*恋は突然に… ムカツク、ムカツク、ムカツクーっ!!! ナンなの、あの子!? 厚かましいにも程があるじゃない。 私はテーブルに置いてあった秀のタバコを手に取ると、口に咥えて火をつける。 久し振りに肺へ煙を送り、若干コホッとむせ返る。 はぁ……タバコ止めたのに。 何年か振りの煙は美味しくとも何ともなかったけれど、こうでもしなければイライラが落ち着かない。 吸った所でイライラが無くなる訳じゃないんだけど。 フーっと煙を吐き捨てて、その煙を目で追う。 暫くそうして怒りを抑えつつ、2本目に火をつけた所。 「――――タバコ…止めたんだろ?」 静かな秀の声が背後から聞こえてきて、自分の指からスッと抜かれる。 「……別に。いつ吸おうが人の勝手でしょ?あの子、一人じゃ寂しいんじゃないの?」 「もう寝たよ。昔っから早いんだ、寝るの。のび太君といい勝負。」 「……笑えない。」 「だよね。」 秀は苦笑を漏らしてタバコを口に咥えながら、私の隣りの椅子に腰掛ける。 「智香さん、ホント…ごめん。」 「何が?」 「色々と。」 「色々って何よ。」 刺々しく言い放つ私に、秀はフーッと煙を吐き捨て灰皿にタバコを押し付けてから視線を合わせてくる。 「ナツキが突然やって来て引っ掻き回した事も、泊まるって駄々を捏ねたアイツを帰せなかった事も、智香さんを一人にした事も…久し振りにゆっくり2人で過ごす時間を潰してしまった事も。」 分かってるんじゃない…全部分かってるのにどうしてよ。 どうして何も出来なかったのよ。 そんな私の非難めいた瞳から幾筋もの涙が零れ落ちる。 ずっとずっと抑えていた怒りが爆発しそうで、でも溜め込んでしまってるから涙となってそれが溢れ出す。 「泣かないで智香さん…本当にごめん。最初はすげぇ鬱陶しかったんだ、ナツキの事。折角2人でゆっくり過ごせる時間を潰しやがってって、そう思ってたんだけど。智香さんが風呂に入って寝に行ってしまってからナツキの話を聞いてて、ちょっと昔の俺と重なっちゃって、ついつい相談に乗っちまったって言うか応援したくなったっつうか。」 「昔の秀?」 「…ん。大学の頃の俺ね。あいつさ、今彼氏がいるんだけどね、ずっと中学の頃から好きだったヤツなんだって。中学3年間ずっと片思いで今通ってる高校もそいつが受けるって知ったから頑張って勉強して受かったんだ。でもさ、高校に入ってからそいつ…司って言うらしいけど、その司に彼女が出来たらしくて…」 私の頬を伝う涙を親指の平で優しく拭い取りながら、秀はゆっくりと話す。 「一旦は諦めようって思ったらしいんだけど、諦め切れなくてそれからも片思いを続けてたらしいんだ。で、司が彼女と別れたって聞いて意を決して告ったらしいんだけど、2回程フラれたらしい。」 2回もフラれたって……同じ子に2回も告白したの?すごい根性。 私には多分、そんな事できない。 「でも、ずっとずっと好きだったから諦められなかったらしくって、最後にもう一度告白しようって決めた日に司から逆に告られたんだって。いつの間にか好きになってたって言って。」 「そう……」 「そんなに頑張ってやっと手に入れたのにさ、ナツキのヤツつまらない事で喧嘩してもう別れてやる!とかって思って、そん時に思い浮かんだのが俺の顔だったらしい。」 何でそこに結びつくのかイマイチ腑に落ちないけど…… 「まぁ、多分ナツキのヤローは彼氏に他の男の影をちらつかせてヤキモチを焼かせて思い知らせてやろうってな感じで来たつもりなんだろうけど。こっちにしたらいい迷惑だよな。」 ホント……いい迷惑。 こっちはどれだけ振り回されてると思ってるの?ホンの数時間の間に…。 「だけど、ナツキはああ見えて司の事が好きで好きで仕方ないんだ。司の事を話してる時のアイツの顔ってすごい嬉しそうだったからさ。だから、言ってやった……ずっと求めてた大切なモノを手に入れたんなら絶対それを手放すなって。」 「……秀」 「折角頑張って手に入れたのに、些細な事ですれ違って手放してしまうのなんて勿体無いじゃん。俺だって智香さんと喧嘩する事はあるけど、一度だって離れようなんて思った事はない。やっと手に入れた大切な宝物だから。」 だからナツキも意地張ってないで男と仲直りしろっ。て言ったんだって、秀がそう言って優しく笑う。 そんな事話してたんだ、あの間。 私が言うのも変だけど、秀があの子の事を応援したくなったのも分かる気がする。 ……秀がそうだったんだもんね。 だけどさ。 寝室で一人ぼっちにされた理由は理解できたわよ…だけど、一つ未だに腑に落ちない点がある。 「でも、だったらどうしてさっき邪魔するみたいにベッドに来たわけ?秀は関係ないんでしょ?」 「あぁ。あれね…寝る前に言ってたけど、ナツキなりに考えた行動らしいよ。」 「どういう意味?」 「俺と智香さんが燃えられるように…だってさ。」 ………は? |