*あなたの温もり




「・・・・・何だよ、竹下。」

ユキちゃんは急に表情を静めると、私をかばうように一歩前に出る。

「相田先輩・・・その子が先輩の本気なの?そんな子が?」

「あぁ、そうだ。だったらどうだっつうの?」

「そんな急に別れるだなんて理解できない。私は相田先輩が好きなの。やっと付き合ってもらえるって思ってたのに・・・この、泥棒ネコ!!」

竹下先輩は、ツカツカと私の方へ歩み寄ると思いっきり鋭い目付きで私を睨みつけてくる。

「あのっ・・・その。」

「何が泥棒ネコだ。俺は一度だってお前のモノになった覚えはねえ。それに、文句があるならコイツに言うんじゃなく俺に言えよ。葵に指一本でも触れてみろ、俺は女だろうが容赦なくぶん殴る。」

「ユキちゃんっ?!」

「相田先輩、どう本気なの?この子にどう本気だって言うのよ。納得できない。」

次第に竹下先輩の瞳から薄っすらと涙が浮かび上がってくる。

私はその涙を見て、ずしん。と心が痛む。

「俺は一度だって竹下の事を名前で呼んだ事はねえよな?俺の事も名前で呼ばせてない。俺の名前を呼んでいいのは葵だけ・・・俺が名前で呼ぶのも葵だけだ。腕は組ませても手は繋がねぇし、抱いても好きだって言ってねぇ。キスは俺からは絶対しねぇし、俺のモノだって主張する事もしねえ。」

ユキちゃんはそこまで話してから、一つ息を付くと竹下先輩を見据える。

「ここまで言ってもわからないか?竹下にしてない事を俺は全部葵にやった。それだけ俺は本気で葵に惚れてるから。絶対誰にも渡したくない程、俺は葵に心底惚れてる。」

「だけどっ・・・。」

「竹下・・・最初に言ったよな、俺。絶対お前の事は本気にならねぇって。気分次第で簡単に切るからって・・・だから俺なんてやめとけって。だけどそれでもいいって言ったのはお前だろ?どれだけお前に泣き付かれても、俺の気持ちが揺らぐ事はねぇから。だからお前も他にいいヤツ見つけろ。竹下ならきっと見つかるから。」

「相田先輩・・・絶対私とは無理なの?」

「100%無理。」

竹下先輩は、その言葉を聞いてからじっと私を見て暫くその場に立ちつくす。

「その・・・そのキスマークも先輩がつけたの?」

「あぁ。昨日イッコ付けたら絆創膏で隠しやがったから、さっき増やした。何なら今この場で増やしてやってもいいけど?」

ユキちゃんはそう言うと、私の肩を抱き寄せて首筋に唇を這わし、首の横の中間辺りをペロッ。と舐めてからきゅっ。と軽く吸い上げる。

「あっやっ・・・ユキちゃんっ?!」

ユキちゃんは薄っすらと新たにつけた紅い印を軽く舌先で撫でる。

「・・・これで納得したかよ。まだならお前が納得するまでやってやってもいいけど?」

やってやってもって・・・私の意見は?

「も・・・いい。相田先輩の気持ち・・・分かったから。だけど先輩?私は納得したけど、他の子達がこんな子で納得するかしら。私だって相当嫌がらせを受けたわよ?その子に耐えられるの?」

「コイツの事は俺が護る。他の誰にも指一本触れさせねぇから。」

「・・・そぅ。まぁ、その子がどれだけ耐えられるか陰から見守らせてもらうわ。せいぜい頑張る事ね、葵さん?」

竹下先輩はそう言葉を残して去って行った。






「・・・ユキちゃん。竹下先輩・・・本気でユキちゃんの事好きだよ?」

「だから?」

「いっいいの?それで。」

「いいも何も、俺はお前しか考えらんねぇって言ったろ?お前がそんな事気にすんな。」

「だけど・・・。」

「今後この話題に触れたらバツとしてキスマーク新たに増やすから。」

「えっそっそんなぁ・・・。だけど、さっきのぶん殴るは酷いよ?」

「んなもん、言葉のあやに決まってんだろ?それぐらい怒るっつう事だ。」

「じゃぁ殴らない?」

「殴って欲しいのか?」

「だっダメダメ!絶対ダメ!!殴るなんて、絶対にダメ。」

私がぶんぶんと大きく首を振ると、ユキちゃんがおかしそうに笑う。

「クスクス。わぁってるよ・・・女を殴る程人間できてねぇ訳じゃねぇから。それよりも、お前の事の方が心配だな。」

「私の?」

「まぁ・・・さっきの竹下の言葉じゃねぇけど。結構俺と付き合うと他の女からの嫌がらせが多いらしいからな。耐えられるか?葵。」

「え・・・ユキちゃんが護ってくれるんでしょ?」

「さぁ。護りきれるかどうか・・・。」

その言葉に一抹の不安が過る。

「・・・・・怖いかなぁ。」

「クスクス。嘘に決まってんだろ?絶対何があっても俺が護ってやるから。安心しろ。」

「うん。でも、私もユキちゃんの事好きだからきっと耐えられるよ?」

「まぁ耐えてもらわなきゃな。なんせ俺は別れる気なんてねぇんだから。」

「ん〜・・・やっぱり若干の不安が・・・。」

ユキちゃんに向けて少し意地悪く呟くと、彼は肩を抱き寄せて軽く唇を合わせてから呟く。

「俺から離れらんねぇ身体にしてやるから。」

「ゆっユキちゃん?!」

「おら葵、学校行くぞ。」

真っ赤に染め上がる私の顔を見て、クスクス。と小さく笑うと、ユキちゃんは私に向かって手を差し出してくる。

昔と変わらない優しいユキちゃんの笑顔。

私はその笑顔に向かって微笑み返し、差し出された手に自分の手を重ねた。

掌から伝わるユキちゃんの温もり。

それは昔と変わらず、優しくて温かいユキちゃんの手だった――――。




+ + FIN + +






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