*あなたの温もり




「うっせぇ、クソばばぁ!一回言やぁ聞こえるっつうの!!」

俺がお袋に負けないくらい大きな声で返事を返すと、バンッ。と大きな音を立てて、部屋のドアが開く。

「クソばばぁとは何よ、クソばばぁとは!!まだそこまで年を取ってないわよ、失礼ね。」

「なんで、お前が先に入ってくんだよ!勝手に人の部屋へ入ってくんなっつったろーが。それに、部屋に入る前にはノックぐらいしろっつぅんだよ!!」

「な〜によ。突然入られたらマズイもんでもあるわけ?きゃー。いやらしいわね、この子ったら。」

「お前の考え付く事はそんな事しかねぇのかよ、変態ばばぁ。葵が来たんだろ?だったら葵を入れてさっさと出て行けよ。」

「葵ちゃんと二人っきりで何しようと思ってるわけぇ?あんた達はまだ高校生なんだから、健全なお付き合いをしなさいよ。」

「俺が葵とナニしようが関係ねーだろ。さっさと仕事行けよ、鬱陶しい。」

「葵ちゃん、こんなクソ生意気な坊主のどこがいいの?おばさんとしては、葵ちゃんのママと、そうなったらいいねぇ?って話してたから嬉しいんだけどさ・・・実際そうなると・・・どこが?って思うわけよ。」

「あははっ・・・ねぇ?」

ねぇ?じゃ、ねえよ、ねぇ。じゃ!!

お袋の隣で困ったように笑う葵に、若干のムカつきを覚えながら、さっさと入れ。と葵を促す。

「まぁったく。誰に似たのかしらねぇ、この傲慢な態度!」

「お前か死んだ親父しかいねーだろ!」

「お父さん・・・そうねぇ。お父さんも結構強引だったかしらん。熱烈に私に惚れちゃって、『お前が好きだ!俺について来い!!』なんて言われて押し倒されちゃって・・・きゃぁ〜♪」

・・・・・おめぇの話はいいから。

両頬に手を当てながら、うっとりと当時を思い返す母親に、ジロリ。と睨みをきかすと、はいはい、邪魔者は消えますよ。と、いやらしい笑みを浮かべながら、ドアの外に消えて行った。

・・・・・ったく。

俺は軽くため息を付くと、ドア付近で苦笑を漏らして立っている葵に、こっちに来るように手招く。

「おはよう、ユキちゃん。まだ寝てた?」

「ちょい前に起きたとこ。何だよ、葵。おめかししちゃって?」

ベッドの縁に腰掛け、葵を向かい合わせに俺を跨がせるように座らせてからそう呟くと、少し照れたように俺の首に腕をまわしてから頬を少し赤く染めて俯く。

「だぁって。今日はユキちゃんとお出かけする約束だったんだもん・・・おかしい?」

「すっげぇ可愛い。このまま襲っちまうか?」

意地悪くそう呟くと、途端に真っ赤に葵の頬が染め上がる。

「なっ?!やっやだぁ。ダメだもん・・・頑張って髪の毛もアップしてきたんだからぁ。」

「クスクス。気合入ってんな。お前、この髪型学校ですんじゃねぇぞ?」

「え・・・どうして?」

はぁ・・・あれだけ言ってもまだ気が付かねぇかな、このお嬢は。

自分が平均ラインにいると思い込んでるだけにタチが悪い。

あのコンパの時だってそうだ。

偶然ホテルに連れ込まれそうになってる葵に出くわした時、びっくりするぐらい綺麗になっていやがって。

自分の知らない所で変わろうとする葵を認めたくなくて、『似合わない化粧なんてしてんじゃねぇよ。』なんて憎まれ口を叩いてしまった。

ホント・・・油断してると何しでかすか分かんねぇから困る。

「どうして?って。他のヤローに狙われるからに決まってんだろ。何度言ったら分かるんだよ、お前は。」

「そんなのユキちゃんの思い過ごしだってぇ。誰も狙ってないよ?」

狙ってっから言ってんだろーが!

今までは「可愛らしい女の子」だったのが、最近俺のせいで(←ここ重要)妙に色っぽくなってきた葵は、以前よりも増して狙ってる奴が多くなったって俺の後輩達が言ってたんだからな。

葵に気付かれないように、阻止するのにどれだけ苦労してっと思ってんだ。

「とにかく、ダメなものはダメだ。分かったか?」

「う゛ー・・・分かったぁ。」

「んだよ、その返事。気に食わねぇ・・・襲うぞ、コラ。」

「ぬわっ!わっ、分かりました!絶対、絶対しません!!」

・・・・・その反応も多少気に食わねぇけど・・・まぁ、いっか。

「葵・・・昨日は何してた?」

俺は話題を変えて、向かい合った葵の背中にまわしてた片手を頬まで移動させて指の腹でそっと撫でる。

「んっ。昨日は・・・って、夜までユキちゃんと一緒にいたんだから、帰って寝るだけでしょぉ?何も他に出来なかったもん。」

「そりゃねぇ?昨日も激しかったから?」

「ゆっ、ユキちゃんっ?!おばさんに聞こえちゃう!」

昨日の事を思い出したのか、葵は真っ赤に頬を染めて、シーッ!と、人差し指を口元に当てる。

昨日も葵は俺の部屋に遊びに来てて、俺が我慢できずに押し倒してしまって・・・。

何度抱いても抱き足りない、葵の身体。

今までの女では感じた事のない抱いた後の満足感と、更なる欲望。

それが葵だからなのかどうなのか・・・多分、葵だからだろうな。

他の女じゃこうはならないのだから。

俺はクス。と笑い、葵の唇から指を外すと、代わりに自分の唇をそれに重ねる。

柔らかい感触が唇を伝い、触れ合う舌先が俺の脳を刺激する。

キスが深くなり、葵の口から色っぽい声が洩れ始めた頃、ドンドン!とドアを叩く音が部屋に響く。

途端に葵の身体がビクッと震え、顔が強張る。

『幸久ー。これから仕事行って来るからー。葵ちゃんと変な事しちゃダメよぉ!』

・・・・・クソばばぁ。まだいやがったのか。

「っるせぇな!今からそれをすっとこだろーが。邪魔すんなっ!」

『あらあら、それはお邪魔だったかしらん?間違っても子供作ったりしないでよねぇ。まだこの年でおばあちゃんだなんて、嫌よ私。』

仮にもお前は母親だろうが・・・もうちっとマシな言い方あんだろーが。

「さっさと子供作ってこの家から出てってやるから!出産費用はお前が出せよなっ!!」

「ゆっ、ユキちゃん!!!」

『きゃー。じゃぁ葵ちゃんのママに言っとかないとー。私達、おばあちゃんになっちゃうーって。じゃね、行ってきまーす。』

ケラケラ笑いながら出かけていく母親に、大きなため息が俺の口から洩れる。

・・・・・我が親ながら・・・。

「ユキちゃん・・・。」

「クスクス。何、マジに取ってんだよ葵。嘘に決まってんだろ?俺だってバカじゃねぇし、今の俺ではお前と子供を養って行けない事くらい分かってんよ。オマケにくそばばぁ2人付だし?だからちゃんと計算してヤってんじゃん。」

「・・・・・え。そうだったの?」

「・・・・・知らなかったのか?」

「うん。」

葵・・・お前って。




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