*恋は突然に…




引越し後の後片付けもようやく落ち着き、通常の生活に戻り始めた私達の生活。

明日は引越し以来、久し振りに秀が休みで、私も有給を取ったから久し振りに2人でゆっくりと過ごせる。

私は心躍らせながら夕飯の支度をしつつ彼の帰りを待つ。

秀、今日は早く帰れるからって言ってたけど・・・もう、帰ってくるかしら。

ふんふん♪、と鼻歌を歌いながら夕飯のビーフシチューの具合を確かめる。

ん、美味しそう。なんて自画自賛してると、ピンポ〜ンと玄関のチャイムが鳴る。

あ!帰ってきた。

玄関まで小走りで行き、確かめもせずにドアの鍵を開ける。

「おかえ・・・・。」

「こんばんは〜♪あ、秀ちゃんの彼女さんですかぁ?すご〜い、きれぇー。」

・・・・・誰、この子。

秀だと思いこんで開けたドアから顔を覗きこませたのは、見たこともない高校生の女の子の姿。

今どきの子らしく髪は金髪に近いくらいの色をしていて、毛先はまっき巻きの縦巻きロール。

学校帰りのそのままなのか、制服のままで。

スカートは超ミニで少し屈んだだけでも見えちゃうんじゃないかってくらいの丈。

化粧バリバリのその顔は、結構整っていて可愛らしい。

その可愛らしい子の口から、秀ちゃん。と言う彼の名前が出されて、俄かに私の眉が訝しげに寄る。

「あの・・・どちらさま?」

「あたし?あたしはぁ〜、小さい頃からの秀ちゃんの彼女でっす♪」

「・・・・・は?」

何言ってるの、この子。ちょっと頭がおかしいのかしら・・・。

今どきの女子高生の考える事は理解できないわ。なんて、頭に手を当ててるとちょうどタイミング良く秀が帰ってきた。

「智香さん、ただいま〜・・・何、お客さん?・・・って。うわっ、ナツキ?」

「お帰り、秀。この子知り合・・・・。」

「あぁぁ!秀ちゃ〜ん♪逢いたかったよぉ〜。」

ナツキと呼ばれた子は私の声を遮り、一際高い声を出すと嬉しそうに秀の首にしがみ付く。

なっ?!・・・なんなのよ、この子。

「おわっ!ナツキっ・・・危ないって。急に抱きついてくんなよ。それに、ここの場所・・・何で知ってんだよ。」

「だって久し振りなんだもん。うわ〜、変わってないねぇ秀ちゃんの香り。すっごい好きぃ。ん?場所はおばさんから聞き出したの。」

「ったく、お袋のヤロー。余計な事を。お前は・・・変わったな。すげぇ、化粧。まだ高校生だろ?んな化粧してどうすんだよ。」

「だってぇ。少しでも早く秀ちゃんに見合う女になりたいんだも〜ん。」

「へぇへぇ。またその話かよ・・・相変わらず懲りないね、お前も。」

「秀ちゃんがこっちを向いてくれるまで追いかけるつもりー。」

ちょっと・・・そこで盛り上がってる変な子と、秀。

私の事はそっちのけ?どういうわけか説明してもらいたいもんだわね。

ごほん。とわざとらしく咳払いを一つすると、秀が困ったような表情で私を見る。

「あ、智香さん?コイツ俺の幼馴染で橘ナツキって言うんだ。なーんか、知らないけど昔からこの調子で俺にくっついてきてさぁ。困ってんだよね…」

「や〜ん、困ってるだなんてひどぉ〜い!秀ちゃんは私の事をお嫁さんにしてくれるって言ってたじゃないぃ!!」

………お嫁さん?

その言葉に自分のコメカミにピキンッ。と筋が通ったのが分かった。

「はぁ?!んな事一度も言った覚えはねぇって!」

「言ったもん!」

「……いつだよ。」

「私が幼稚園の時。」

ロリコンか!!

私は未だに秀の首にしがみ付いているナツキって子に、冷やかな視線を送ってからそのまま秀を見る。

「あらー、秀。可愛らしい許嫁がいたのね。へぇ〜、幼稚園の子にプロポーズしてたんだ。ふーん。」

「なっ?!ちょっ…智香さん〜。誤解だってば…俺、言ってねぇもんそんな事。」

「言ったよぉ?ナツキが同じ幼稚園の男の子に苛められて泣いて帰った時に、秀ちゃんが優しく慰めてくれておっきくなってナツキがいい女になったら俺がお嫁さんにしてやるから、泣くなってぇ。」

「……………ぁ。」

秀の口から小さく漏れた声。

その顔……心当たりがあるわけね?

ギロっと秀を睨むと、彼は引き攣ったような笑みを見せた。

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