*あなたの温もり




――――次の日。

私は少し頬を赤く染めながら家を出た。

昨日、あの後ユキちゃんに何度も泊まって行けと言われたけど、少し出血もしていたから家に帰ってゆっくりとお風呂にも入りたかったし、すぐにお泊り。っていう気持ちにもなれなかった。

何と言うか・・・少しママに対して後ろめたい気分になってしまったりして。

けど、私とユキちゃんがこういう関係になったって知ったら、ママは泣いて喜ぶだろうけど・・・だって昔からママは、「将来はユキちゃんと結婚してね、そうしたらユキちゃんのママと親戚になれるから♪」なんて言ってるんだもん。

だけどママのいない間にそういう関係になっちゃったから、ちょっとね。

ユキちゃんは渋々ながら、私が帰る事を承諾してくれたけど、バツとして首筋にくっきりと紅い印を付けられてしまった。

『俺のモノっていう証拠』・・・らしい。

それは凄く嬉しかったんだけど、でもすごく恥ずかしい。

だから私は首筋に絆創膏を貼って学校に行く事にした。

キスマークも目立つけど、首筋の絆創膏も変に目立つ。

きっと見る人が見たら分かっちゃうんだろうな・・・沙智なんて特に。

あれだけやめておけと言われたユキちゃんとこうなっちゃった事、沙智が知ったら何て言うかな・・・怒られちゃうかな。

でもいいや。きっと沙智なら分かってくれるハズだもん。

そんな事を、ぼーっ。と考えながらエレベーターが上がってくるのを待つ。

「・・・お前、俺を置いて先に学校へ行こうとするとはいい度胸してんじゃねぇか。」

「うぁっ!?」

突然背後から聞こえてきた低い声に、私の体がビクンッ。と跳ね上がり、思わず背中を壁につける。

・・・だから何でいつも突然現れるの?

「ゆっユキちゃん!!」

「だから、朝誰かに会ったら先に言う事があんだろ?」

「えっ・・・あっ・・おっオハヨウ、ユキちゃん。」

「・・で?」

「・・・・・で?」

鸚鵡返しをすると、ニヤリとユキちゃんの口角が上がる。

「それは昨日までの挨拶だろ?今日からは違うだろうが。」

「違うって・・・何が?」

ユキちゃんは首を傾げる私の顎に手を添えて自分の方へ向かせると、そのまま唇を塞いできた。

「・・・・・っ?!」

ゆっくりとかき回される口内に、頭がぼぅっとなってくる。

「・・・これが俺と葵の挨拶。分かった?」

そんな急に無理。

そう言いたかったけど、私は呆然とユキちゃんを見上げたまま。

そんな様子の私から逸れて、ユキちゃんの視線が私の首筋で止まる。

「絆創膏なんて貼りやがって。それでキスマーク隠してるつもり?」

「だって・・・目立つんだもん。」

「目立たせる為につけたんだろうが。俺は隠していいとは言ってねぇぞ?」

「そんなぁ。」

私は開いたエレベーターにユキちゃんに続いて乗り込むと、ドアを閉めて1階のボタンを押す。

静かに動き出すエレベーター。

昨日とは違う雰囲気の沈黙が辺りを漂う。

何故か・・・すごく危険な香りがするんだけど。

私は昨日と同じように体を隅っこに貼り付けていると、ユキちゃんの腕が私の顔を挟んで両脇の壁に着く。

「隠せないようにしてやるよ。」

「ゆっユキちゃん?」

ユキちゃんはそう呟くと、唇を私の首筋に落とし、何箇所かをきつく吸い上げて紅い痕を残す。






「・・・こっこんなの困る!」

「もう付いちまったもん仕方ねぇじゃん?」

「やだぁ、もう。これで学校なんて行けないよ・・・。」

「じゃぁサボるか?」

「それはもっとやだぁ。・・・ユキちゃんのバカ。」

「お前が変な小細工するから悪いんだろ?消えかかってきたらまた付けるから・・・つっても新しいモノが増えるかもな。」

ユキちゃんは意地悪く笑うと、私の顔を覗きこんで来る。

小細工って・・・隠しただけなのに。しかも新しいのって・・・。

やっぱり少しユキちゃんのイメージが変わった気がした。

でも、よく考えてみれば昔はユキちゃんはそういう人だったような気もする。最近の冷たいイメージが強すぎて忘れかけていたんだ、きっと。

優しかったけど、意地悪だったユキちゃん。

やっぱり昔と変わってないのかも・・・。

少し昔のユキちゃんを思い出して、ふふっ。と自分の口から笑みが漏れる。

「・・・何笑ってんだよ。」

「え?・・・あ、ううん。別に。」

「ほぉ。彼氏の俺にも言えないわけ?」

「かれ・・し?」

まだ聞きなれない単語に微妙に反応してしまう。

「葵は俺の女になったんだろ?だったら俺はお前の男だろ・・・まさか嫌とか言うんじゃねぇだろうな。」

「そんな・・・言わないよ。だってずっとそうなりたかったんだもん。」

「ま、嫌っつっても聞き入れてやんねぇけど?・・・で、何笑ってやがった?」

「だから、そんな深い意味は無いって。ちょっとね・・・昔のユキちゃんを思い出してたの。」

「人の過去を思い出して笑うんじゃねぇよ。バツとして、また印増やすぞ?」

「そんなっ・・・ちょっと思い出してただけだもん。」

「笑ってたじゃねぇか。」

「笑ってないぃ。」

「笑った。」

お互いじゃれ合いながら、そんな事を言い合っていると、ふと視線の先に佇む人影が目に入る。

それを見た私の顔が一気に凍りついた。

「・・・・・竹下先輩。」

「・・・竹下?」






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