*恋は突然に…




「ねぇ、智香さん。そんな怒った顔しないでよ。ガキの頃の話だよ?」

無言のまま自分だけさっさと家の中に入ると、慌てた様子で秀が私の後を追いかけてくる。

「別に?怒ってなんかないわよー。愛しい許嫁のお相手でもしてあげたら?」

断りも無く、同じように家の中に入って来て相変わらず秀にべったりと引っ付いているナツキに視線を向ける。

この際、呼び捨てで呼ばせてもらうわ。

「あぁ!もぅナツキ!!離れろって……っつぅか、何でお前が家の中に入ってきてんだよ。」

「えぇ〜。だって久し振りに秀ちゃんに会えたんだも〜ん。一時も離れたくないー。」

「随分と愛されてる事だわね、秀。負けちゃうわー、私。」

何を意地になってるのか分からないけど、妙につっかかってしまう私。

……大人気ない。

だけどムカつくんだから仕方ないじゃない?

「智香さん…冗談でもそういう事言うの、マジで凹むから止めてよ。」

「あら。冗談なんかじゃないけど?若い子のパワーに負けちゃう。」

「だぁぁ、もぅマジ勘弁してよ。ナツキ…お前、男いるんだろ?麗香が前にそんな事言ってたけど。」

「あぁ、司?いいの!あんなヤツは…やっぱりあたしは秀ちゃんが一番って思うからぁ〜♪」

「お前…男と喧嘩したんだろ。だから、腹いせに俺の所に来たんじゃねぇの?」

「知らない。あ〜んなガキっぽい男はあたしには似合わないの。秀ちゃんくらいカッコよくて強くていい男じゃないと。」

その場を必死で取り繕おうと頑張ってる秀に、ナツキはニッコリと笑いながら彼の腕に絡みつく。

私はと言うと、やってらんない。と言うような態度でキッチンに足を運び、一生懸命秀の為に作ったシチューの鍋に火をかける。

するとまた秀が私の後を追っかけてキッチンに入ってくる…コブ付きで。

あんた達は金魚の糞か!

「もぅ!人の後をついてこないでよ。邪魔、邪魔!!」

「だから、機嫌直してって……」

「あ。ねぇねぇ秀ちゃ〜ん、トイレどこ?」

「そこ出て右!……智香さん?ちょー、マジで顔が怖いって……」

「トイレ借りま〜す」

「……智香っ!」

秀の腕を離れて、パタパタとドアの外へナツキの姿が消えると、秀に背中を向けていた私を自分の方に無理矢理向かせると、そのまま唇を塞いでくる。

「…んっ?!」

貪るような激しいキス。

その勢いに押されて、自分の体がシンクに当たり大きく体が仰け反る。

それでも秀からのキスが止まる事はなく、後頭部を手で押さえられながら口内深くで舌が絡み合う。

「んっ…んっ…」

ずるい…私が秀のキスに弱い事知ってるくせに。

口から漏れ始めた甘い息。

体から力が抜けて自然に秀の首に自分の腕がまわる。

秀はゆっくりと唇を離すと、熱く視線を絡めてくる。

「俺が愛してるのは智香さんだけだって、一番よく知ってるだろ?」

「………だって。微妙にムカついたんだもん、仕方ないじゃない。」

「あんな高校生のガキに?俺、智香さん以外に興味ないんだけど。」

「ガキって言っても立派な女よ?しかも可愛いし……若い。」

そう、最後の言葉をボソッと呟き秀から視線を外す。

どうも、それが私の中で一番のネックだったみたい。

秀よりも3つも年上だって事がまだ心のどこかに引っかかってたのかもしれない。

「若いって…確かに高校生は若いけど。智香さんだって充分若いじゃん。しかもナツキよりも断然可愛いし綺麗だし…何を気にしてるんだよ。」

「……別に。」

………なんて言ってみる。

「だったら何も問題はないよね?俺は智香さんを愛してるし、智香さんだって俺の事愛してくれてるだろ?」

「……………ん。」

「ちゃんと言葉で言って?」

「愛してる。」

「俺も、愛してるよ。明日久し振りの休みだから、俺すっげぇ浮かれて帰って来たんだからね?今日は寝かせてあげないから…そのつもりでいてよね。」

「やっ…もぅ。何言ってるのよ、秀。」

「本当は帰って即行で襲う予定だったんだ。変な邪魔が入って出来なかったけど…って、まだいるよな。はぁ、もうアイツは…早く帰らせよう。」

ジャーっ。と水の流れる音が聞こえてくると、秀は軽くキスをしてから私の体から離れる。

ホントに。あの子のせいで危うく秀と喧嘩しちゃう所だったわよ…って、私が勝手に怒ってただけだけど。

さっきまでの気持ちとは一変して、ふわふわとした気分の中。

落ち着きかけていた火の粉を再び燃えさせるようなことをナツキは無邪気に言ってきた。

「ねぇ、あたし今日は秀ちゃん家に泊まって帰るねぇ♪」

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