*Obedient You




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柊君が家先に来るようになってから、1ヶ月程が経った。

今日が過ぎれば明日からは夏休み。

夏休みに入ってしまったら、彼ももう諦めるだろう。

そう思いながら、玄関で入念に身だしなみのチェックを入れて一息ついてから、玄関のドアを開く。

・・・・・やっぱり、今日もいる。

私はいつも通り、彼の横を無言で通り過ぎた。

「・・・・・なぁ、どうしたら俺の気持ち分かってもらえる?どうしたら俺は遊びなんかじゃなくて君に毎日会いに来てるんだって分かってもらえるんだよ。」

背後から追いかけてくる彼の声。

その声に立ち止まり、私はゆっくりとその方に体を向ける。

「・・・あなたも、どうしたら分かってくれるの?いつまで・・・私をからかったら気がすむの?」

「からかう?・・・からかうだけで毎日毎日俺が通ってると思ってんのかよ。これだけでもどんだけ俺が君に本気になってるか分かんない?」

「困らせないでっ!・・・どうして?どうして・・・私なのよ。他にもっと・・・。」

「その言葉は聞き飽きたよ。他の女なんて関係ねぇだろ?俺の事を嫌いなら嫌いってはっきり言えばいいじゃん。いつもみたいにはっきりとさ。いつもいつも『困る』って言葉だけじゃ俺は諦めらんねぇんだって。」

「・・・・・あなたなんて・・・大っ嫌いよ・・・。」

彼から視線を外し、俯きながら小さく言葉を吐き捨てる。

そうよ・・・遊び人のあなたなんて嫌いなのよ。

・・・だからもう私に付きまとわないで。

「それ、俺の目を見て言ってよ・・・そしたら俺、諦めるからさ。」

柊君は私の目の前まで近づいてくると、私の顎に手を当てて自分の方へ向けさせる。

絡み合う彼との視線。

途端に、痛いくらいに心臓がドクドクと高鳴り出す。

やめてよ・・・そんな目で私を見ないで。

「からかわないで・・・どうしてあなたを信じられる?・・・いつもいつも周りには女の子達がいて、誰とでも気軽に話しているあなたを・・・惑わせないでよ・・・苦しめないで。」

「・・・・・それは俺が好きだって事?好きだけど信じられねぇって事?信じさせろって事?」

「分からない・・・分からないの。だから・・・もう止めて。私に付きまとわないで。」

分からない訳じゃない・・・もぅ充分分かってる。

私は柊君を好きになってる。だけど、好きになっちゃダメなの。

まだ私はあなたを信じてないの。だから・・・。

私の言葉を聞いて、意外にも彼の顔から笑みが漏れる。

「じゃあ、俺がどれだけ君に本気で惚れてるか証明するよ。」

「へっ?」

突然の彼からの言葉に、自分の口から素っ頓狂な声が漏れた。

「俺が桂木 恵子にどれだけ本気になってるか・・・君がどれだけ俺に惚れてるか証明してやる。」

「私があなたに惚れてるって・・・一言も言ってない。自惚れないでよ。」

・・・見透かされてる。

そんな気がした彼からの言葉。私はその言葉にたじろぎながら、視線を少し泳がせる。

「俺にはバンバン感じたね、君からの想いが。自惚れじゃねぇって事も証明してやる。俺も君から離れらんねぇし、君も俺から離れらんなくなるから。」

そう、意味ありげな笑みを向けられて、自分の眉が訝しげに寄る。

「ちょっと・・・あなた何する気?」

「ん?それは学校でのお楽しみ。ありがと、俺すっげぇ力が湧いてきた。今なら誰を敵にしても怖くねぇ。君も俺の全てで護ってやるから・・・だから。」

お楽しみって・・・本当に何をする気なの?




・・・・・信じられない!!

今朝の柊君の言葉から、何をしでかすのかと思っていたら。

終業式の真っ最中に、彼は体育館の壇上に駆け上がり、校長先生からマイクを奪うと真っ赤になってぶっ倒れそうな事を叫んで来た。

「俺は桂木 恵子が好きだぁ〜!!他の女には興味がねぇ。だから俺と付き合え!!」

なっ、なっ・・・何て事をするのよ!!

壇上から叫ばれる自分の名前に頭の中が真っ白になる。

「OKしねぇと、何度でも叫ぶぞ!桂木 恵子が好きで好きでたまりません。本気で惚れてるんだって!!恵子?返事しろよ。桂木・・・・」

わっ!わっ!!やっ、やめてぇ!!!それ以上、人の名前を叫ばないでよっ。

こんな強硬手段に出てくるなんて・・・卑怯じゃない。

だけど、ずっと黙っていると何度でも叫ばれそうだったから、私は真っ赤になりながら彼に向かって叫び返す。

「だぁぁぁっっ!!わかった、付き合う!付き合うから早く降りてよっ!!!何度も人の名前呼ばないでっ。恥ずかしいでしょ!!」

・・・負けた。

私のその言葉を受けて、柊君はニヤッ。と笑うとそのまま壇上から飛び降り、真っ直ぐに私の元へ駆け寄ってくると思いっきり強く体を抱きしめてきた。

「俺の本気、分かってくれた?これでもうお前は俺から離れらんねぇぞ。」

「もぅバカっ!恥ずかしいじゃない・・・ホント、バカよあなたって。」

ホント、大バカ。こんな方法じゃなくても他にいっぱいあるでしょう?

だけどこの時、彼を信じられる。そう思える自分がいた。

本気で私の事を想ってくれてるんだって事を。

「そ、俺ってバカだからお前一途にしか生きらんねぇから・・・だから覚悟しろよ?恵子。」

「こんな事して・・・ちゃんと護ってよね。責任取ってよ?遊びだったら許さないから。」

「お前は俺が一生かけて護ってやる!遊びなんかじゃねぇ、俺の本気手に入れたから。」

そう屈託の無い微笑を向けられて、クサイ台詞。なんて思いながら自分も笑みを浮かべる。

クサイ台詞でも、彼だから許せちゃうんだけど?

「直人のバカ。」

小さく彼の腕の中で呟くと、クスクス。と笑いながらその腕に力が篭った。




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