* 天使のかけら *






「……るか……遥!起きなさい!!何時だと思ってるの!!!」



階段の下から呼ぶ大きな母親の怒鳴り声。

私は重い頭を擡げて頭の上の目覚まし時計に目をやる。



……んー…8時か。

……………っ!!はっ8時?!やっばい遅刻だっ!!

ガバッと飛び起き慌てて制服に着替えると、洗面所に向かいさっさと支度を済ます。

遅刻ギリギリの時間だったから、朝食も取らずに出て行こうとしたら、奥から母親が食パン片手に顔を出す。



「こら、遥。朝食も食べないで学校行くつもり?昨日だって泣いて帰ってきたかと思ったらそのまま部屋から出てこずに寝ちゃったみたいだし……何があったか知らないけど、ご飯だけはちゃんと食べなさい。」

「えー。お腹空いてないのに。」

そういえば昨日、先輩にフラれたんだっけ。

奇妙な夢のお陰ですっかりと忘れてたそんな事。

あぁ。7日後に死ぬんだっけ……私。

嫌な夢だったなぁ。どうしてあんな夢を見ちゃったのかしら。

私は重いため息と共に母親から渡された食パンをお腹に詰め込む。

…………って、言うか。

パンは飲み物がないとキツイ……げほっ。



++ ++ ++ ++



息を弾ませながら教室に入ると同時にチャイムが響く。

うぁー。ギリギリセーフ。

安堵のため息を漏らして自分の隣りの席に座る内藤君と挨拶を交わしてから席に着くと、前の席に座っている友人の田中 友子(たなか ともこ)がニヤリと笑みを浮かべながら後ろを振り返る。



「ギリギリセーフだわね、遥。ね、昨日の先輩の愛の告白はどうだったの?」

「あ〜…フラれちゃった。」

「うっそ。ごめん、大丈夫?」

「え?うん、大丈夫。それよりも変な夢見ちゃって…少し気分悪い。」

「夢?そうなんだ、失恋のショックでかなぁ?」

「んー。かもしれない。」

「ね、ね!遥。知ってる?今日ね、転校生が来るんだって!!それが超カッコイイらしいのよ。遥も先輩とくっついてなくてよかったかもよ?」

「へぇ。転校生?カッコイイんだ……でも、暫く恋はいいわ。」

「そうなの?そんなに先輩との事、ショックだったんだ。」

「そういう訳でもないんだけど。」

確かに昨日は人生どん底ぐらいの気持ちだったんだけど、不思議とそれはなくなっていた。

あんな夢、見ちゃったせいかな。

確か……セナって言う天使が出てきた夢。

いや、あれは間違い無く天使を装った悪魔。

私がため息と共にカバンを机の横にかけると同時に担任が教室にやってきた。



「お前ら、席に着けー。今日は…遅刻者はなしだな。よし。えー、転校生を紹介する……君、入りなさい。」



担任が教室を一周してから一つ頷き、ドアの方へ視線を動かす。

それにつられるように全員の視線がドアに集まった。

ゆっくりとスローモーションのように見える映像。

転校生の姿が確かになるにつれ、私の目も丸く開いていく。

真っ黒なサラサラのショートヘア。

目はくっきり二重で髪と同じように真っ黒な瞳。

すっと筋の通った鼻に、形のよい唇。

シャープな顎のライン。

学生服が素敵に似合いすぎるすらっと長身の彼はどこからどうみたって



超美男子!!



……じゃ、なくて。

え、セナ?え……嘘。

昨日見た姿とは若干異なってはいるけれど、忘れもしない昨日私の目の前に現れた悪魔のような天使、セナだ。

彼が教壇に立つと一瞬にして女子生徒の視線を釘付けにした。



……いや、まさかね?他人の空似だ、きっと。(夢だけど)



「えー。今日からこのクラスで一緒にやっていく、天野 世那(あまの せな)君だ。みんな、仲良くしてやってくれな。天野君からも一言挨拶してくれ。」



だぁぁ!天野 世那って……セナじゃん?!

やだやだ、嘘ぅん。あれは夢じゃなかったって言うの?

かっ、神様……これって夢…ですよねぇ?



「天野 世那です……宜しく。」



透き通るように綺麗なセナの声。

周りの女子からは一斉にため息混じりの声が漏れる。

私はと言うと、これが夢である事を願うように必死で自分の頬を抓る。



………痛い。



「えっと、空いてる席は…と。確か朝倉の隣りが空いてたな。」

え…私の隣りって確か内藤君が座ってたハズ……って、えっ!?いっ、いない??

キョロキョロっと内藤君の姿を探すと、彼は当たり前のように一番後ろの席に座っていて………どうなってんの?

こんがらがる頭を抱えていると、担任に促されてセナがゆっくりとコチラに向かって歩いてくる。



うわっうわっ!くっ、来る来る!!




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