*Obedient You




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放課後、俺は図書室へ向かった。

そりゃ教室に会いに行けば一番手っ取り早いけどさ、それだと丸分かりじゃん?

それに何かと他の女の子がうるさいし。

今日もどっから噂が流れたのか、俺が彼女と別れた事を聞きつけた女の子達が数人やってきて、別れたのなら自分と付き合って。と言われた。

いや、もう俺他に好きな子できたし・・・って言えたら楽なんだけど、それを言ってしまえば俺が告る前に邪魔されそうで言えなかった。

俺は適当に言葉を繕い、今は誰とも付き合う気はない。と言う事だけ伝えた。

実際は桂木 恵子と付き合う気は無茶苦茶あるんだけどね、それはまだ内緒。

俺が図書室に入ると、修吾と戸田さんが並んで本を戸棚に戻してる所だった。

お〜おぉ〜。修吾のヤロー何だかんだ言って戸田さんの近くにいるじゃねぇか。

俺は込み上げてくる笑いを抑えながら近くの椅子に腰を下ろす。

「戸田さん、高い所の本は俺が戻すから貸してね。」

「うっうん。どどっどうもありがとうございます。」

・・・・・貸してね。・・・ね?・・・ありえねぇっ!!

ぶははっ!何だよ、修吾のヤロー。あの子の前だと喋り方変わってんじゃねぇか。

俺は堪らず机に顔をうずめて笑いを堪える。

暫くそうやって笑いを堪えていると、バンッ!という音と共に頭に激痛が走る。

「いっっってぇぇぇぇ!!」

「笑ってんじゃねぇよ。」

俺は頭を押さえながら顔を上げ、修吾の顔を確認すると再び笑いがこみ上げてくる。

「なっなにっ・・・ぐふふっ・・すんだよっ!!いてぇじゃねぇか・・・ぶははっ。」

「笑うか文句言うかどっちかにしろよ。」

「じゃぁ笑う。」

「じゃあ殴る。」

俺が再び笑い出すと、今度は軽く頭をしばかれた。

俺と修吾がそうやってふざけあってると、美菜終わった?と言う声と共に、俺の待ち人桂木 恵子が図書室に入ってきた。

その姿を見ただけで、高鳴り出す俺の鼓動。

うっわ・・・すげぇ。ドキドキしてきた。こんなの今までなった事ねぇのに。

俺は自分の異変に戸惑いながら、桂木 恵子を視線で追う。

と、向こうも俺に気づいてニコッ。と笑いかけるとこちらに歩み寄ってくる。

「あら、柊君じゃない。待ち合わせ?」

「おっおぉ。修吾を待ってんの・・・桂木さんは?戸田さん待ち?」

知ってるクセにそんな質問を投げかける。

いつの間に移動したのか、俺の横にいたはずの修吾が戸田さんの横でまた本を戻し始めてた。

・・・・・行動早ぇな。

「うん、そうなの。美菜待ち。今日はね、一緒に帰りにカフェ寄って帰ろうって約束してるのよ。ほら、駅前にあるでしょ?かわいいお店。」

「あぁ、あそこ?あっこのパフェうまいんだよね。」

「そうなのそうなの!あそこのね、イチゴパフェが好きなんだぁ甘酸っぱくて。」

「そうなんだ、イチゴパフェ好きなんだ。俺もイチゴ好きぃ。ならさ、今度俺とも一緒に行こうよ。パフェ食いに。俺、奢っちゃう。」

我ながら上手い事話を持って行けたんじゃねぇの?と俺自身に拍手を送りながら目の前にいる彼女に視線を移す。

「クスクス。奢ってくれるの?でも、あなたと一緒に行ったら彼女とかこの学校の女の子とかに恨まれそうだから、その言葉だけ貰っとくわ。ありがと。」

クソッ。やっぱ断られたか。

まぁそう返ってくるかな、とは思ったけど・・・ま、でもこんくらいじゃ俺は諦めないけどね。

「ぐははっ。そうきたか・・・っつうか、俺彼女と別れたし。振られちゃったんだよね、昨日。」

「うっそ・・・ごめん、余計な事言っちゃったね。」

「いや、いいよ別に。ざ〜んねん、傷心の俺をパフェと共に慰めてもらおっかな。って思ったんだけどねぇ。」

「あははっ!柊君なら沢山慰めてくれる子いるでしょうに。」

――――俺は君に慰めてもらいたいんだけどな。

そんな想いを込めて熱い視線を送ると、それに気づいたのか少々戸惑った表情で俺から視線を外す。

「そういえばさ、桂木さんは彼氏いんの?」

「へ?あぁ・・・別れたわ。」

「うっそ。なんで?」

「浮気されちゃったのよ。付き合ってた彼、違う高校なんだけどね。その彼と同じ高校の子に取られちゃったの。」

「俺ならそんな事絶対しないのに。」

「え?」

「あ、いや別に。そっか・・・いねぇんだ。」

彼女に彼氏がいないと分かると、途端に一刻も早く自分のモノにしてしまいたいという衝動に駆られる。

だってよ、こんだけ可愛いんだぜ?うかうかしてたら他のヤツに取られちまうって。

うっわ、どうしよ。今、告っちまうか?いや、待て待て。早すぎるだろ、いくらなんでも。

あぁ、でもそんな躊躇してたら他の虫が付いてしまうじゃねぇか。

俺が頭の中で葛藤をしていると、美菜、ちょっとお手洗いに行ってくるね。と言う彼女の声が耳に届く。

――――やっぱ今言わねぇとダメな気がする。

俺はトイレに向かう彼女の背中を見つめながら、意を決して自分も立ち上がり、後を追うように図書室を出た。

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