*あなたの温もり




エレベーターが1階に着き、ドアが開くと少し先に女子高生が立っているのが目に映る。

あれ、確かあの人って1年先輩の竹下先輩だ。

すっごく綺麗で有名なんだよね・・・・・もしかして、竹下先輩って今のユキちゃんの・・・。

「あ、相田先輩オハヨウ!もぅ遅いよ〜。待ちくたびれちゃった。」

「竹下。オッス・・・なんだよ、朝からこんな所で。」

「やだもぅ。一緒に学校に行きたくてずっと待ってたの。一緒に行ってもいいでしょ?私達付き合ってるんだから。」

竹下先輩は綺麗な笑顔をユキちゃんに見せると、嬉しそうに腕を組む。

「あぁ・・・まぁいいけど。」

ユキちゃんもそっけなく答えながらも、別段嫌がる風でもなくそのまま2人で歩き出す。

・・・・・やっぱりユキちゃんの今の彼女なんだ。竹下先輩。

ついこの前まで、3年の高井先輩だったのに・・・。

『オッス』

――――私にはしてくれなかった挨拶。

私、ユキちゃんに嫌われちゃってるのかな。

2人の後姿を見送りながら、目頭がじんわりと熱くなる。






学校に着くと、先ほど目撃した2人の話題で持ちきりだった。

「ねぇねぇ、葵!知ってる?相田先輩、今度は竹下先輩と付き合い出したんだって!!」

『近所のおばちゃん』のように手をヒラヒラさせながら、同じクラスで最も仲のいい黒田 沙智(くろだ さち)が、私の元へ駆け寄ってくる。

「沙智、おはよう。じょっ情報早いね。ん・・・今朝見かけた。」

「そっかぁ。本当だったんだぁ・・・ねぇ、葵。あんな女ったらしの相田先輩なんて好きでいるの止めたら?」

私の暗い表情を見て、心配そうに沙智が顔を覗きこむ。

沙智には一応私がユキちゃんの事を好きだっていう事は言ってあるの。

「ん〜・・だよねぇ。」

「あおい〜。絶対付き合えたとしても苦労するって!泣かされちゃうよ?やめときなよ。」

「多分、付き合える事は絶対ないから・・・。だってユキちゃんに嫌われてるみたいなんだもん、私。」

「もぅ葵。そんな泣きそうな顔しないでよ。可愛い顔が台無しよ?」

「可愛くないもん。」

「クスクス。十分可愛いって!ね、葵。今日さ、K高校の子達と合コンあるんだけど行かない?」

「えっ?ゴウコン??」

「そう、合コン。葵もさ、相田先輩ばっか見てないで他の男の子に目を向けたら?今日来る子らってイケメンばっかりだからきっと葵も気に入る子がいるって!ね、行こう?」

「ん〜・・・。」

・・・合コンねぇ。沙智が言うように、他の子に目を向けるのもいいのかもしれないよね。

私は少し考えてから、うん行ってみる。と返事を返した。






学校が終わって、私と沙智は一旦着替えに帰ってから集合時間よりも少し早めに会うと、今日の為に近くのショップで色々と買い込んでいた。

「ん〜、葵は色が白いからオレンジのグロスなんて似合うんじゃない?」

「えぇ!グロスぅ?・・・私口紅なんて塗った事ないよ。大人過ぎない?」

「はぁ。そんな事言ってんの、葵ぐらいよ?みんなもっとお洒落してくるんだからさ、葵ももっと気合入れないと!!」

「気合って・・・。」

沙智オススメのオレンジ色のグロスを手に取り、軽く目の前で振ってみる。

・・・・・大人だ。

でも、ユキちゃんと付き合ってた人ってみんなお化粧して綺麗だったよね。

グロスとか塗ったら、少しでもその人達に近づけるかな・・・。

そんな事がふと頭を過ぎる。

「ねぇ、沙智。グロスとか・・・お化粧とかしたら、私でも綺麗になれるかなぁ?」

「おっ!葵もやっとその気になった?十分綺麗になれるわよ♪絶対葵って化粧栄えするタイプだと思うのよね。あ、ねぇ葵。あそこのお姉さんに化粧してもらおうよ!!今日はイケメン揃いだから気合入れないとね。」

「え・・・あ、うん。」

私は半ば強引に沙智に連れて行かれると、促されるままお姉さんの前に座る。

ねぇユキちゃん、私もこうやってお化粧して綺麗になれたら少しは私の方を見てくれる?

・・・バカだなぁ、私。これからコンパに行くって言うのに頭の中はユキちゃんでいっぱいだよ。

振り向いてもらえない彼の事ばかり・・・。






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