* 天使のかけら *






仕事って言って消えちゃったけど、授業どうするのかしら?

ぼーっとそんな事を考えながら教室に戻り席に着くと、友子がニヤニヤと笑いながら私を見てくる。



……何。



「羨ましいわぁ、遥。カッコイイ彼氏がいて。ね、ね。どこまで進んでるの?」

「はい?」

「やーねー。恋人同士なんでしょ?エッチもしちゃった?」

「はいぃぃ??」



えっ、エッチって……私が天使とですか?

ありえな〜い!!

いや、でもキスはしちゃったし。

恋人同士になったからにはそういうこともあったりするのかなぁ……って、何考えてんの私?



「……エッチって何だ?」

突然背後から聞こえてきたセナの声。

「ぬわぁぁっ!!」

驚きのあまり私の口から奇妙な声が出る。

「何よ、遥。変な声出しちゃって。」

「だって、だって。急に現れるんだもん!!」

「急にってさっきから一緒にいただろうが。」

「そうよー。さっき一緒に帰ってきたじゃない。ずっと遥の傍にいたわよ?彼。」



嘘だ、一人で帰って来たんだもん。

また何かしたわね、セナ!

そんな意味を込めて横目でセナを見ると、彼はそ知らぬ顔をして私の肩に腕をまわす。



《しっ、仕事は?》

《あぁ。もう終わった。1分1秒でも早くお前の所に戻りたかったから即行で送ってやったよ。》



コソコソと話してるだけに、妙にその言葉が耳に残る。



――――1分1秒でも早くお前の所に戻りたかったから。



トクン、トクンと高鳴り出す自分の鼓動。

え…何。この胸の高鳴り。

私が自分の異変に戸惑っている事など露知らず、セナと友子は会話を続ける。

「で?そのエッチっつぅのは何?」

「えー。天野君知らないの?意外ー。」

「せっセナはそういう事知らなくていいの!」

「あんだよ、教えろよ。」

「いいじゃない遥。遥だって詳しくないくせに。」



……うぬ。



「エッチって言ったら愛を確かめ合う行為じゃない。天野君、本当に知らないの?」

「あぁ、あれか。ベッドの上とかで裸になって抱き合ったりしてるやつ?」

「そうそう!それそれ。あなた達2人はまだなのかなぁ〜?」



だから、そんなリアルっぽい話は止めてよ。



「そうだなぁ。折角恋人になってんだから、試してみるか?」

「……誰に言ってる?」

「遥以外に誰かいんのかよ。」



セナの言動全てが分からない。

突然私の前に現れたかと思ったら、 『お前は後7日しか生きられない。』って言ってきたり、

次の日には突然学校に転校生としてやってきて、 『お前は俺の女だ。』なんて言ってキスまでしちゃうし……。

挙句の果てにエッチまで、 『試してみるか。』なんて楽しそうに言って来るし。

本気なのか冗談なのか理解に苦しむ。

セナはどうして私なんかの為にこんな事をしてくるの?

最期は幸せな気持ちで送ってやりたい。なんて、それだけの理由で?

16年しか生きられなくて、失恋したままあの世に送られる私が不憫だったから?

私は本当に後6日しか生きられないの?

こんなに元気なのに。。。



++ ++ ++ ++



「ねぇセナ。私は何が原因で死んじゃうの?」

午後の授業が自習になったから、私はセナと教室の窓辺に並んで空を見上げながらボソッと呟く。

「……それは言えねぇ。」

「次、生まれ変われるとしたらいつ?」

「さぁなー。それは神の気分次第じゃねぇ?」



気分次第って……そんな曖昧なものかい!!



「記憶とかも無くなっちゃうんだよね?」

「あぁ。稀に神の悪戯で前世の記憶を残す事もあるけど……まぁ殆どは消されるな。」

「悪戯って……神様もそんな悪戯するの?」

「おぉ。結構お茶目だぞ、神は。面白いしな。」



お茶目で面白い……どんな存在なんだ、神様ってのは。



でも、後6日か。6日後にはここにいるみんなとも、両親ともお別れ?

そんな事現実に思えないけど、本当だとしたら……。



じんわりと目頭が熱くなって、視界に広がる青い空が滲む。

「……………死にたくないな」

「……遥」



小さく呟いた自分の本心。

私の髪を撫でるセナの手の温もりが、余計に身にしみて悲しくなってくる。




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