−6−

今ならそう遠くまで行ってないハズ。

そう思いながら走っていると、本当にそう遠くない家の近くの公園で2人の姿を見つけた。

「・・・・・え。」

見つけたのはいいけれど・・・見てはいけないモノを見てしまったような気がして、思わず自分の口から声が漏れる。

だってさ、あいつら・・・抱き合ってキスしてる。


・・・何故だ?


俺と真由が2人して公園の入り口で固まっていると、気付いた奴らがこちらを振り返る。

「あーらら。見られたか。」

そう、先に口を開いたのは剛の方。

「お前ら・・・何やって・・・。」

「何って?見ての通りだけど。」

「って・・・兄妹だろ?」

「クスクス。そう、兄妹だよ?君達と一緒のね。」



・・・俺達と一緒って、まさかコイツらも血の繋がらない?



「ついでに言うと関係も君達と一緒だったりする。」

「はぁ?!」


ってぇ事はこいつ等もそういう秘密の関係だっつぅ事かよ?


俺は驚きの連続で上手く言葉が理解できないでいた。

それは真由も同じようで、俺の手を握りしめながらずっと口に手を当てたまま。

「お前、女に興味ねぇんじゃ・・・。」

「え?あぁ。ないよ?メイ以外の女にはね。なのに突然、俺達の関係がバレなくて済む方法思いついたの。とか言い出してさ。何かと思って聞いてみれば、真由の仮の彼氏になれって・・・。」

「だって・・・智也と真由さんから私達と同じニオイがしたんだもん。それならお互いに間違いは起きないだろうし、剛さんが女の子から言い寄られる事もなくなると思って・・・。」

いつもの勝気なメイはどこへやら、一変してしおらしい姿で剛の腕の中でヤツを見上げる。

「の、割には智也君と腕を組んだりして楽しそうだったじゃないか。案外メイもまんざらでもないんじゃなかったのか?」

そうメイに対して意地悪く剛が言うと、メイはふるふるっと首を横に振る。

「違うもん!なるべく恋人同士に見えるようにってそう思ってしてたの・・・剛さんこそ、本当は真由さんの事好きになったんじゃないの?帰る時だって手を繋いでいたし、今日だって・・・。」

「お前は何も分かってないね?俺が真由と手を繋いだのも、今日彼女を呼び出したのも、全部メイにヤキモチを妬かせようと思ってした事なのに。」

「え?」

「だってそうだろう?突然恋人ごっこの話を持ち出されて、嬉しそうに笑いながら智也君と腕を組む姿を見せ付けられて・・・メイのヤツ、何考えてんだ。って言いたくなるだろ。」

「・・・剛さん。」

「挙句の果てに、今日ついて来てるの分かってたからちょっとメイを懲らしめてやろうと思って真由とキスしてるフリをしたら、お前マジで智也君とキスし始めるじゃないか・・・正直ショックだった。」

「ごめ・・・なさい。だって本当にしてると思ったら、カッとなっちゃって。思わず。」

「カッとなってもそういう行動に出て欲しくないんだけど?俺の隣にいるのはメイだけでいい。お前が一生懸命考えて今回の提案を出したんだって思ったから乗ったフリをしたけれど、やっぱり俺は嫌だな。他の女の子が隣にいるだなんて事。」

剛はメイの顔を覗きこんでから、智也君もそうだよね?と俺に視線を向けてきた。

暫しの間、蚊帳の外に追いやられていた俺は突然そう振られて反応が少し鈍る。

「あ?・・・あぁ。俺の隣にいていいのは真由だけだから。真由の隣にいてもいいのも俺だけなんだ。だから、こんな馬鹿げた事ヤメにしねぇか?お互い嫉妬が生まれるだけで、何の得にもなってねぇじゃん。」

俺が真由の体を引き寄せながらそう呟くと、コクン。と頷きながら彼女が俺の体に腕を回してくる。

ほんと、こんな馬鹿げた事やってらんねぇっつぅの。

このままこんな妙な関係が続けば、絶対この先俺は嫉妬で壊れてしまう。

俺は、そうだよな。と、返ってくるであろう返事を待ちながら、剛に視線を向けるとヤツから意外な答えが返ってきた。

「んー・・でもなぁ。嫌だと思いながらでも、案外この状況を楽しめてたりするんだよね、俺。」

「・・・・・は?」

「クスクス。ほら、いい刺激になるって言うの?メイが智也君と一緒にいるのを見る度に嫉妬で狂いそうになる自分がいてさ。あぁ、俺ってこんなにもメイの事が好きなんだなぁ。って思い知らされて・・・すごく夜が燃えるんだよね。」


・・・燃える?一体なんの話をしてやがるんだ、コイツは。


俺が剛の言葉に訝しげに眉を顰めると、ヤツはおかしそうにクスクス、と笑う。

「ほら、智也君もそういうの見たら激しくならない?コイツは俺の女だっ、て。」

「何言ってやがる?」

「クスクス。あれ、違った?俺はそうだったけどね。メイが君と腕を組んで学園から歩いて来るの見て、嫉妬で狂いそうだったよ。だから昨日の夜は激しかったよね?」

そう剛が意地悪くメイに向かって呟くと、メイは真っ赤な顔をして、知らない!とヤツの胸に顔をうずめる。

「だからさ、このままこの関係を続けて行ってもいいんじゃない?お互いを刺激し合ったら俺とメイ、君と真由の関係もいい感じにずっと行けるんじゃないかって。俺らの関係がバレずにも済むしね。」

「刺激だぁ?そんなつまらねぇモノに俺らを巻き込むんじゃねぇよ!俺はゴメンだ!!」


冗談じゃねぇ!こんな関係を続けて堪るかっつぅんだよ。

そんな刺激がなくても俺と真由はずっとこの先も愛し合っていけるんだ。

「そう?残念だなぁ。美男美女カップルが2組共週明けには破局って、またまた噂になりそうだね。」

「言いたいヤツには言わせとけばいい。とりあえず、金輪際俺らに関わってくるな。俺と真由の関係がバレたならバレたで、俺が全力を持って真由の事護ってやるよ。だからお前も、テメーが惚れた女なら最後までテメーで護っていけっつぅんだよ。」

「クスクス。智也君て結構熱い男だね。」

「うるせーよ。」

「・・・仕方ないね。ま、俺も智也君のように熱い男になるかな。メイ、それでいいよな?」

剛が腕の中のメイにそう囁きかけると、メイも、うん。と小さく呟きながら頷く。

「智也・・・ごめんね。巻き込んじゃって。それから、真由さんもごめんなさい。」

メイは剛の腕の中から俺らの方を向くと、そう小さく呟く。

「あ・・・いえ。」

真由が俺の横で小さく首を振るのを見てから、メイはニッコリと笑いかけてきた。

「でも、これからも仲良くしてよね。お互い同じ境遇にいるんだから。」


・・・やなこった。


そう思いながらも、真由が先に、うん。と頷いたもんだから、俺も仕方なしに、おぉ。とだけ呟く。

「じゃぁ、これからも宜しくって事で。メイ、帰ろうか?」

「ん、そうだね。あ・・・今日、家に誰もいなかったんじゃない?」

「あぁ、そう言えば今朝そんな事言ってたっけ。ま、それも今日は好都合だな。激しくできそうだし?」

「やっ!ちょっと、剛さんてば何言ってるのよっ!!」

そんな会話を交わしながら、奴らは仲良さそうに帰って行った。


・・・・・っつぅか、最後俺らの存在忘れてたよな。あいら。


俺は大きなため息をついて、真由を見下ろすと、俺らも帰ろうぜ。と真由の手を引く。


・・・なんか、どっと疲れたね。





←back  index Next→