*恋のちから あくる日の昼休み、里美と一緒にお弁当を広げながら麗香の顔はこの上なく幸せそうな顔で。 「麗香ぁ、なぁにすっごく幸せそうな顔しちゃって。今朝聞きそびれちゃったけど、 昨日で3日経ったけど和希さんと何か進展あったの?」 「うふふっ・・・昨日ね、キスしちゃった。」 「きゃぁっ!ほんとぉ?やったね。じゃあ今日も和希さんの所行くんだぁ。」 「もう、行かないわよ。彼の所には。後は彼の行動を待つのみ!!」 麗香はおかずの唐揚げをパクっと口に放り込むと、ふんっと鼻を鳴らす。 「え・・・何で?付き合ってるんじゃないのぉ?」 「まだ付き合ってないわ。昨日のキスは事故みたいなものね・・・でもっ!ここからが勝負なのよ!!」 力強く頷く麗香の姿が里美には理解できず、きょとんと首を傾げて、勝負ぅ?と呟く。 「そう、駆け引きよ。押してダメなら引いてみろってね。よく言うでしょ?」 「・・・・・そんな初歩的な。」 「クスッ。初歩的が一番効果的なんじゃない。何の為にこの3日間毎日毎日朝昼夕の電話にメールに 頑張ったと思う?これからの勝負の為なんだから。和希さんも過去にいろいろと経験があるみたい だけど、こんな初歩的な攻められ方は初めてだと思うの。それに人間誰しも今まで続いた事が はたっと止まったら気になるでしょ?」 「それはそうだけど・・・どうして、そんな事が言えるの?」 「伊達に幾多の恋愛をこなしてきた訳じゃないわっ。和希さんの場合はこの方法が一番だと思ったのよ。 乳臭いガキって言われて黙っちゃいられないっての。 んんんんっもうっメラメラと燃えてきたわっ!!絶対虜にさせてみせるんだからっ!!! 恋する乙女の力を甘く見るんじゃないわよっ。」 お箸で綺麗に巻かれた玉子焼きを突き刺すとそれを持ち上げてふるふると手を振るわせる―――― れっ麗香・・・怖いって。 「でっでもでも・・・それで上手く行くかなぁ?和希さんも結構恋愛とかって慣れてそうだよ?」 「まぁ見てなさいって。必ず2日後には彼は何らかの行動を起こすわ。何てたって私の秘薬を味 わっちゃったんだから。」 「ひ・・やく?」 「そっ。私を思い起こさせる媚薬ってとこかしら?」 クスッと笑う麗香を見ながら、ふと里美は思うのであった。―― それってキスの事だよね?確かに麗香のキスは凄く上手いって聞いた 事があるけれど・・・焦らし作戦&キスで和希さんの気持ちが動くのかしら? ――――そんな単純な作戦で? 単純な作戦で――そんな里美の心配を他所に、しっかり翻弄されている男が一人。 その日から麗香は宣言通りピタッと連絡を止め、そして終わる頃に会いに行くこともしなくなった。 ――――四日目の朝、いつも鳴る筈の時間にメールも来なければ電話も鳴らない。 すっかり習慣化していた和希は少し気になったものの、別段取り立てて気にする事もなかった。 その日は店が忙しかったせいもあり、ゆっくり休憩を取れる時間が夕方になり、いつもの様に携帯をチェック ――――着信ナシ・・・メール無し。 ・・・・・・連絡無しか。何だ、やっと諦めやがったか? ほっと胸を撫で下ろすも、何故だか心のどこかで何かが引っかかってるような気分。 やっと本日の仕事を終えたのはいつもより少し遅い時間。――――うわっ。今日は遅くなっちまったな。 あいつ、待ってるんだろうか。最近結構寒くなってきたからな。 そんな事を考えながら表に出るといつもいる筈の場所に彼女の姿は無く・・・。 え・・・マジで諦めたのか!?マジで・・・うっし頑張ったぞ、俺。よくぞ耐えた。 自分を褒め称え、ガッツポーズが自然と出てくる。 明日からは晴れて自由の身かぁ――――と、心晴れ晴れなのに何故か心を過る空虚な風。 眠る時間までもベッドに寝転び何度か携帯の画面を開きセンター問い合わせなんぞをやってみたりする ・・・が、目に映るのは同じ画面ばかり ――――何やってんだ、俺。 慌てて目を閉じると、昨日交わしたキスの時の麗香の悩ましげな顔と唇に残る彼女の柔らかい感触 が浮かび上がる。 うわっ。何で出てくんだっ! ――――五日目の朝も何の音沙汰も無く、昼になってもメールさえも来ない。 何故か和希は携帯を見る回数が多くなっていた。 やはり、夜になっても麗香から連絡が来る事はなく・・・・・。 「なぁ・・・お前の妹、何か病気か?」 「は?元気にピンピンしてやがるぞ。何だよ。」 「いやっ別に・・・・・・あっ・・・と、俺の事何か言ってたか?」 「さぁ?俺、ここ2・3日彼女んとこ泊まってたからなぁ。携帯で何度か話したけど別に?」 そっか。と呟く和希に、ニヤリと秀が口元を歪める。 その様子に気づく事なく和希は、「お前の妹俺の事諦めたみたいだぞ。」と伝えた。 「ふ〜ん。あっそ。」 「『ふ〜ん。あっそ。』ってそれだけかよ。」 「他に何言えってんだよ。麗香がそう決めたんならそれでいいんじゃねぇの?それとも何か、お前 麗香に惚れた?」 秀はテーブルを拭きながら和希の顔を覗きこむ。 「はぁ?何で俺が小娘に恋心なんぞ持たなきゃなんないんだよ。やっとこさ、自由の身になって 清々してるってのに。」 「ほぉ。大したもんだね、麗香のキスを受けて心奪われないなんてよ。あいつも俺と一緒でキス 上手かったろ?あれで落ちなかったヤローはいないらしいぜ。」 大した事ねぇよ。と答えながら脳裏を過る麗香とのキスの場面。 確かにアイツのキスは上手いと思う。しかもあの綺麗な顔でされた日にゃ・・・・って、俺何言って んだ? 相手は高校生だぞ?んな小娘に心惑わされてるってのか??・・・・・・まさか、なぁ? 「麗香がお前の事を諦めたかどうか、電話して聞いてみれば?その方がすっきりするんじゃねぇ?」 「はっ?何でわざわざこっちから連絡しなきゃなんねぇんだよ。折角解放されたってのに。」 「ほぉん。俺は別にどっちゃでもいいけどね。」 秀は含み笑いを残し、厨房へと姿を消した。 |