*Obedient You




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「じゃぁ、行って来るねぇ。」

次の日、私はいつも通り美菜を迎えに行く為に玄関から中に声をかけてからカバンを肩にかけ直す。

と、玄関先に思いもよらない人物が視界に入り心臓がドクンッ。と高鳴る。

「えっ?!ひっ柊君・・・どうしてここに?」

なに・・・なんでココに柊君がいるわけ?

「・・・・・言ったろ?俺、本気だって。君からOKの返事が貰えるまで俺は毎日でも君を迎えに来るから。」

「そっ、そんな事言われても困る。私は朝、美菜と一緒に学校に行く事になってるから・・・それに何も私じゃなくても他に沢山あなたを好きな女の子いるでしょう?」

「俺は君以外興味ねぇから・・・例えどんだけ他の女の子に好かれようとも、君に想われてないなら意味がない。」

「私は・・・・・あなたに興味なんて・・・ない・・から。」

「それでも俺は毎日来るから。」

「・・・・・困る。」

ドクドクと高鳴る鼓動を必死で抑えながら、私は俯いて彼の横を通り過ぎた。

なんなの・・・どういうつもり?

毎日だなんて、冗談でしょ?

そんな事されても、私は首を縦に振らないわよ・・・私はあなたの周りにいる女の子と同じじゃないの。

私は・・・私、一人を見てくれる人じゃなきゃ嫌なの。

暫く素気無い態度で接してたら、諦めるよね。ううん、その前に明日はもう来ないかもしれないし。

そう思って、私は軽く息を吐く。


だけど、1週間経っても2週間経っても彼は学校がある日は毎日私の家の前で待ってる始末。

最近じゃ目を合わせる事も無く、無視してるって言うのに次の日もまた待ってる。

ホントに・・・本当にあなたは本気なの? 本気で私の事を好きだって言ってくれてるの?

私の中で、少しずつ柊 直人と言う人を信じてもいいかも。そんな、思いが湧いてくる。


「・・・今日も柊君、来てたの?」

移動教室で、教科書を抱えて廊下を歩きながら横に同じようにして教科書を抱えながら美菜が歩く。

「んー。来てた。」

「ねぇねぇ、それって本当に恵子に本気だって事なんじゃないの?」

「でもねぇ。」

「もぅ、恵子ってばぁ!恵子だって柊君の事少しずつ気になり始めてるんでしょ?」

「えっ!?私が?そっ、そんな事ないわよ。」

「だってぇ。最近、柊君が今日も来てたって言う恵子の顔、嬉しそうだよ?」

「なっ?!そっ、そんな訳ないじゃない。私がいつ嬉しそうな顔をしたって言うの?」

「さっき。」

「・・・・・。」

そ、そんな嬉しそうな顔してたかしら。

思わず自分の顔が赤くなった気がして、こほん。と咳払いをする。

そりゃぁ、悪い気はしないでしょう?毎日毎日、無視されながらも自分を待っててくれてるだなんて。

あの柊 直人がだよ?嬉しくないわけないじゃない・・・って、嬉しいの?

「ねぇ、恵子。柊君の事、信じてあげたら?」

「信じる・・・ねぇ。」

呟きながら、何気なく視線を飛ばした先に何人かの男女の塊が廊下の脇に出来ているのが映る。

・・・・・あ。

その中に見知った顔を見つけて、ドクンッ。と一つ心臓が高鳴る。

――――柊 直人。

グループの中でも一際目立つその存在。

彼の横にはやっぱり数人の女の子が寄っていて、仲良さそうにじゃれ合ってるように見える。

それを見た途端、私の中からフツフツと何かが湧き上がってきたように思えた。

「・・・なによ。」

「え?」

ぼそっ。と小さく呟くと、横で美菜が不思議そうに私の顔を覗きこんでくる。

「美菜・・・むやみやたらに人の言う事を信じちゃダメよ。特にプレイボーイが言う言葉はね!」

「え・・・ちょっ、恵子??」

私は言葉を吐き捨てて、廊下を曲がると足早に教室に向かった。

少しでも、信じてもいいかも。なんて思った自分が情けない。

やっぱり彼は軽い男なのよ。

あんなに楽しそうに他の子と話すんだったら、別に私と付き合わなくてもいいじゃない。

毎日毎日、健気を装って迎えに来ないでよ。

そんなに人の事をからかって面白い?

あぁ、もぅ。すっごくムカついてきた。

・・・・・って、何で私がムカつかなきゃいけないわけ?

どうだっていいじゃない・・・彼の事なんて。

柊 直人の事なんて。そうよ、どうだっていい事。誰と話していようが、誰と仲良くしてようが、私には関係のない事。

だけど・・・なによ、なによ。本気って言ったクセに。

本気って言うんだったら、他の女の子に気安く話しかけるような事しないでよ。

そんな態度だから、『遊び人』だなんて言われちゃうのよ?

人を苦しめないでよ・・・惑わせないでよ・・・ちゃんと、信じさせてよ。

だって私、少しずつあなたの事・・・・・。

あぁ、もぅヤダっ!!

「・・・・・恵子?」

「え・・あ、何?」

「どうしちゃったの、急に。」

「別に・・・今の美菜も見たでしょ?やっぱり、アイツ軽い男なんだって。」

「え?今のって・・・柊君?・・・普通に話してたように見えたけど・・・。」

「どこが普通なのよ。嬉しそうに女の子と話しちゃって・・・。」

「クスクス。恵子ってばヤキモチ?」

ニヤケながら美菜が私の顔を覗きこんでくるもんだから、キッ。と睨むと、んぐ。と、彼女が口を噤む。

「ヤキモチって、何で私がヤキモチを焼かなくちゃいけないのよ。別に彼は私の彼氏じゃないんだから、ヤキモチ焼く必要がないでしょ?」

「だってぇ。恵子ってば怒ってるんだもん。」

「怒ってないわよ。ムカついてるの!人に本気だー。とかって言って毎日鬱陶しくも通ってくるクセに、他の女の子とも仲良くしちゃって。どう本気って取れって言うの?ちゃんちゃらおかしいわ。」

「だから、それって・・・。」

私の言葉に何かを言おうとした美菜を制して、手を取ると、ほら行くよ!って無理矢理引っ張った。




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