*あなたの温もり




目っ・・・目が重い。

瞬きする度、自分の睫毛が視界に映り妙な感覚。

私は男の子が到着するまでの間に幾度と無く鏡を手にして自分を映し出す。

・・・・・誰だ、これ?

「ねぇ、沙智。おっおかしくない?」

「えぇ?全然。すっごい綺麗よ、葵。あんたってやっぱり化粧栄えするタイプだったわね。すっごく似合ってる。ねぇ?」

沙智の隣に座ったクラスの友人達も口を揃えて、綺麗よ葵。って言ってくれる。

けど・・・ケバくない?

化粧品売り場のお姉さんが、綺麗に仕上げてくれた私の顔。

ファンデはあまり塗ってないものの、アイラインとやらも引かれてマスカラ?も塗って目がシバシバするし、眉毛もハサミで整えてくれて唇にはグロスをしっかりと塗ってくれて・・・お陰で飲み物を飲む時に緊張しそう。

なんか・・・大人になるって大変。

そんな事を思いながら、はぁ。とため息が洩れる。

だっダメダメ。ため息を付くと幸せが逃げちゃうんだった。

ユキちゃんの言葉を思い出し、ぐっとため息を喉の奥へ押し込む。

ちょうどその時、「お待たせ〜♪」と明るい声が聞こえて来て、数人の男の子が私達の前に現れた。






「うっわぁ。今日、超ラッキー。すっげぇ可愛い子揃い。」

「俺もみんなタイプ♪今日は楽しいコンパになりそうじゃん?」

男の子達は席に着くや否や、そんな言葉を口々にこぼす。

沙智が言ったように、カッコいい子達だとは思うけど・・・なんか軽そう。

中でも・・・

「おっ!俺、あの子タイプ!!なぁそっちと席かわって。俺、その子の席の前がいい。」

「えぇ!!俺も狙いだったのに・・・まぁいいや。後からかわれよ?」

そう言って私の前にやってきた彼が一番軽そうなんだけど・・・。

私は一抹の不安を覚えながら、愛想笑いを浮かべる。

「俺、川村 武。よろしくね。君はなんて名前?」

「え、あの・・・井上 葵・・・です。」

「かっわぃぃ。葵ちゃんて言うんだ、名前も可愛いね。ね!彼氏とかいんの?」

「ちょっとちょっとぉ。そっちだけで盛り上がらないでよぉ。私達は無視なわけぇ?」

「あぁ、ごめんごめん。俺、すっげぇタイプなんだもん葵ちゃん。こっちの事はほっといて、そっちで盛り上がっててよ。俺は葵ちゃんと親睦を深める。」

言葉の末尾で私の方に向くと、にっこりと微笑みかけてくる。

あ・・・笑った顔がユキちゃんに似てる。

そう思うと心なしか胸の奥が、きゅん。となった。




川村君は最初受けた感じほど、嫌な人ではなかった。

話も面白いし、聞き上手だし。

2時間の間の殆どを川村君と話してて、私の中でも川村君への見方が変わってきた気がした。

「おっと、そろそろ2時間か。ここって2時間で出なきゃなんないんだよな?まだ時間あるし、カラオケでも行こっか。」

男の子の一人が腕時計に目をやり、席に座るみんなを見渡す。

「あ、いいね♪私、カラオケ行きたい〜!!ね、葵もまだ時間大丈夫だよね?」

「え・・あ、うん。今日はママ夜勤だから少しぐらい遅くなっても大丈夫。沙智が行くならいいよ。」

「オッケー。じゃぁ決まりね。ココは俺らが奢ってあげるよ。」

「えぇ!いいのぉ?」

「あったりまえじゃん。今日は綺麗な子ばっかだから俺らも気分いいんだよね。だから奢っちゃう。」

「きゃぁ。ありがとぉ!ゴチになります♪さ、葵。行こう!!」

「あ、うん。あのっ・・・ご馳走さまです。」

「クスクス。どうぞどうぞ〜。」

私が沙智に続いて席を立とうとした所で、不意に腕を掴まれる。

「え・・・?」

「ねぇ葵ちゃん。この後、俺ら2人だけで遊ばない?俺、もっと葵ちゃんの事知りたいからさ。」

「かっ川村君?・・・でも、沙智と一緒にカラオケ行くって・・・。」

「いいじゃんそんなの。それに、沙智って子が狙ってる男も彼女の事気に入ってるみたいだし。あいつらも途中で抜けちゃうよ?」

「えっ・・・えっ?!そっそうなの?でも・・・。」

「葵ちゃんは俺と2人になるの怖い?」

「あの・・・怖いってわけじゃ・・・ないけど・・・。」

「じゃぁ決まりね。俺が上手い事言ってあげるから。」

ね?、と微笑みかけられて、思わずコクン。と頷いてしまった。

・・・・・いっいいのかな。