* 天使のかけら *
はぁ。どうしてこうも一日が終わるのって早いのかしら。 今までは感じた事のない時間の流れの速さ。 あっという間に一日が終わり、部屋の外は暗い闇に包まれている。 私はお風呂から上がってパジャマに着替えると、ベッドに潜り天井を見つめる。 目を瞑ればまた明日がやってくる。 そしたら、また一日私の命が短くなる。 眠るのが怖い…明日なんて来なければいいのに。 「よぉ、遥。早く寝ないとお肌に悪いぞ?」 「うぎゃぁぁぁっ!!」 突然目の前に現れたセナの顔。 だから、だから突然現れたり消えたりしないでよ!心臓に悪い!! 自分の寿命が縮まっているのは半分セナのせいじゃないのかと思えてくる。 「お前、いい加減慣れろよ。」 「なっ慣れるわけないでしょーっ!!出てくるなら出てくるってちゃんと言ってから出てきてよ。」 「言ってから出てきたら、お前のびっくりした顔が見れねぇじゃん。」 …………わざとか。 「もっ、もぅ!今日は?何で出てきたの?」 「何でって、添い寝でもしてやろうかと思って?一人じゃ悲しくて眠れないんじゃないかと思ってよ。」 「ねっ眠れるもん!」 「そうかぁ?さっきまでシケた面してたじゃん。今にも泣きそうな顔で。」 「見てたの?!」 「俺はどこにいてもお前の様子が手に取るように分かるんだよ。だから参上してやった。有難く思え?」 そうニヤリと笑いながらセナはゴソゴソとベッドの中に入り込んでくる。 「こっ、コラコラ!なな何してるのよ!!」 「ん?添い寝。何ならこのままエッチに突入する?」 「はっ?!へっ??そんなのしないっ。大体エッチって言うのは愛し合ってる者同士がすることでしょう?」 「愛し合ってねぇの?俺ら。」 ……………いつ愛し合いましたっけ? 「俺はお前の事を愛してるぞ?」 ……………え? 驚いた表情でセナを見る私に、彼はクスっと小さく笑って遠い昔を思い出すように少し遠くを見ながら話し始める。 「俺が神の手によって形成されてから、一番初めに迎えた魂がお前だったんだ。それがさぁ、すんげぇ綺麗でよ。」 「綺麗?」 「あぁ、お前の魂がな。純粋で温かくて…触れた瞬間に気に入って、この先もコイツの魂だけは俺が運ぶって心に決めた。」 セナはポツリポツリと話しながら、私の髪を優しく撫でる。 私は撫でられている髪からセナの温もりを感じながら彼の話に耳を傾ける。 「最初はさ、魂を運ぶだけで満足だったんだ。あぁ、今回も幸せな最期だったんだなって、この次も幸せになれよって。そう思えるだけで充分だった。けどよ、いつの頃からかそれだけじゃ満足出来ない俺がいて、生きてる時のお前はどんなんだろうって気になりだして……」 「昔の私……どんなんだった?」 「眩しかった。」 「眩しい?」 「あぁ。いつの時代もすげぇ輝いてたよ。笑顔が絶えなくて、元気いっぱいで。誰に対しても優しくて、素直で。そんなお前を見ているうちに、傍に居たい、護ってやりたいって思うようになって……」 本当はそんな事思っちゃいけねぇんだけどな。と、セナは小さく笑う。 「だから、隙を見つけてはお前の傍にいたんだ。もちろん姿は見えないようにだけどな。人間に姿を見せる事は禁じられてるから。」 一番初めに感じた、懐かしいような安心できるようなあの感覚。 ずっと自分でも肌で感じてたんだ……セナの存在を。 でも、どうして…… 「どうして?どうして禁じられてるのに、私の前に姿を現したの?」 「我慢出来なかった。泣いてるお前を抱きしめる事も慰める事も出来なくて……もどかしくて、気が付いたら声をかけてた。」 「セナ……」 「本当はずっとこうして自分の手でお前に触れたかった。お前の肌に、お前の温もりに……例えそれが禁じられてる事でも。」 セナは透き通るような淡いグレーの瞳で私を真っ直ぐに捉えると、頬を優しく撫でてくる。 「禁じられてるなら、罰とかあるんじゃないの?」 「まぁなぁ。でも、結構話の分かる神だから?後6日間ぐらい大目に見て、目を瞑ってくれるんじゃねぇの?」 そっ、そんなものなの? 神様って意外にイージー?? 「遥……キスしてもいいか?」 「えっ?!…なっ何で突然そんな事聞いてくるの?」 改めてそんな事聞かれたら、すごく恥ずかしくなってくるじゃない。 真っ赤な顔でセナを見ると、彼は今までに見せたことのないくらい優しい眼差しで私を見つめる。 「いや、何となく聞いた方がいいかと思ってよ。」 「あぁ改めてそんな真顔でそんな事聞いてこないでよぉ。恥ずかしいじゃない。」 「じゃぁ聞かねぇよ。俺がしたい時にする事に決めた。」 「………ぇっ…」 一変して、ニヤリとした笑みを浮かべると、セナの唇が私の唇に重なる。 柔らかい感触と温もりが唇に伝わり、俄かに自分の鼓動がトクン、トクンと高鳴り出す。 重なるだけのキスから、啄ばむようなキスに変わり、自分の体温が上昇し始める。 セナの手が頬から後頭部に移動して、クイッと持ち上げられると僅かに開いた口から、彼の舌が入ってくる。 …………っ?! 一瞬驚いて体がビクンと震えたけど、徐々に自分でも応えるようにセナの舌に自分の舌を絡めている私。 次第にお互いを強く抱きしめあい、求めるように奥深くで舌を絡め合う。 どうしよう……すごく、心地がいいセナとのキス。 離したくない、離して欲しくない。 ずっと抱きしめていて、このまま傍に居て欲しい。 そんな感情が自分の中で芽生え始めていた。 セナはゆっくりと唇を離すと、優しく微笑みかけてくる。 「お前とするキスってよ、すげぇ幸せな気分になるのな。」 「幸せ?」 「あぁ。なんつーかこう、気持ちが温かくなるっつうかさ。ずっとこのままでいてぇって思っちまう。」 ……同じだ。 私もセナと同じ事を感じてた。 ずっとこのままいたいって。 もしかして私、セナの事を好きになっちゃった?? 「……遥。6日間という短い間だけど、俺がずっと傍にいてお前を幸せな気持ちにしてやるから。だから悲しい顔とかすんじゃねえぞ?」 「……セナ。」 「お前には笑っててもらいてぇんだ。俺にとってお前の笑みは、天使の微笑みなんだからよ。」 「天使の微笑みって……」 天使から言われちゃったよ。 何だかすごく恥ずかしくて、頬が赤く染まってくる。 後6日。ううん、実際にはもう後5日。 私のこの人生は終わってしまうけど、セナが傍にいてくれるなら……怖くないような気がしてくる。 「もう寝ろ、遥。お前が眠るまでずっといてやるから。」 「明日も…その次も、その次の日もずっといてくれる?」 「あぁ。お前が望むならずっと傍にいてやるよ。まぁ、一瞬消える事はあるかもしれんが?」 ……消える時と現れる時は一言声をかけてね。 そんな事を頭の片隅で思いながら、セナの温もりを感じ瞳を閉じる。 ←back top next→ |