*恋は突然に… 大学時代の友人、幸田 和希と始めたCafe。 事の次第を和希に伝え、何とか今日だけは休ませてくれるように携帯から電話をする。 渋る様子の和希だったけど、俺の智香さんに対する想いを分かってるだけに渋々ながらも了解 してくれた。 きっちり、「今日の日当分、おまえの給料から引いておくからな。」と嫌味を言われたけれど。 そんなのどんどん引いてくれ。それで智香さんが俺のモノになるのなら。 俺は携帯を切ると、いつもとは逆の方面の電車に乗る。 昨日久美さんから教えてもらった智香さんの住所。 案外自分の家に近かった事に驚く。 俺が住んでいる所よりも一つ先の駅。会いに行こうと思えばすぐにでも会いに行ける距離だったんだ。 これからこの方面に行く事が多くなればいいんだけど・・・。 あ、でも駐車場があるなら車で通った方がいいか。その方がいろんな場所に連れて行ってやれる んだし・・・・・って、気が早いか。まだ、何も始まってやしないのに。 何浮かれてるんだ、俺。――――思わず苦笑が洩れる。 プラットホームに足を着き、一歩進む毎に自分の心臓が高鳴っていく。 なんか・・・学生時代に戻った気分だ。 俺は一旦気持ちを落ち着かせる為に、駅の近くの喫茶店に寄る事にした。 そこで落ち着いてから・・・智香さんに会いに行こう。 喫茶店を出て、教えられた住所を辿りながらすんなり来れたのはいいけれど・・・。 ・・・マジ緊張してきたんですけど。 落ち着かせる為に入った喫茶店は何の意味もなさないじゃん。 俺は智香さんのいるであろうマンションのドアの前に立ち、胸に手を当てて深呼吸をする。 とりあえず――――人差し指を差し出し、ピンポ〜ン。とチャイムを鳴らしてみる。 ・・・・・・・・・。返答なし。 あれ・・・もしかしていないのか。会社に行ったとか?否、でも昨日の久美さんの話では多分今日は会社 休むだろうって事だったから。 ――――もしかして、まだ泣いてるとか? そう思うと途端に無性に顔が見たくなって、自分の気持ちが急く。 ピンポンピンポ〜ンと軽快な音を連続して鳴らし、それでも返事がないので今度は ピンポンピンポンピンポ〜ン。と3回連続で押してみる。 ・・・・・って、俺意地になってる? そんな事を思っていると、突然インターフォンから、はい。と小さな声が耳に届く。 咄嗟の事でどう答えたらいいか分からず、 「あ。どうもぉ。こんにちはぁ。」 と、勤めて明るい声をかけてみた。 ・・・・・何て間抜けな挨拶なんだ。自分が自分で嫌になる。 だけど突然何の連絡もなしに来てしまったけど、智香さん俺の事分かるのか? そんな一抹の不安に駆られていると、何のご用件でしょう?と向こう側から声がかかる。 何のご用件・・・智香さんを慰めにきました、秀です。 って、おかしいだろ。うわっ。どうしよ・・・・・。 ――――怪しまれない為には。 「えっとですねぇ、今日は羽毛布団のご紹介をさせていただきたくてですねぇ・・・」 何言ってんだよ、俺。こんなんじゃ余計に怪しまれちまうじゃねぇか。 言っておきながら自分のボキャブラリーの無さに、頭痛がしてくる。 『必要ありませんので・・・・。』 うわっ。ヤバ・・・切られる!! 「あ、待って。切らないで。じゃあ羽毛布団の変わりに僕を買いませんか?」 あぁ、もう破滅。何言ってんだ、俺。 だけど一旦口にしてしまった事を今更飲み込める訳がない。 俺はこの言葉を通す事に決めた。 「僕を買ってくださいよ。七瀬智香さん。」 |