史上最高のバツゲーム−番外編 −Your Smile−




捺と気持ちが通じ合えて、気分が盛り上がったところで竜たちに邪魔されて。

少し気分をもぎ取られたようなこともあったけど、それも無事治まって。

再び気分が高まるのに時間はかからなかった。

捺と深いキスを繰り返しながら、僕の中で新たな欲望が生まれ出す。


捺の心も身体も全て僕の手に…


「捺…今日、このまま僕の家に泊まりに来れる?」

「んっ…大丈夫…真紀の家に…泊まりに行く事になってるから…」

「よかった。じゃあ…待ってて?すぐに支度してくるから、一緒に帰ろう」

「ん…待ってる」


名残惜しく思いながら唇を離し、捺をその場に待たせて、僕は急いで帰り支度をする為に休憩室へと向かう。

そしてドアを開けた途端、3つのいやらしい笑みを浮かべた顔が飛び込んできた。


なんだよ…みんなして。


「よぉ、さっきは随分と見せ付けてくれたじゃん、ユウちゃん?」

「別に…見せ付けたワケじゃないけど」

竜のからかうような口調に少し照れくささも混じって、ムスッとしながら返事を返し、テーブルに置かれている自分のカバンを掴む。

すると竜の横に座っていた健也が、クスクス。といやらしく笑って、タバコの煙を口から吐き出した。

「『捺の気持ちも手に入った今、絶対に離さない。離れることも許さない…だから、覚悟して…捺』ってか?くはーっ!よくそんな歯の浮くような台詞言えんね、お前は」


この男、盗み聞きしてたのか…


「うるさいよ、健也。盗み聞きするなんていい趣味してるよね」

「ばーか、盗み聞きじゃねーよ。覗き見だ」


尚更よくねえよ。


「でも、よかったじゃないか。彼女が戻ってきて。ようやく本当に手に入れられたんだろ?」

「ん、まあ…お陰さまで」

大ちゃんに、ポンと肩に手を置かれ、鼻の頭をポリポリと掻きながら返事を返す。

「今日のステージは、やたらテンション高かったから、遂に壊れたんじゃないかって、ドラム叩きながら心配してたんだけど…その必要なかったみたいだな」

大ちゃんはそう言って優しく微笑むと、持っていたコーヒーを美味しそうに飲んだ。

それに加わるように竜が、うんうん。と、口を出してくる。

「おー、それ俺も思ったよ。ベース弾(はじ)きながら、今日のコイツハンパねーって思ってた。いつも以上に声出てっしさ、マジでビビったよ…それも今考えりゃ、捺ちゃんが見に来てたってのが分かったからなんだよな?クスクス。すげーね、お前。あの子が見てるってだけで潜在能力最大限に引き出せたんじゃねーの?」

「そうかも…だって、本気で捺に惚れてるから」


そう呟いた途端、3者3様に3方向から髪の毛を揉みくちゃにされたり、頬を抓られたり、脇腹を擽られる洗礼を受けた。


「「「クソ生意気なガキーっ」」」


そう、笑い声を含ませて言いながら。


「いや、でもマジで。ユウがここまで本気になるのも分かるな、あの子なら。ステージから見て結構目立ってたもんなぁ、あの子とその右隣にいた子」

テーブルの上にあったタバコを1本手に取り、カチッとジッポでそれに火をつけ、ふぅ〜っと煙を吐き出しながら竜が思い出すように呟く。

右隣っていうと、確か同じクラスの早坂さんだったよな。

あー、そういえばあの子、竜の好みのタイプっぽいもんなぁ…

そんな事を思いつつ、目を細めて竜を見る。

「ふぅん。竜ってちゃっかりそういうとこチェックしてんだ?だからって捺は譲らないからね。それに、言っとくけど僕は捺の容姿だけに惚れたワケじゃないから」

「へぇへぇ、わぁってるって。大体、んな事したら俺、お前に殺されんじゃん」

「間違いなくね。あ…でも、その隣りの子なら捺と友達だから、なんなら聞いてみようか?彼氏いるかどうか。ちょうど竜は今、寂しい一人身だもんね?」

口の端を少し上げて、からかうように竜を見ると、うるせぇ。と、パシッと軽く頭を叩かれる。

「バーカ、いらねぇよ。ちょっと自分が女を手に入れたからって調子こきやがって。大体お前の同級なら高校生だろ?んなお子ちゃまはいらねぇ」

「そう?でも、結構竜の好みのタイプだと思うけど」

「好みのタイプだとしてもガキはいらねぇの。それに…女は暫くいいや。めんどくせーし」

「なに…まだ前の彼女引きずってんの?」

「引きずるわけねーだろ?綺麗さっぱり忘れたっつーの。ただ、俺は音楽バカだから女作っても悲しませるだけだから、暫く作らないって決めたんだよ」


暫く作らない、ねぇ…結構寂しがり屋で押しに弱いクセに。

いつまでその虚勢が張ってられるかな?


「ふぅん、そうなんだ。ま、僕には関係ない話だからどうでもいいけどね」

「お前…ほんっとに可愛くねぇガキだな」

「可愛いって言われても困るけど」

「そんな態度取ってっと、昨日までのウジウジした姿、捺ちゃんにチクるぞ」

「…………。あ、ねえ健也、そこのスタイリング剤取ってよ」

「おいコラ…無視かよ」


僕は竜との無駄話もそこそこに、先ほど揉みくちゃにされて崩された髪形を、さらに弄って寝癖風に仕上げにかかる。

前髪を鬱陶しいほどに前に垂らし、服も無造作にだらしなく着替えて、体の力を抜く…暗ダサキモ男の出来上がり。

朝は自然にそうなるから楽だけど、こうして創り上げるのは結構疲れる。


「お前さぁ、毎回思うけどそうするとほんっと変わるよな。よくそれであの子を落とせたな」

健也は僕が暗ダサキモ男に変化(へんげ)するのをマジマジと見ながら、感心したようにそう呟く。

「捺は外見で判断する子じゃないからね…ちゃんと向き合えば僕の良さを分かってくれる子なの、健也と違って」

「あんだよ、それー。それじゃまるで俺が見かけだけで判断してるみたいじゃねぇか。アレだぞ?言っとくけど、俺を好きになってくれる子がみんな可愛いだけなんだぞ?その中で自分の気に入る子を選んだら、たまたま運悪く金を貢がされて逃げられただけで…」


それがダメだって言ってるんだ。

この男はホントに…


呆れたようにため息を漏らして首を横に振る僕の様子に、なんだよぉ〜。と、若干ふて腐れ気味の健也。

本当にこの男は自分より3つも年上なんだろうかと思えてくる。



「さて、と。じゃあ悪いけど…捺が待ってるからお先に」

支度が整い、そう言ってカバンを担ぐ僕に3人ともがまたいやらしく笑みを浮かべる。


だから、なんだっつうの。


「おぉ、お疲れさん。捺ちゃんと熱〜い夜を過ごせよ?なにせ1年間の片思いの末の今日だもんなぁ。クスクス。すんげー激しそう」

「余計なお世話だよ、竜」

「1年のブランクかぁ…やり方覚えてっか?なんなら俺がレクチャーしてやってもいいぞ?」

「お断り。健也には特に教わりたくない」

「まあ、あんまり無茶するなよ、ユウ?捺ちゃんが可哀想だから」

「いや、だから!大ちゃんまでそういうこと言うかな」


3人にそれぞれ言い返し、僕の口から思わずため息が洩れる。


一番年下って絶対不利だ。

なんでもかんでも弄られる…


じゃあ。と、言葉を残してドアを開けようとしたところで、後ろから健也が呼び止める。

「あ、そうそう。ユウに渡すものがあったんだ」

「え…僕に?おわっ…」

振り返ったと同時に、小さめの紙袋を投げ渡されて、体勢を崩しながらそれをキャッチする。

首を傾げながら袋の中身を確認して、少し気の抜けた声が口から洩れた。

「なに、コレ…」

……ゴム?

「いやさぁ、ここ1ヶ月のユウの恋の成り行きを聞いててよ、段々いい感じになってきてるみたいだったからさ、頑張れよーっ!って意味でそれを買ってやったんだけど、ホレ…ライブ始まる前から急激に落ち込んでたじゃん?だし、渡しそびれてよ。でもまぁ、それも無駄にならずに済んでよかったよ。有難く受け取れ?」

「有難くって…」

「1年近くご無沙汰だから、買い足してねえだろ?そんだけありゃ、今日は心置きなくヤれんだろ。俺ってすげー気の利くお兄さんじゃねぇ?」

そう言って満足げに高笑いする健也。


そう、健也から渡された袋の中に入っていたモノは、今日の夜には必需品なもので。

健也が言うように、ここ1年ほど使うことが無かったから、家にあるかどうか不安なところでもあった。

だからこうして貰えて有難いっちゃあ、有難いんだけど…

だけど、なんで…


「ちょっとキツイって言ってたよな?だから、喜べユウ。お前にぴったりな、ビッグサイズだ!」


……………。




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