*恋のちから










♡ tactics 〜麗香の策略〜 ♡



狙い通りだわ!!和希さんは昨日お兄ちゃんに私の事を聞いたらしい。

それって少しでも私の事が気になりだしたって事よね。うぉっしぃぃ!俄然力が湧いてきたわ!!

ココからが瀬能高校一美少女、柳瀬麗香の腕の見せ所よっ。

見てらっしゃい、幸田和希っ!今日で完全に私の虜にしてみせるんだからっ。

とっておきの女の武器・・・あれを出す時が来たわ。男が弱いもの――――分かるわよね?

そういって意気をまく麗香。どんな作戦を企てたのだろうか・・・。

彼女は学校から帰るとすぐにシャワーを浴び、入念にお肌のお手入れをしてから腰まで伸びた髪を 綺麗にブローをしてセッティングをする。

この日の為に・・・和希さんと結ばれる為に、今までの私があったんだわ。

夜更かしもしない、お肌のマッサージ&パックは毎日かかさずやってる。腹筋だって毎日100回は やってるんだからっ。お菓子だって食べたいのを我慢して、極力最小限口にして。 鏡を前にしては笑顔の練習だって怠らない。

みんなは私の事を何もしなくても綺麗だからいいわね、って言うけれど。私だって日々努力して 好きな人に振り向いてもらう為に頑張ってるんだからっ!!

誰にも文句は言わせない。だって恋する乙女はいつだって全力疾走なんだからっ!!

またもや思い込みにどっぷりはまり込む麗香を他所に時刻は刻々と和希の仕事が終わる時間に 迫ろうとしていた。

いよぉぉ〜っし!!頑張るぞぃっ!!!

麗香は拳を堅く握り締め、玄関の姿見の前に立つ。

身だしなみ・・・OK!

髪の毛・・・大丈夫、天使の輪まで出来ちゃってるわっ。

下着・・・おっけい!何てったって勝負下着なんだから!

笑顔・・・よ〜っし。うん、今日もかわいい♪

最後は麗香お得意のベストスマイルで決めると、玄関から颯爽と飛び出した。



***** ***** ***** ***** *****




いつもより少し遅くなった帰り道。

2日前まで横をついて歩いていた華奢な存在を心のどこかで気にしながら、和希は自宅マンションに辿り着く。

8階でエレベーターを降り部屋までの廊下を歩いていると、自分の部屋の前で佇む一つの影が目に入る。

「・・・・・・おまえ・・」

思わず和希の口から声が漏れる。影の主は紛れもなく2日前まで自分を追い回していた麗香の姿。

だが、自分の声が聞こえた筈なのに麗香は俯いたままこちらを見ようとしない。

不思議に思い彼女に近づいてみる――――「・・・・・っ!?」

顔をあげた麗香の頬を伝う一筋の涙。

「はっ!?・・・おまっ・・何で泣いてんだよ。おわっ!!」

たじろぐ和希に麗香はきゅっと抱きつくと、顔を彼の胸にうずめる。

「ごめんね・・・迷惑なのは分かってたの。だから連絡も止めたんだけど・・でもっダメなの。諦められないの。 和希さんのことが・・・好きなの。」

「・・・・麗・・香?」

「クスっ。初めて名前で呼んでくれたね・・・すっごく嬉しいよ。」

麗香は顔を上げ、すっ。と鼻をすすり上げるとかわいらしく、えへっ。と嬉しそうに微笑む。

ヤバイ・・・――――そんな言葉が和希の脳を掠める。

目に涙を溜めながら自分を見上げ、嬉しそうに微笑む麗香の姿。

愛しさが急激にこみ上げてくる。

クソッ・・・しっかり惑わされてんじゃねぇか。

高校生如きに・・・こんな小娘なんかに――――この俺が。


――――・・・もう一押し。

麗香の心がそう呟く・・・僅かに自分にまわされた腕に力が入ったのを感じ取ると、彼女は彼の目を 見つめてこう囁く。

「キス・・・して。そうしたら・・・忘れるから。和希さんの事・・・諦めるから。」

ねぇ、和希さん。これは反対の意味だってわかってる?唇を重ねたが最後・・・あなたは私の虜に なる。

――――私があなたに恋の魔法をかけてあげる。


そっと触れ合う唇。

触れてはならないと自分の頭が警告を出しているのに、それとは裏腹に吸い寄せられる唇。

知ってしまったあの感触に、和希は自分を止められないでいた。

『忘れるから・・・諦めるから。』

彼女のそんな言葉が頭を過り、唇を重ねたが最後自分が離れられないような気がしてならなかった。

キスは次第に深いものに変わっていく。

麗香の腕が首の後ろにまわり、顔の角度を変えて和希の唇にそっと舌を這わす。

和希もそれに答えるように少し口を開き、麗香の舌を招き入れる。

絡み合う舌が何とも言えずいやらしくて、心地よくて・・・。

「んっ・・・ぁ。」

相変わらずの気持ちよさとキスの合間に漏れ始めた麗香の声が程よく和希を刺激する。

くそぉ・・・マジヤバイんじゃないか、この状況。

俺とした事が――――離したくねぇ・・・かも。

そんな心境になり始めた頃、ふと麗香の唇が和希から離れる。

「・・・ごめんね。和希さん、ありがとう。」

そう力なく微笑むと、麗香は目に涙を溜めながら和希の体からも離れそっと背を向けるとエレベーター がある方向に向かって歩き出す。

トクンットクンッと心臓が波打つ。


これでダメなら私も潔く諦めるわ。だけどそうじゃないよね?和希さん・・・お願い私を引き止めて。

ううん。彼なら必ず引き止める筈。だって魔法をかけちゃったんだもん。

もうすぐ聞こえる・・・・・・・『麗香』って・・・。


――――「・・・麗香っ!」


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