*Obedient You




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「美菜もさぁ、長瀬を気に入ってるなら『長瀬君、好きですー。』って言って告白しちゃえばいいじゃない。」

みんなに挨拶をしながら教室に入り、未だに頬を赤く染めている美菜に向かって意地悪く笑ってみる。

「そっ、そんなぁ。『好きです。』だなんて恐れ多くて言えないよ。私みたいなドジな人間が長瀬君のような人を好きになっちゃダメなんだってぇ。迷惑だよ。」

「もー、美菜はどうしてそう恋愛に対して引っ込み思案なのよ。そんなの告白してみなきゃ分からないじゃない。『好きです。』って言っちゃいなよー。」

自分の事は棚に上げて、他人に対してはこんな事がスラスラと出てくるんだから私ってタチ悪いよね。

思わず自分の言葉に苦笑を漏らしながら、後から歩いてくる美菜を見ると更に顔を赤く染めながら困ったような表情を見せる。

「そんな簡単に言わないでよぉ。それに・・・まだ「好き」かどうかって分からないんだもん。そりゃっ、一緒に委員の仕事をする時はすごく嬉しいんだけど。それだけだもん。」

「そんな事言って、手遅れになっても知らないからね?誰かに先越されちゃうわよー。」

「いっ、いいもん!長瀬君には綺麗で頭がよくて・・・あっ!恵子なんてどう?すっごくお似合いだと思うけど。」

「やめてよー。何が嬉しくて親友の好きな男と付き合わなくちゃなんないの?それに私、無愛想な男嫌いなの。一緒にいてて面白くとも何ともないじゃない。私は明るい男がタイプなの。」

「んー。じゃぁ、柊君みたいな?」

柊 直人・・・ねぇ。

今朝挨拶を交わした彼の顔を頭に思い浮かべながら、うーん。と唸る。

確かに明るいし、顔も好みだし一緒にいてて楽しそうだけど・・・それ以前に彼には大きな問題があるでしょうに。

「んー。嫌いではないけれど、プレイボーイはお断り。遊ばれて捨てられるのなんて、私のプライドが許さないわ。」

「えぇ!ひっ、柊君てプレイボーイなの??」

「なによ、美菜。知らなかったの?入学当初から結構有名だったじゃない。いっつも休み時間になると彼の周りは女の子でいっぱいらしいよ?で、その子達をとっかえひっかえ弄んでるらしいって。」

「嘘ぉ。そんな風には見えないけどなぁ。」

「えー、思いっきり見えるじゃない。あれだけハンサムで人懐っこいのよ?女の方が放っておかないって。」

「そりゃそうかもしれないけど・・・信じられない。」

驚いた表情のまま私を見る美菜に、その話は置いといて。と、机にカバンを置きながらニッコリと彼女に笑いかける。

「ねぇ、美菜。今日の放課後さ、駅前のカフェに寄って帰らない?パフェが食べたいのよねぇ。」

「わぁ!うんうん、帰ろう帰ろう。あ、でも私今日委員会なんだよね・・・ちょっと遅くなってもいい?」

「別にいいわよ。暫く教室で時間潰してから適当に図書室に迎えに行くから。」

「うん、りょーかい。」

「で。今日はその愛しの彼も一緒なの?」

再び美菜に意地悪く微笑みかけると、落ち着きかけてた彼女の頬が再び朱色に染まる。

「もっ、もぉ!!だーかーらー。愛しの彼じゃないってぇ!!!」




学校帰りに美菜と良く行くカフェ。

そこのイチゴパフェがすっごく美味しいの。

でも、今日は気分を変えてチョコバナナパフェにしようかなぁ?なんて事を考えながら、図書室へと向かう。

「美菜、終わった?」

そう声をかけながら図書室に入ると、いつもは見かけない顔をそこで見つけた。

・・・・・柊 直人。

こんな所にいるなんて、珍しいわね。なんて思いながら、視線が合ってしまったので思わず笑顔を作ってみたりする。

「あら、柊君じゃない。待ち合わせ?」

「おっおぉ。修吾を待ってんの・・・桂木さんは?戸田さん待ち?」

「うん、そうなの。美菜待ち。今日はね、一緒に帰りにカフェ寄って帰ろうって約束してるのよ。ほら、駅前にあるでしょ?かわいいお店。」

「あぁ、あそこ?あっこのパフェうまいんだよね。」

「そうなのそうなの!あそこのね、イチゴパフェが好きなんだぁ甘酸っぱくて。」

柊君と会話を交わしながら視線を美菜達に向けて、肩を並べながら本を戸棚に戻している2人に思わずニヤリとしてしまう。

あらあら、中々あの2人いい雰囲気なんじゃないの?なんて。

美菜ってばすっごく嬉しそう。もー、目がハートマークじゃない。

少し2人に気を取られていると、柊君が会話を続けるから慌てて意識をそちらに戻す。

「そうなんだ、イチゴパフェ好きなんだ。俺もイチゴ好きぃ。ならさ、今度俺とも一緒に行こうよ。パフェ食いに。俺、奢っちゃう。」

・・・はぁん。こうして女の子をいつも誘ってるわけね。

他の女の子ならそれで騙せちゃうかもしれないけど、私は違うわよ?

私は彼の言葉に対して、余裕を持ってニッコリと微笑む。

「クスクス。奢ってくれるの?でも、あなたと一緒に行ったら彼女とかこの学校の女の子とかに恨まれそうだから、その言葉だけ貰っとくわ。ありがと。」

「ぐははっ。そうきたか・・・っつうか、俺彼女と別れたし。振られちゃったんだよね、昨日。」

「うっそ・・・ごめん、余計な事言っちゃったね。」

昨日彼女に振られたのに、もう他の女に声をかけるって訳?

さすが・・・とでも言いましょうか。

内心そんな事を思いながらも、申し訳なさそうな表情を浮かべると、尚も彼は調子のいい事を言ってくる。

「いや、いいよ別に。ざ〜んねん、傷心の俺をパフェと共に慰めてもらおっかな。って思ったんだけどねぇ。」

「あははっ!柊君なら沢山慰めてくれる子いるでしょうに。」

嫌味の意味も込めて大きく笑うと、彼は黙って私に視線を合わせてきた。

――――ドキンッ。

な、何?その熱い眼差しは・・・。

私は何故か彼から送られてくる眼差しに心臓がドキドキと高鳴ってくる。

ずっと彼と視線を合わせてられなくて、戸惑いながら視線を外すと彼が話題を変えてきた。

「そういえばさ、桂木さんは彼氏いんの?」

「へ?あぁ・・・別れたわ。」

「うっそ。なんで?」

「浮気されちゃったのよ。付き合ってた彼、違う高校なんだけどね。その彼と同じ高校の子に取られちゃったの。」

実際の話を少し割愛してるけど・・・大まかには間違ってないでしょ?

――――俺ならそんな事絶対しないのに。

私の言葉に対して、ボソッとだったから、はっきりとは聞こえなかった彼の声。え?と、思わず聞き返してしまう。

「あ、いや別に。そっか・・・いねぇんだ。」

ほっ、としたような笑みを少し浮かべる柊君を見ながら、未だに心臓が鳴り止まない。

『俺ならそんな事絶対しないのに。』そう、聞こえたような気がしたけど・・・どういう意味?

このままこんな会話を彼としていたら、自分の心臓が持たないわ。

そう思い、私は逃げるようにお手洗いに向かった。




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