−5− 「や〜ん、こうして影で見てるとどこからどう見てもあの2人って恋人どうしよねぇ?あ、見てみて!楽しそうにマグカップ見てるー。」 ・・・・・うるせぇ。 俺とメイは連れ立って、影からコッソリと街を歩く2人の後をつけている。 後をつけはじめた時から、メイは事あるごとにあーだこーだと騒ぐ。 はっきり言って全っ然おもしろくねぇ。 何が楽しくてあいつらが楽しくお買い物なんてしてる場面を見なきゃなんねぇんだ。 少し、自分も行くと言った事を後悔しながらも何かあってからじゃ遅いんだ。 そう自分に言い聞かせてメイと同じように影からコッソリと2人を観察していた。 ・・・認めたくねぇけど。やっぱ絵になるな、あの2人。 道行く人が2人を振り返り、羨ましそうに眺めて過ぎて行くのを遠目に見ながらそんな事を思う。 「あ、ほら。動き出したわよ!!」 メイはそう言って俺の腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張り出す。 「あーもーっ!引っ張んなよ!!」 「智也がさっさと歩かないからでしょ?見失ったらどうするのよ。」 「お前さぁ・・・兄貴の後なんてつけて何が楽しいわけ?」 「別に。どうだっていいじゃない、あなたには関係のない事でしょ?」 「ねぇけど。」 ヤケに俺よりも躍起になって2人の後をつけてるメイの姿に首が傾く。 その様子に気づいたのか、メイが慌てて言葉を付け足す。 「兄が・・・女の子とどう接するのか見たかっただけよ。」 「はぁ?・・・悪趣味。」 「放っておいてよ。人の勝手でしょ?兄が女の子といた所、見た事ないから・・・ちょっと気になったの。」 「嘘っ!今まで一度も?」 「えっ?え・・・えぇ。」 「うわー。お前の兄貴、あっち系じゃねぇの?」 少しふざけてそう呟くと、メイは少し意外な反応を見せた。 「違うわよっ!!あの人の事、何も知らないクセに変な事言わないで!!」 「・・・・・え。」 ・・・何、目くじら立てて怒ってんだコイツ。しかも『あの人』って? その様子に少し面食らってメイを見ると、慌てて俺に背を向けた。 真由と剛は何軒かの店に寄り、喫茶店でお茶をして。 空がオレンジ色に染まりかけた頃、何事も無く俺らの家の前まで帰ってきた。 ・・・なんだ。意外にアイツ紳士的?それともやっぱり女に興味ねぇのか? そんな事を思いながら、メイと少し手前の塀の影で2人の様子を伺う。 剛のヤツが2.3言真由に向かって何か呟くと、真由はそれに対しておかしそうに小さく笑い声を立てる。 ・・・ヤケに楽しそうじゃねぇか。なんか、すげぇムカツクんですけど。 今日一日奴らの後を追って、積み重ねられてきたムカツキがMaxまでに貯まろうとしていた。 「なっ?!」 「えっ?!」 真由が剛に向かって小さくお辞儀をして手を小さく振り、やっとこのムカツキからも解放されると安堵のため息を付いた瞬間、俺の目の前で信じられない光景が映し出される。 その光景に俺とメイは同時に声を漏らしていた。 ここからの角度じゃよく見えねぇんだけど・・・家の中に入って行こうとする真由の腕を掴んで、剛は自分の方に引き寄せて・・・ ・・・・・キスしてる? どっかーん!!と、自分の中の何かが爆発したような気がした。 「て・・・めぇ、何してやがっ・・・ぇ。」 俺が怒りで拳を強く握り締めながらヤツに向かって行こうとしたら、横からメイがスッと出てきて俺の手を引き、2人の方へ歩き出す。 ちょうどヤツらの少し手前まで来ると、クルッと俺の方へ向き直り突然俺の首にヤツが腕をまわしてきた。 「なっ!?ちょっ・・おぃっ!!」 「智也、今日はとっても楽しかったわ。私、本気であなたの事好きになっちゃったかも?」 そうワザと2人に聞こえるように大きな声で言い、何をしてくるのかと思ったら突然唇を塞がれた。 「っ!!」 見開かれる俺の瞳。その片隅で両手で口元を覆いながら声にならない声を出した真由の姿が映る。 「・・・・・なにすんだよっ!離せっ!!・・・真由っ!!!」 纏わりついて離れないメイの体と唇を無理矢理引き剥がし、涙を浮かべながら家に駆け込んで行った真由の後を追う。 すれ違い様チラッと見えた剛の横顔。 何とも言えない驚いたような、怒りがこもっているようなそんな表情に見えた。 真由の後を追って家の中に入り、バタンッ!と大きな音を立てて閉まるドアの音を聞きながら、階段を駆け上がる。 「真由っ!!」 俺の声と真由の部屋の鍵が、ガシャッ。と掛かる音が同時だった。 「真由!開けろよっ・・・真由っ!!」 ドンドン、ドンドン。と大きくドアを叩きながらガシャガシャ。と何度もドアノブをまわす。 ・・・何だよ、今のは不測の事態だろ!!頼むから開けてくれって。 「真由っ!開けろ・・・真由って!!開けねぇならこのドアぶち壊すぞっ!!」 2.3歩後ろに下がり、本気で部屋のドアをぶち壊そうかと思った所で、ガチャっと鍵が開きドアが少し開く。 中に急いで入ると、真由が瞳いっぱいに涙を溜めて唇を噛み締め立っていた。 「・・・真由。」 「ど・・してぇ?ど・・して、メイさんとキスなんかするの?」 「俺がしたんじゃねぇだろ?アイツが勝手にしてきたんだ。お前・・真由だって剛にされてたじゃねぇか!!」 「されてないもんーーーっ!!剛さんはあの時、『ちょっとごめんね。あいつの反応見てみたいから。顔が近づいちゃうけど我慢してね。』って、そう言われて顔を近づけられただけだもん!!なのに・・・なのに智也はぁ。」 ぽろぽろといく筋もの涙を零して、真由が泣く。 ・・・ちょっと待てよ。言ってる意味がさっぱり分かんねぇ。 混乱する頭を整理しようと悩ませてみてもさっぱりわからなくて。 「・・・あいつって?どいつ?」 「しらっ・・ない。」 『あいつ』がもし俺だとしたら、反応を見るまでもなくそんな事をしたらどうなるかなんて目に見えてる。 だとしたら、『あいつ』ってのは俺じゃなくて・・・メイの方? ・・・なんの為に? 俺は全然腑に落ちなくて、真意を確かめたくて真由の手を引き奴らを追いかける事にした。 ←back index Next→ |