*恋は突然に… 「ついでだから、今日ここに部屋取ったんだ。」 食事を終えて出てきた所で、秀が私を振り返りそう微笑む。 ちょっと待ってよ。そんな簡単に言うけれど・・・高かったわよ?ここの宿泊代。 「取ったって・・・秀、あなた・・・――――」 ・・・そんな簡単に。と言葉になる前に塞がれる私の唇。 軽くだったけれど、久しぶりに触れる彼の心地よい唇に私の体が熱くなって次の言葉が出てこない。 「いいから、黙って付いてくる。いい?」 秀に肩を抱かれながらエレベーターに乗り、たどり着いた場所に私は言葉を無くす。 だってここって・・・・・。 「・・・・・・・・・ひゃっ!?」 呆然と立ちつくす私を横抱きすると、開けて?と秀が微笑む。 私はお姫様抱っこをされたまま秀からカード式の鍵を受け取ると、それを差し入れ鍵を開ける。 ランプが赤から緑に変わりガチャッと言う音が耳に届く。 「うわっ・・・・・。」 中に入って更に私の目が驚きで丸くなる。 だって、何コレ。このゴージャス極まりない内装・・・どっかの貴族の宮殿ですか? 応接室とされる所まで廊下があるんだよ?しかも大理石!! へっ部屋もいくつあるんだろう・・・何だかまるでお姫様になった気分。 そんな年甲斐もなくバカな事を考えながら秀に抱き上げられたまま部屋に運ばれて、 今度は驚きで口が開く。 だって、部屋の中に置かれた洒落たガラステーブルの上には真っ赤なバラの花束と、シャンパンにフルーツの 盛り合わせが乗っているんだもん・・・・・。 その顔のまま秀を見ると、おかしそうに笑ってから凄く優しい笑顔へと変わった。 「智香さん、誕生日おめでとう。」 「ど・・・して?やだ・・なにぃ?」 「クスクス。びっくりした?」 嬉しそうに微笑む秀だけど・・・私は頭がパニくってしまって。 「びっくり・・・した。これ、用意してくれた・・の?」 「うん、そう。智香さんのイメージっていうとバラじゃん?華やかで綺麗で、時には棘もあったり して?クスクス。だからさ、待ち合わせの時間までに花屋に行ってバラ買い占めて、ここの スイートルームにチェックインしてからこれらを飾って・・・。」 ・・・・・嬉しい言葉だけれど、時には棘も?ちょっと気になるフレーズよね。 あえてツッコミはしないけれど・・・。 だから、ちょっと遅れちゃったんだけど。と秀が笑いながら私を見る。 「だけど・・・何もこんな凄いスイートじゃなくても・・・。」 「今日は俺にとっても特別な日だからね。」 そうにっこりと微笑むと窓際まで私を抱き上げたまま足を進めて、ほら夜景がすっげぇ綺麗。と 静かに私を下ろす。 秀にとっても特別な・・・? 「わぁっ・・・・ほんとだ。素敵ぃ・・・・・。」 私は秀が発した言葉に少し首をかしげながらも、 食事をした場所とはまた違った角度から見える夜景に感嘆の声を漏らすと掌をガラス窓に当てて暫くの 間見とれていた。 私が夜景に見とれていると、不意に後ろから抱きしめられてガラス窓に当てていた右手の薬指に何かがはまる。 「・・・・・へ?」 ・・・・・指輪? 「これは俺達が付き合い始めて1年経った記念のプレゼントね。俺とお揃い。」 私の手に自分の手を重ね、そう呟いた彼の薬指にも少し幅広だけれど同じデザインのリングがはまっている。 私ってばサイテー・・・。 自分の誕生日の事ばっかり考えてて、今日が秀と付き合い始めて1年が経った大事な記念日だなんて 気が付かなかった。 「やだもぉ・・・私ってばサイテーじゃない。自分の事ばっかり・・・・・。」 「俺は智香さんの声が聞ければ充分、笑顔が見れればそれだけで満足だけど?」 「でも・・でもっ。こんなにまでしてもらってるのに、私ってば大事な秀との記念日を忘れちゃって たんだよ?ダメじゃない・・・いつもいつも私ばっかりいい思いをさせてもらって・・・ 私は秀に対して何もしてあげられてない。」 「そんな事ないって。俺はいつだって智香さんから元気をもらってるし、幸せももらってる。だから さ、これからもずっと傍にいてほしいんだ。誰でもない智香さんに。本物の指輪はまだ用意できない けど、頑張るからさ。待っててほしいんだ。」 秀は耳元で囁きながら、唇をそっとうなじに添って這わす。 ドキンと高鳴る心臓。 え・・・それってどういう・・・・・。 私は体を秀の方へ向けると、そっと頬に手をあてて彼を見上げる。 「しゅ・・・う?」 「俺さ、まだCafe始めたばっかで軌道には乗ってきたけど、やっぱまだ半人前なんだよね。 年齢的にもさ。だけど絶対智香さんにつり合えるような立派な男になってみせるから・・・それまで待ってて くんないかな。必ず迎えに行くからさ・・――――。」 ――――俺がもう少し『立派な男』になったら結婚しよう? そう耳元で囁いてくる彼の言葉に目頭が熱くなってくる。 「私・・そんな風に言ってもらえるような女じゃないよ?自分の誕生日の事で頭がいっぱいで、 大切な彼との記念日を忘れちゃうような女だよ?それでも私で・・・いいの?」 「智香さんがいいの。俺1年前に言ったよね?絶対離れてやんないって。今だってその気持ちは 変わらない。5年前からこの先もずっとずっと。」 私は溢れ出しそうな涙を隠すように、秀の胸に額を付ける。 「・・・・・秀。」 「待っててくれる?」 「・・・・・・・・・ぅっ。」 「智香さん?・・・・・・・・智香?」 顎に手を当て、上を向かされた目線の先に優しく見つめる秀の眼差しが涙でぼやけて映る。 秀の顔を見た事で、更に私の瞳から大粒の涙が溢れ出す。 「うん・・・・・待ってていいの?」 「待ってて・・・っつうか、待ってろ。俺が必ず幸せにしてやるから。」 今も充分幸せだよ?と微笑むと、それ以上に幸せにする。と私の瞼を拭いながらそっと唇を 重ねてきた。 |