*恋は突然に…




冗談じゃないわよ。

何が嬉しくてナツキを家に泊めなきゃいけないのよ!!

秀が懇々と説教染みた事をして、帰れ。と何度言っても、「嫌」の一点張り。

しまいには泣き始めたナツキに秀の方が根負けして渋々泊まる事を承諾してしまった。

そこで私の怒りは大爆発。

夕飯もそこそこに切り上げて、無言のまま食べ終えたお皿をシンクに運ぶと自分の分だけさっさと洗って、一緒に入ろうとはってあったお風呂に一人で入り、そのままベッドに潜り込む。

秀はその間に何度か私に声をかけてきたけど、全くの無視。

大人気ないと分かっていながらも、どうしても許せなかった。

能天気に泊まれる事に喜ぶナツキも、彼女を帰す事が出来なかった秀にも。

分かってるわよ?秀が私の事だけを見てくれてるって事は。

だけど、そこじゃないのよ問題は。

本当に久し振りだったの。秀とゆっくり過ごせる夜は。

会社が終わるのを心待ちにして、秀が帰って来るのを今か今かと待ちわびて。

本当に楽しみにしてたのに……2人だけの時間を。

なのに、あの子のお陰でぶち壊し。

この先ずっと一緒に暮らして行くんだから、別に今日ぐらいって思えればいいんだけど。

私はまだまだそこまで成長は出来てない。

情けないけど、これが今の私。

子供のように楽しみを奪われて拗ねてるの……26にもなって。

でも、これってみんなもそうじゃない?こんな事で腹を立ててるのって私だけなの?

ムカムカと込み上げてくる怒りをどうする事も出来なくて、ベッドの上で何度も寝返りを打つ。

時折部屋の向こうから聞こえてくる少し甘えたようなナツキの声が余計にそれを増幅させる。

秀も秀よ。なんだってあの子の相手をしてるわけ?

ベッドで一人怒ってる私は放ったらかし?

最終的には色んな怒りがこみ上げてきて、思わず泣きそうになってくる。




――――どれぐらい時間が経ったか。

隣りの部屋から話し声が消えて、部屋の灯りも一緒に消える。

暫くしてからゆっくりと静かに寝室のドアが開き、自分の背後に秀の気配を感じる。

「智香さん……起きてる?」

「………………。」

起きてるけど、喋る気にはならない。

だから私は素無視をして、寝たふりを決め込む。

「ごめん、智香さん一人にして……愛してるよ。」

きゅっと後ろから抱きしめられて、コメカミに柔らかいモノが触れる。

何をされても今は怒りが治まらないらしい。

私は寝返りを打つフリをして、秀の体からスッと離れる。

「智香さん………?」

起きてる事に気付いたのか、少し悲しそうな秀の声。

もう一度私の体に秀の手が触れた時、またもや余計な存在が邪魔をする。

「秀ちゃ〜ん…一緒に寝てもいい?」

「ナツキっ……お前、何勝手に入ってきてんだよ。」

少し小さな声と共にナツキが寝室に入ってくる。

どこまで無神経なの、この子は!

ムカムカムカッ。と、込み上げてくる怒りを必死で抑え、瞳を固く閉じる私。

ガバッと慌てて体を起こす秀に、ナツキは甘えた声で話しかけてくる。

「だってぇ。秀ちゃんのTシャツ着てたら抱きしめてもらってるみたいで…久し振りに一緒に寝たいなぁ〜って♪」

「お前ね…一緒に寝てたのなんて小学校の頃だろうが。一緒に寝れるわけがなだろ?」

「いいじゃ〜ん、今日だけ。ね?」

「ダメ。さっきと話しが違うだろ。お前は向こうのソファで寝てろ。ナツキが眠れる場所はない。」

「えー。こんなに広いベッドなんだし、3人で寝ても大丈夫だってぇ。一人で向こうで寝るの寂しいもん。」

そう言うなり、ずかずかと歩み寄ってくると、私と秀の間に割って寝転がる。

「ナツキ!!」

「シー。智香さんが起きちゃうよ?早く、寝よ寝よ♪」

起きてるっつぅの!!

無理矢理ナツキに引っ張られてベッドに秀が寝転がると同時にガバッと体を起こす。

「智香さん!やっぱ起きて……」

「あー。智香さん、起きてたんだぁ。ねぇ、一緒に寝てもいい?今日だけだから。」

その甘えた声にプチン。と何かが切れた気がした。

この子を加えて3人で仲良く「川」の字でなんて寝れるもんですか!!

「どーぞ。お2人だけで仲良くベッドで寝たら?久し振りに一緒に寝るんですもんね。私は向こうのソファで寝るから。」

「ちょっ、智香さん…待って…」

「わ〜い。秀ちゃん、一緒に寝てもいいってぇ。やた♪今日は秀ちゃん独り占め。」

「ナツキ、何バカな事言ってんだよ!……智香さん!智香さんって!!ナツキ、離せって。」

「い〜や。今日は一緒に寝るんだも〜ん。」

私は寝室のドアをバンッ!と勢い良く閉めてダイニングの椅子に腰掛ける。

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