*Obedient You




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「――――修吾、俺今日一世一代の大勝負に出る。」

「・・・・・は?」

終業式の為、体育館に向かう途中でそんな事を修吾に呟く。

「俺が本気で惚れた女を手に入れる為に、いっちょ派手にかましてやらぁ。」

「クスクス。ったく、めでてぇヤロー。」

「ホント・・・めでてぇよな。こんなにマジになるなんてよ。ストーカーにまでなっちまって・・・ だけどどうしても手に入れてぇんだ、アイツだけは。」

「ま・・・頑張れば?」

冷たく聞こえても、これはヤツなりの応援の言葉。

俺はしっかりとそれを受け止めて、決戦の場へ一歩一歩近づいて行く。

全校生徒が集まるこの場所が、俺の決戦の場所――――桂木 恵子を手に入れる為の。


終業式が校長の挨拶で始まった。

俺はそれを聞きながら、生徒の列を横目にゆっくりと壇上に近づく。

壇上横に立っていた先生が俺に気づき始め、こちらに向かってくる。

俺は、ニヤッ。と口角を上げると、先生達の脇をすり抜け壇上に駆け上がり、校長からマイクを奪い取って大きく息を吸い込む。

途端にザワザワッ。と騒がしくなる体育館内。

その声にかき消されないように、俺はありったけの声で叫んだ。

「俺は桂木 恵子が好きだぁ〜!!他の女には興味がねぇ。だから俺と付き合え!!」

俺の言葉に更に騒がしくなる体育館。

俺が壇上から彼女に視線を向けると、彼女はこの上なく真っ赤な顔をして手を口元に当てていた。

それでもお構いなしに、俺は続ける。

「OKしねぇと、何度でも叫ぶぞ!桂木 恵子が好きで好きでたまりません。本気で惚れてるんだって!!恵子?返事しろよ。桂木・・・・」

「だぁぁぁっっ!!わかった、付き合う!付き合うから早く降りてよっ!!!何度も人の名前呼ばないでっ。恥ずかしいでしょ!!」

うっしゃぁっ!・・・やった、やったっ!!今、確かに言ったよな?俺と付き合うって・・・もう訂正はきかねぇからな!!

俺はニヤっと笑って壇上から飛び降りると、そのまま彼女の元へ駆け寄り華奢な身体を思いっきり抱きしめる。

「俺の本気、分かってくれた?これでもうお前は俺から離れらんねぇぞ。」

「もぅバカっ!恥ずかしいじゃない・・・ホント、バカよあなたって。」

「そ、俺ってバカだからお前一途にしか生きらんねぇから・・・だから覚悟しろよ?恵子。」

「こんな事して・・・ちゃんと護ってよね。責任取ってよ?遊びだったら許さないから。」

「お前は俺が一生かけて護ってやる!遊びなんかじゃねぇ、俺の本気手に入れたから。」

俺がそう言って微笑むと、恵子は初めて俺に向かって本当の笑顔を見せてくれた。

直人のバカ。っつって。


――――そんな幸せな気分に浸るのも束の間。

俺はすぐさまその場から職員室に引っ張って行かれ、1時間たっぷりと説教をくらった。

ま、今の俺に何言っても堪えねぇよ?

だってすっげぇ今、幸せだから。

俺がニタニタと笑ってると、ゲンコツのお土産まで付いてきた。

涙が出そうな程痛かったけど、だけどそれを上回る程の満足感が俺を満たす。

締りのねぇ顔の俺を最後は呆れた顔で許してくれて、解放してくれた。

すぐさまその足で恵子の元へと向かう。

今は一分一秒でも多く恵子と一緒にいたかった。

「恵子っ!!」

教室の入り口でそう叫ぶと、周りからヒューッ。と言う囃し立てる声と女の子達からの冷たい視線が交わる。

それを掻い潜りながら恵子が俺の元へと赤い顔をしながらやってきた。

「ちょっと・・・そんな大きな声で名前呼ばないでって。」

「いいじゃん別に。それよりさ、今日一緒に帰ろうぜ。もう帰れるんだろ?」

「ん。もう帰れる・・・直人は?お説教は終わったの?」

「あぁ。お土産付きで解放されたよ。」

「お土産?」

「でっけぇゲンコツ一発。あんれは目の前に星が見えたね。」

「クスクス。ゲンコツ一発で許してもらえたんだから、軽い方じゃない?」

「まぁね。っつうか、カバン持って来いよ。帰ろうぜ。」

「あ、うん。ちょっと待って。」

恵子がくるっと身体を翻して自分の席に戻ってカバンを取ってくる。

自分も同じようにカバンを取りに教室へ戻ると、先程の教室と同じような反応が返ってきた。

教室の入り口で真っ赤な顔をして小さくなってる恵子の元へと戻ると、その身体を護るように腕を彼女の肩にまわす。

「ちょっと直人?」

「言ったろ?俺が護ってやるって・・・俺と一緒にいる時は傍を離れんな。何があっても真っ先にお前を護ってやっから。な?」

その言葉にはにかむと、小さな声で、ありがと。と聞こえてきた。

俺らが歩き始めると、前からポケットに手を突っ込みながら修吾が近づいてくるのが見えた。

すれ違い様俺が拳を出すと、それに合わせるように修吾の拳がぶつかった。

――――お互い少し笑いながら。

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