*Obedient You




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――――1年前。

「はぁあ。中学ん時から付き合ってた女いたろ?あいつにさぁ、昨日フラれっちまったよ。高校離れたじゃん?あっちで好きなヤツが出来たんだってさぁ・・・冷てえよな、俺結構本気だったのによ。修吾ぉ、今日慰めて。」

登校途中、俺は中学の時から付き合っていた女の子にフラレ、結構落ち込み気味になりながらいつものように修吾と肩を並べて歩く。

ふざけてヤツの体に抱きついたら、思いっきり嫌そうな顔をして突き放そうとしてくる。

・・・んな嫌そうな顔しなくてもいいじゃねぇか。って、俺も何気にキモイけど。

「・・・・・気持ち悪い。だぁぁっ!もう寄ってくんな。そんなに寂しけりゃ、こっちで他に好きな女作ればいいだろ?高校入学して2ヶ月経つけど、いっつも周りに女ハベラシてるじゃねぇか。そっから選べば?」

「お前ね・・・その言い方だと、俺がプレイボーイみてぇじゃねぇか。あれは女の子達が勝手に寄ってくんの。お前だってその超クールな上っ面を止めれば女の子寄ってくんぞ?っつうかさ、中学ん時から思ってたけど、お前女に興味ねぇの?」

修吾とは中学入学してから何かと意気投合して、結局気づけば高校も一緒の無二の親友となってた。

だからコイツの事は大概分かるんだけど、いっこ分からねぇのがヤツの『女』の趣味。

いや、趣味っつうかコイツから女の話なんて聞いた事ねえし、中学ん時もすっげぇモテてたクセに全部断っちまいやがって・・・もしかして、ホモ?なんて疑問すらたまに浮かぶ。

「は?別に・・・お前に関係ねぇだろ?」

「いやぁ。関係ねぇけどさ。あまりにも女に関心なさすぎだからさぁ・・・ホモ?とかって思ったりしちゃったりして。」

「・・・・・バカか、お前。」

「うわっ!人の事をバカって言いやがった。心配してやってんだろ?何なら女友達紹介してやろうか?」

「いらねぇし、俺の心配する前に自分の事何とかしろよ。お前さ、女に振られて落ち込んでんのもいいけど高校で何て噂たってるか知ってんのか?」

「あぁ・・・何だっけ。女をとっかえひっかえ?遊び人?クスクス。笑えるっつうの。」

噂は噂。だから何だってんだよ。俺が一度でも遊んだ所見たことあんのかって言いたいね。

いつだって付き合ってる子一筋なのにさ。

どうせあれだろ?いつも俺の周りには女の子がいるもんだから、誰かが嫉んでそんなくっだらねぇ噂を流してやがるんだって。

俺は誰とでも仲良くしたいタイプだから女でも男でも誰とでも気軽に話す。

けど、それは学校だけでの話でプライベートでは一切そんな事はしない。

だから俺はそんな噂、全然気にしねぇけど。だってありえねぇから、遊び人なんて。

俺と付き合った子が俺を信じてくれればそれで充分。

「何笑ってんだよ・・・・・あ。」

「?どうしたんだよ修吾。」

駅から学校までの道程で、修吾が突然声を漏らし、視線をすぐ先に歩く女の子2人組に向ける。

おや、珍しい。修吾が女の子見て反応するなんてよ。

俺らの歩く速度が早いのか、彼女達が遅いのか徐々に距離が近づき、ちょうど肩が並ぶ辺りまでになると修吾が2人の内の一人に声をかける。

「戸田さん、お早う。」

「ぅわっ!わわっ・・・なっ長瀬君・・・おっお早うございます。」

戸田さんと呼ばれた女の子は、修吾の声にビクッ。と飛び上がって顔を真っ赤に染めながら挨拶を交わす。

ぐははっ!今、この子10cmくらい飛び上がったんじゃねぇ?

その子の仕草があまりにも可愛らしくて、思わず笑いが込み上げてくる。

戸田さんね・・・そういや最近修吾の口から、その戸田さんと言う苗字をよく聞く気がするぞ?

確か図書委員で一緒になった子で何かとドジる面白い子って。

へぇ。この子の事か・・・・・ふ〜ん、そうか。コイツ、こういう子が好きなんだな。

さっきの戸田さんの仕草と、修吾の好みの女の子を知ってしまったという事が重なって更に笑いがこみ上げてくる。

「・・・・・お前何笑ってんだよ。」

「ぶははっ。別に・・・戸田さんだっけ?おっはよぉ〜!!」

「へっ?!あっ・・おっお早うございます。」

「うははっ。かっわいぃ反応・・・で、隣りの君もおっはよぉ・・・。」

視線を戸田さんの隣りに立って俺と同じように笑ってる女の子に向けて、一瞬ドキンッ。と俺の胸が高鳴る。

戸田さんよりも少し背が高くて華奢な体。茶色く染めた髪にふわっとしたパーマをかけていて、どこかフランス人形を思い起こさせるような整った顔立ち。

俺は、その彼女に暫し釘付けになっていた。

・・・・・こんな可愛い子、うちの学校にいたんだ。

「クスクス。お早う、柊君でしょ?私、桂木 恵子って言うの。よろしくね。」

「うっわ。何で俺の名前知ってんの?」

「そりゃねぇ。うちの学校であなたを知らない女の子はいないと思うけど?いろんな意味で。」

・・・・・いろんな意味ね。まぁ、ああいう意味も含めてって事だろうな。

俺は思わず桂木さんの言葉に苦笑を漏らす。

結構はっきり物言うタイプみたいだな、この子。

だけど俺・・・もしかしたらこの子に。

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