*Obedient You




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私は付き合ってる相手に対して『好き』って言葉をいつも言えないでいる。

どうして?って聞かれると困っちゃうんだけど、なんか恥ずかしいじゃない?

決して相手の事を好きじゃない訳じゃないのよ。もちろん、好きだから付き合うんだもん。

だけど、『好きって言ってよ。』って相手から敢えて言われると、どうしてもはぐらかしちゃうのよね。

だから、いつも最終的には『お前の気持ちが分からねぇ。お前、俺の事好きじゃねぇだろ?』そう言って去られてしまう。

1ヶ月前にもそう言われて、彼は同じ学校の女の子と付き合いだしてしまったの。

どうしてなのかしら・・・どうして、『好き』って言葉が素直に自分の口から出てこないんだろう。

次に付き合う人には、ちゃんと言おう。って思ってるんだけど・・・・・。




「あーぁ。どっかにいい男、いないかなぁ。」

気持ちよく晴れ渡った空を見上げながら、私の口から漏れた言葉。

いつものように学校までの道程を私と肩を並べて歩いていた美菜が、それを受けて、クスクス。と小さく笑う。

「恵子ぐらい綺麗だったらすぐに見つかると思うよ?」

「すぐって言っても前の彼氏と別れてからもう1ヶ月だよ、1ヶ月!!あき過ぎだわ。」

1ヶ月前に突然付き合ってる彼氏から別れ話を告げられて、聞いた時は相当落ち込んだけど、まぁ二股かけられるよりマシか。って思って、綺麗さっぱり別れてあげた。

それから何度かこの学校の男の子から告白されたんだけど・・・どうもなぁ。って感じで。

「もう1ヶ月って、まだ1ヶ月でしょぉ?私なんてまだ一度も男の子と付き合った事なんてないんだよ?」

私がため息混じりに呟くと、美菜は少しぷくっと頬を膨らませてそう呟く。

「美菜はね、男に対して敏感になりすぎなのよ。そんなに構えなくても、取って食われやしないって。もっと気楽に構えなさいよ、あんただって充分可愛いんだからさぁ。」

「だってぇ、どう接していいのか分からないんだもん。普通に話そうと思っても緊張しちゃって上手く話せないし・・・無理ぃ。」

「あんたねぇ、そんな気弱な事言ってたら愛しの彼、誰かに取られちゃうわよ?」

「いっ、愛しの彼って・・・誰よぉ。」

「・・・長瀬 修吾。」

私は意地悪く美菜に向かって呟くと、彼女は途端に頬が赤く染まる。

・・・分かりやすすぎだって。ほんと、この子ってば嘘をつけない体質よねぇ。

「うぇっ?!なっ・・なんで、その名前。」

「だって、美菜の口からよくその『長瀬』って名前出てくるもん。今日は長瀬君に色々助けてもらったぁ。とか、明日長瀬君と一緒なんだけど、また迷惑かけちゃったらどうしよう?とかって。長瀬って言ったら、あのプレイボーイで有名な柊 直人とは正反対のクールで二枚目な男で有名な長瀬 修吾でしょ?美菜も何だかんだ言って結構面食いよねぇ。」

私はこの学校でもカナリ有名な2人の男を思い浮かべる。

人懐っこくて、遊び人と言う噂が耐えない柊 直人と、クールで冷たいと言う噂の長瀬 修吾。

プレイボーイな方はオススメできないけど、長瀬の方なら・・・まぁ、クールなイメージが強いけど固そうだから美菜を応援してもいいかしら?

「なっ?!そっ、そんなんじゃないもんっ!!その・・こんなドジな私に色々と親切にしてくれるから。ついつい目が行っちゃって。」

「それを恋って言うんじゃないの。知らないわよー、うかうかしてたらあの二枚目、誰かに取られちゃうって。」

「そっ、そんな誰かに取られるって・・・私が付き合えるような人じゃないってぇ。」

プルプルっと首を可愛らしく横に振りながら、謙遜する美菜を見て思わず苦笑が漏れる。

あぁ、もうホントにこの子は。押しが足りないって言うか、ナンと言うか。

美菜だって結構男の子にモテてるんだけどなぁ。それに気付いてないから未だに彼氏が出来ないでいるんだよ?

美菜を見てると背中を押してあげたくなるんだけど、当の本人が周りに厚い壁を作っちゃってるもんだからどうしようもない。

何かいいキッカケがあればいいんだけど・・・。




そんな事を考えながら美菜と一緒に歩いていると、ふと誰かが美菜に声をかけてきた。

「戸田さん、お早う。」

「ぅわっ!わわっ・・・なっ長瀬君・・・おっお早うございます。」

その声の主に途端に真っ赤に頬を染め上げて、美菜は飛び上がって挨拶を交わす。

あらら、噂をすればナンとやら?

私は美菜の隣りで優しく微笑む長瀬 修吾をじっと眺める。

へぇ。間近で見ると本当に綺麗な顔をしてるのね。

けど、私の中のイメージとしては無表情な男って感じだったんだけど・・・なんだ、優しく笑えるんじゃない。

こんな顔を毎回見せられたら、美菜が好きになるのも分かるわ。

美菜の可愛らしい反応に、クスクス。と笑っていると、長瀬の横にいた彼よりも少し背の高い人物が美菜に声をかけてから、私にも声をかけてくる。

「隣りの君もおっはよぉ・・・。」

出たわね、プレイボーイで有名な柊 直人。

間近で見ると納得。長瀬が綺麗な顔なら、柊君は男気溢れるハンサムな男って感じかしら。

背も高くてガタイもいい。ハンサムな中にも可愛らしく笑う一面もあって、屈託の無いその笑みで気軽に声をかけられたら・・・どんな女の子でも落ちちゃうわよね。

私は美菜に対する笑いをそのままに、彼に向かってニッコリと微笑む。

「クスクス。お早う、柊君でしょ?私、桂木 恵子って言うの。よろしくね。」

「うっわ。何で俺の名前知ってんの?」

「そりゃねぇ。うちの学校であなたを知らない女の子はいないと思うけど?いろんな意味で。」

私って結構何でも思ってる事を正直に言ってしまう傾向がある。(肝心な事は素直に言えないんだけど・・・)

私が彼の名前を知ってる事に驚いた様子を見せた彼に、オブラートに包みながらもそんな言葉が口から出る。

でも、間違ってないよね?有名は有名なんだから。




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