*Obedient You




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トイレのすぐ傍の壁にもたれながら待っていると、程なくしてハンカチで手を拭きながら彼女が出てきた。

彼女は俺の姿を見て少し驚いたような表情を見せる。

「あれ、柊君・・・どうしたの、こんなところで?」

「・・・ねぇ桂木さん、付き合ってる奴いなかったら俺と付き合わない?」

その言葉に更に驚いたような表情になる彼女。

そりゃそうだよな、何の音沙汰もなしに突然告られたんだから。

俺は彼女を促すように、視線を真っ直ぐ捉える。

「・・・・・何で急に。」

「俺さ、君に一目惚れしたみたいなんだよね・・・っつうか、一目惚れしたんだ。だから、俺と付き合ってほしい。」

長い長い沈黙――――いや、そんなに長くなかったかもしんないけど、俺にはとてつもなく長い時間に思えた。

・・・・・何でもいいから、何か言って欲しいんだけどな。

「あの・・・さ・・」

「あの、ごめん。あまりにも突然だったから・・・でも、ごめん。あなたとは付き合えないわ。」

ガツン。と鈍器で頭を殴られたような衝撃が俺の中を走り抜ける。

考える。と言う言葉も無く、あなたとは付き合えないときた。

あなたとは・・・あなたとは(・・・・・)。とは、どういう意味だ? 他のヤツなら考えてもいいって事か?

「え・・・何で俺とは付き合えないわけ?」

「・・・・・色々噂を聞くから。とっかえひっかえだとか、遊び人だとか・・・・・私は遊ばれるのはごめんだわ。だからあなたとは付き合えない。」

うっわ・・・はっきり言ってくれるね。

遊ばれるのはごめんだってか。俺だって君にそう思われるのはごめんだっつうの。

ここにきて、くだらねぇ俺への噂が邪魔をする。

「ちょっと待てよ。それってただの噂だろ?俺は遊びで女の子と付き合った事は1度もない。周りにいる子とだって学校でしか話してないんだぞ。俺の事信じてよ。」

「信じてよって言われても、私はあなたの事何も分からないもの。信じようがないじゃない?付き合って遊ばれて捨てられるのは嫌。」

「だから、遊んだ事は一度もねぇって。俺の事何も分からないんだろ?じゃぁこれから知っていってくれたらいいじゃん。俺は本気で君に惚れたんだ。本気で付き合いたいって思ってる。」

「そんな事言われても困る。ごめん・・・私、行くね。」

彼女は俺の脇をすり抜けると、図書室へと姿を消した。

彼女の甘い香りが微かに残り、俺の鼻をくすぐる。

何だよ・・・あんなのただの噂じゃねぇか。

はぁ・・・俺、付き合ってた彼女に振られた時より遥かに桂木 恵子に断られた事の方がショックがでけぇよ。

俺は力なくその場にしゃがみ込むと、壁に背中をもたれさせる。

暫くそこで呆然としていると、修吾が俺のカバンを持ってやってきた。

「・・・・・カバン。」

「お。サンキュー・・・。」

「玉砕か?」

「あったりぃ。見事に散ったね・・・あなたとは付き合えねぇだとさ。」

「ご愁傷様。」

「そりゃどうも。・・・・・はぁあ。俺、マジで遊び人になっちまおうかな。」

ため息混じりにそう呟くと、バーカ。と修吾がぼそっ。と呟く。

・・・・・バカね。もうちょっと時間をかければよかったか?そんな焦って告ったから、俺という男を理解してもらえずに断られちまったんだよな。

でも、ちょっと待てよ。俺が告ってからあの子が返事を出すまでに時間あったよな?

それってもしかして・・・返事を迷ってた?

こういう勘って鋭い俺。今回もこの感は当たってるハズ。

と言う事はもっと押せばもしかしたら振り向いてくれるかもしれないじゃん。

俺は一筋の光を見つけると自然と体に力が漲ってくる。

「修吾・・・。」

「おぉ?」

「俺、諦めねぇ。アイツが振り向くまで告り続けるわ。」

「クスクス。やるねぇ、お前も。」

「ったりめぇだ。ここで引き下がっちゃ男が廃る。一度断られたからってすごすご尻尾巻いて引き下がれねぇっての。俺の本気見せてやるよ。」

「あっついねぇ。」

闘志を剥き出しにする俺に向かって、クスクス。と笑い声を立てながら修吾が俺の横にしゃがみ込む。

「おぉ。ガンガン燃えてっぞ!俺に触れて火傷すんなよ?」

「・・・・・くだらねぇ。」

「・・・・・。」

ったく、コイツはノリがイマイチよくねぇな。

言ってる俺が恥ずかしくなってくるっつうの。

「お前、もうちょっとノリ良くなれよ。」

「お前のノリにはついていけねぇって。」

「・・・どういう意味だよ。」

「そういう意味・・・っつうか顔真っ赤だぞ、お前。」

「うっうるせぇっての!お前がそんなスカシてっから、俺が恥ずかしくなんだろぉが。」

おかしそうに笑いながら真っ赤な顔を指摘されると、更に俺の顔が赤くなる。

・・・・・何で俺が赤くなんなきゃなんねぇんだよ。

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