*恋は突然に…




大学時代の友人、幸田 和希と始めたCafe。

事の次第を和希に伝え、何とか今日だけは休ませてくれるように携帯から電話をする。

渋る様子の和希だったけど、俺の智香さんに対する想いを分かってるだけに渋々ながらも了解 してくれた。

きっちり、「今日の日当分、おまえの給料から引いておくからな。」と嫌味を言われたけれど。

そんなのどんどん引いてくれ。それで智香さんが俺のモノになるのなら。

俺は携帯を切ると、いつもとは逆の方面の電車に乗る。

昨日久美さんから教えてもらった智香さんの住所。

案外自分の家に近かった事に驚く。

俺が住んでいる所よりも一つ先の駅。会いに行こうと思えばすぐにでも会いに行ける距離だったんだ。

これからこの方面に行く事が多くなればいいんだけど・・・。

あ、でも駐車場があるなら車で通った方がいいか。その方がいろんな場所に連れて行ってやれる んだし・・・・・って、気が早いか。まだ、何も始まってやしないのに。

何浮かれてるんだ、俺。――――思わず苦笑が洩れる。

プラットホームに足を着き、一歩進む毎に自分の心臓が高鳴っていく。

なんか・・・学生時代に戻った気分だ。

俺は一旦気持ちを落ち着かせる為に、駅の近くの喫茶店に寄る事にした。

そこで落ち着いてから・・・智香さんに会いに行こう。



***** ***** ***** ***** *****




喫茶店を出て、教えられた住所を辿りながらすんなり来れたのはいいけれど・・・。

・・・マジ緊張してきたんですけど。

落ち着かせる為に入った喫茶店は何の意味もなさないじゃん。

俺は智香さんのいるであろうマンションのドアの前に立ち、胸に手を当てて深呼吸をする。

とりあえず――――人差し指を差し出し、ピンポ〜ン。とチャイムを鳴らしてみる。

・・・・・・・・・。返答なし。

あれ・・・もしかしていないのか。会社に行ったとか?否、でも昨日の久美さんの話では多分今日は会社 休むだろうって事だったから。

――――もしかして、まだ泣いてるとか?

そう思うと途端に無性に顔が見たくなって、自分の気持ちが急く。

ピンポンピンポ〜ンと軽快な音を連続して鳴らし、それでも返事がないので今度は ピンポンピンポンピンポ〜ン。と3回連続で押してみる。

・・・・・って、俺意地になってる?

そんな事を思っていると、突然インターフォンから、はい。と小さな声が耳に届く。

咄嗟の事でどう答えたらいいか分からず、

「あ。どうもぉ。こんにちはぁ。」

と、勤めて明るい声をかけてみた。

・・・・・何て間抜けな挨拶なんだ。自分が自分で嫌になる。

だけど突然何の連絡もなしに来てしまったけど、智香さん俺の事分かるのか?

そんな一抹の不安に駆られていると、何のご用件でしょう?と向こう側から声がかかる。

何のご用件・・・智香さんを慰めにきました、秀です。

って、おかしいだろ。うわっ。どうしよ・・・・・。

――――怪しまれない為には。

「えっとですねぇ、今日は羽毛布団のご紹介をさせていただきたくてですねぇ・・・」

何言ってんだよ、俺。こんなんじゃ余計に怪しまれちまうじゃねぇか。

言っておきながら自分のボキャブラリーの無さに、頭痛がしてくる。

『必要ありませんので・・・・。』

うわっ。ヤバ・・・切られる!!

「あ、待って。切らないで。じゃあ羽毛布団の変わりに僕を買いませんか?」

あぁ、もう破滅。何言ってんだ、俺。

だけど一旦口にしてしまった事を今更飲み込める訳がない。

俺はこの言葉を通す事に決めた。

「僕を買ってくださいよ。七瀬智香さん。」

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