来るのだ。
当時は思わなかったが、それが如何に貴重な存在であるということを歳を重ねるごとに知る。
「ひす…如月の誕生日がもうすぐなんだよなぁ」
何気なく、言ったつもりだった。
お互い日本に居る事だし久々にと馴染みのラーメン屋でそれぞれラーメンを頼み、当時とは違いビールで乾杯した時だった。
一瞬泡を吹きかけた京一が、じと、という目でこちらを見ている。
「ひーちゃん、俺にまで隠すなよ」
口で割り箸を咥え、ぱき、と音をたてて裂きながら京一は恨みがましい顔をしながら悔しそうに呟いた。
そういやこいつは知ってるんだった、と龍麻は苦笑いをする。
「いやほら、今あいつの家に厄介になってるしさ、何ていうかほら深い意味は無くて日頃の感謝とか…」
何となく口篭ってしまうのが気恥ずかしさから来ているのはわかっているのだが、妙な顔になってしまうのが止められなかった。
京一が大仰に溜息をつくのが少し腹立たしい。
「あーあーわかったわかった。ひーちゃんてさ、自分の事はよくわかってないよな」
「え」
「要するに、如月に何かイイプレゼントがしたいんだろッ。照れるなって」
「いや…うん、て、いや照れてないって」
「ここはやっぱりアレだろ、ひーちゃんにリボンをかけて…」
「……京一」
「駄目か?」
「駄目だ」
いくら京一とは言え、実はもうやったことがあるとは流石に言えない。
複雑な表情をして拒否する龍麻に、京一は何か怒らせてしまったのかと少したじろいだ。
「じ、じゃあほら身体に生クリームを塗って…」
「どういう発想してんだよ」
「大丈夫、アイツなら喜ぶ!」
「俺が嫌なんだっつの」
運ばれてきたラーメンをすすりつつ、龍麻は軽く京一を小突いた。いてて、と大袈裟に頭を押さえる姿を見ていると、あの頃に戻ったような気にすらなる。
「ま、ちょっと安心したぜ」
「んー?」
「仲良くやってんだな、それなりに」
「……ま、ね」
仲良くねぇ?と思わなくも無いが、同じ時間を過ごしている事に慣れてきている。
些細な口論もする。
改めて考えてみると、可笑しな話だ。
「あ、ひーちゃんひーちゃん、コレなんかどうよ」
そう言いながら京一がごそごそと取り出したのは、錠剤の沢山入った瓶だった。どこがで見たような記憶もある。
「何これ?」
「エ○オスだッ」
「そういう事を訊いてるんじゃない!」
相変わらずの親友に龍麻が呆れながらそう言うと、京一は知らないなら好都合だとにやりと笑った。
「ひーちゃんいいか良く聞いてくれ、コレは一見食欲不振や胃弱、食べすぎ飲みすぎ胸焼け胃もたれ二日酔い等の栄養補給に、なんて物なんだが」
「いや、俺も翡翠も別にそういうので困ってはいないけど」
「いやまだ続きがあるんだって、いいか?……増えるんだよ」
「何が」
一体コイツは何を言ってるんだと龍麻が呆れて眉を顰めると、京一はいいから耳を貸せ、と指を動かす。龍麻が近付くと、ひそひそと話し始めた。
「増えるって何が」
「だからな……増えるんだよ。俺等にとって重要な……」
「はぁ?」
素っ頓狂な声をあげた龍麻の口を慌てて塞ぎ、京一は周囲を見渡すともう一度にやりと笑った。
龍麻と言えば、呆れてものが言えないとでも言うようにぽかんと口をあけている。
「で、更に暫く自己処理は我慢してからヤるとコレがまた最高なんだッ」
「いやいやいや、待って、どうしろって言うんだよ」
「そりゃあ……誕生日に備えて飲ますか、飲むかだろー」
「……それまで自分でも実際にでもやるなって事か」
「ああ、燃える一夜の為にッ」
親指を立てていい笑顔をしている京一が、あまりにも眩しかった。龍麻はがっくりと肩を落とした後、テーブルに大仰に突っ伏している。
「お前に相談したのが間違ってた……」
「な、何でだよひーちゃん、そんなに我慢するのが嫌だったのか?」
「違う!」
「じゃあ何が間違ってるんだ、アイツも喜ぶ!ひーちゃんも悦ぶ!」
「京一頼むからもう黙って……」
京一字が違う、とはもう突っ込めなかった。
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