*恋は突然に…




ティラリラリ〜ン♪...ティラリラリ〜ン♪...。

午前1時過ぎ、暗闇の中で突如として鳴り響く俺の携帯。

真夜中のこんな時間、辺りが静かなだけにやけに携帯の音が大きく聞こえる。

・・・・・誰だよ。こんな時間に。

俺は風呂も入り終わり、寝る準備万端でベッドの上に寝転んでいたから、その体勢のまま腕を伸ばし サイドテーブルで充電している携帯を取る。

暗闇の中、携帯の光に顔を顰めながらディスプレイ部を確認すると、大学の頃サークルで一緒だった先輩、 久美さんからのものだった。

「・・・もしもし?」

『あ、もしもし・・秀?久しぶり、ごめんね。こんな時間に・・今、大丈夫?』

「久美さん、久しぶり〜。全然俺はOKだけど・・・どうしたの、こんな時間に?」

『ね・・・あんたってまだ智香に惚れてる?』

――――トクンッ。と一つ心臓が波打つ。

ぼぉ。としていた頭の中、突然耳に届く『智香』と言う名前に俺はベッドから飛び起きると、携帯を 持ち替え耳を寄せる。

「智香さん?!・・・何かあった?」

『クスクス。素早い反応・・・さっきの対応とはえらく違うわね。』

携帯の向こう側で久美さんが、まったく。とでも言うように苦笑を漏らす。

久美さんには悪いけど、俺が惚れ込んだ女性の名前なんだ。ずっと大学の頃から5年間も片思いの 彼女・・・反応するなという方が難しい。

「ごめん。で、智香さんがどうかしたの?」

『ん・・さっきさぁ、電話があったんだよね。大学の時からずっと付き合ってた彼、いたでしょ?』

「あぁ・・・俊樹さん?」

大学の学食で、嬉しそうに彼氏である俊樹さんと話していた智香さんを思い出しながら呟く。

『そうそう。その俊樹とね、昨日別れたんだって・・・。突然言われたらしくってすっごく落ち込んで 電話してきたのよ。』

「えっ!?何で・・・別れたって。」

『ん〜・・何かね、俊樹に新しい子が出来たみたいなのよ。で、あっけなくフラれたって。』

マジかよ・・・なんで。何で智香さんと別れて新しい女を選ぶ?

ひでぇじゃん。智香さん・・・あんなに幸せそうに笑ってたのに。

男から見ても尊敬できる俊樹さんだからこそ俺、諦めてたのに・・・何で悲しい思いをさせるんだよ。

しかも明日・・いや、もう今日か。は、智香さんの誕生日じゃないか。何故そんな日に・・・何故そんな酷い事を?

自分の事のように気持ちが沈むと、自然と声のトーンも下がる。

「そう・・・なんだ。」

『・・・秀が落ち込んでどうするのよ。チャンス到来でしょ?あんた、私達が卒業する時に言って たわよね?もし智香が別れるような事があれば連絡ほしいって。その時は俺が護るからって。 あの気持ちはなくなった?』

「無くなる訳ないじゃん!!ずっと想ってたよ・・・あれから忘れようとして何人かと付き合ったけど 、どうしても智香さんだけは忘れらんなくて。誰と付き合っても上手く行かなかった。 ずっと心の片隅にいるんだ、今もまだ。」

『ほ〜んと、智香も罪な女よねぇ。こんな幼気な青年を泣かせちゃってるんだからさ。秀も男前なんだ から他の女の子が放っておかなかったでしょうに・・・でも、忘れられなかったんだ。智香の事。』

「忘れられる訳がないよ・・・。」

あんなにカッコよくて、綺麗で・・可愛い女性なんて。忘れられるはずがない。

『智香のどこに惚れたの?』

「全部。」

『・・・・・ご馳走様。じゃぁ、智香は任せていいわよね?俊樹の事忘れさせてあげられる?』

「もち!絶対忘れさせて見せる!!俊樹さんと付き合っていた頃より幸せにしてみせる。」

『クスクス。あんたが言うと、クサイ台詞もカッコよく聞こえちゃうわね。何で私に惚れてくれなか ったのよ。私だったらすぐにでも胸に飛び込んであげたのに。』

「・・・・・ごめん。」

『あはははっ!冗談よ。ま、頑張って。ちゃんと連絡してあげたんだから、その言葉通り智香を 幸せにしないとぶん殴りに行くからね。』

「クスクス。怖ぇなぁ。でも、了解。俺に任せて。」

智香さんの住所を教えてくれてから、じゃぁ、後は任せたからね。と言葉を残し、久美さんは携帯を切った。

あの2人の間には入れない・・・そう思って諦めてきた5年間。

智香さんの笑顔を失わせたくなかったから、彼女の幸せを願って遠くから見守ってきた。

でももう何も邪魔するものは無くなったんだ――――絶対、智香さんは俺が幸せにする。

俺は今日起きたら早速会いに行こうと心に決め、携帯を充電器に戻してベッドに横たえた。

智香さん・・・今頃一人で泣いているんだろうな。

――――今すぐ会いたい。会って抱きしめて・・・。

枕に顔をうずめ、逸る気持ちを抑えながら俺は眠れない夜を過ごす。



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