*恋のちから その日から麗香の猛アタック作戦が開始された。 売り言葉に買い言葉・・・乗るんじゃなかったと後悔しても遅い訳で。 どこで調べたのか朝・昼・晩の携帯への電話(どうせ秀が教えただろうけど、ったく。)は もちろんの事、携帯で話してる癖に寝る前、出掛ける前にメールをよこす。 終わる頃にやって来て一緒に帰りたがる。 和希は頭を抱える日々を過ごす事となった――――こんなのが後4日も続くのかよ・・勘弁してくれよ。 まさに悪夢。 「――――なぁ、お前から妹に言ってくれよ・・・勘弁してくれって。」 和希は堪りかねて店の閉店後、秀と2人で後片付けをしている時にポツリと呟く。 「あ?何だよ、もうお手上げかよ。1週間だろ?まだ3日だぞ。後4日も残ってんのに。」 「お前ねぇ・・・って何でそんな事知ってんだよ。」 「ん〜?かわいい妹から相談されちゃってぇ。」 「ったく。お前の差し金かよ。悪徳兄妹めっ!!俺を呪い殺す気かよ。」 和希は持っていたモップでカツン。と秀の足元を軽く叩く。 「クスクスッ。ひっでぇ言われよう。だけどなぁ、あいつ・・麗香も必死なんだぞ?お前を振り向かせ ようとさ。もう五月蝿ぇのなんのって口を開けば『和希、和希』ってよ。健気だわ。」 「人事だと思って無茶苦茶言いやがって。迷惑だっつうの、毎日毎日電話やメールにおまけに帰りには 外で待ってやがるし・・・はぁ、今日もいるんだろうな。外に。」 「いるだろうねぇ。俺の妹だからしつけぇぞぉ。しかも虜にさせるって言ったんだろ?さすが、俺の 妹だわ。俺もそれで今の彼女手に入れたし?」 ケタケタと笑う秀に横目で睨むと、もう一度小さくため息を付く。 「俺は年下は対象外なんだよ。」 「そっかぁ?あぁ、お前年上としか付き合った事ねぇもんな。けどさぁ、年齢なんて関係ないじゃん。 俺が言うのもなんだけどさ、麗香はいい女だぜ。一途だし、何と言っても美人だし。 ちょっと思い込みが激しいのと自意識過剰が難だけどな。クスクスっ。」 ――――その思い込みと自意識過剰が問題なんだよ。 「笑い事じゃねぇよ。一途って・・・一種の病気だろ、アレは。まぁ、美人は否定しねぇよ。お前の妹だもんな。 それは認めるけど、ついていけねぇよ。あのパワーどっから湧いて出てくんだ?」 「そりゃ、恋する乙女の愛のパワーだしょ。」 「・・・・・・・・。」 もう一度和希は大きくため息を付いた。 「何でお前は自分の妹と俺をくっつけようとすんだよ。」 「そりゃぁ、お前を信頼してるからだろ?あれでもかわいい妹だぜ。幸せになってもらいたいじゃん。 お前を男と見込んでの事。しかも都合よく今フリーだし?」 「お前ねぇ・・・・・。」 「ま、どうしても嫌ならさ、今日にでも押し倒してみれば?びびって諦めるんじゃねぇ?」 秀の予想外の提案に、和希は目を丸くして驚いた顔を見せる。 「おまっ!何言ってんだよ。仮にも自分の妹だろ?それを襲えってか。」 「バーカ。マジに襲えって言ってねぇだろ。押し倒せば?って言ってんの。あいつもまだ高校生なんだ からさぁ。そんな経験そうそうねぇだろ。」 「今の高校生はススんでんだろ?」 「さぁね?」 秀はおかしそうに声を立てて笑うと、やってみればわかるんじゃねぇ?と呟いた。 ・・・・・・何笑ってやがんだ。 この3日間、帰りに外で麗香が待っていて何故か和希の家に寄って帰るのが日課となっていた。 それは麗香が強く望んだ事だからであって・・・決して快く和希が承知した訳ではなく。 むしろ強引に押し通されたと言った方が正しいかもしれない。 いつものように家に辿りつくと、麗香は自分の家かのようにキッチンに立ちお茶を入れる。 それをリビングにあるソファを背に床に座ってテレビを見ている和希の元まで運んでくると、 自分も同じように床に座るとテレビを見始めた。 ったく、すっかり自分の家みたいに馴染んでやがる。恐るべしこの女。 ふと、先程秀と交わした会話を思い出す。 ――――『押し倒してみれば?びびって諦めるんじゃねぇ?』 いっちょ試してみるか・・・・・。 「なぁ、お前男の一人暮らしの所にガツガツと上がりこんで、覚悟して来てんだろうな?」 和希は脅かしのつもりで、麗香の体を床に組み敷くと後数センチで唇が触れると言う所まで 顔を近づける。 ふわっと甘い香りが和希の鼻をかすめる。 「きゃぁっ。和希さんから寄ってきてくれるなんて。ようやく和希さんも私の事が・・・いやん、 嬉しい。数日頑張ったカイがあったわ♪」 思ってもみなかった反応――――しまった・・・これってもしかしてヤブヘビじゃ・・・ 普通こういう場面って、きゃぁぁとかって悲鳴を上げてたじろぐもんじゃねぇの? 先程秀がやたらおかしそうに笑っていた姿が脳裏を過る。 ・・・・・あのヤロー、こうなる事知っててカマかけやがったなっ。 起こしてしまった行動に後悔させる間も与えず、麗香は和希の首に腕をまわすと彼の唇に自分の柔らかい唇を重ねる。 なっ!! 想像以上の柔らかい感触。麗香は少し顔の角度を変えると和希の上唇と下唇を順に自分の唇で挟むように 優しくキスをする。 ちょっと待てよ。コイツ高校生の癖に慣れてやがる・・・俺だって経験が無い訳じゃない。否、むしろ多い方だと 思うけど。ここまで気持ちいいと思うキスは初めてかもしれない。 そう言えば秀のヤツが前に「俺ってキス上手いんだぜ。」そんな事を自慢していたような・・・ 遺伝なのか?それとも持って生まれた天性ってやつ?? 何にせよこの状況はかなりヤバイ。これ以上行くと自制が効かなくなりそうかも。 クソッ。何で俺が高校生如きに・・・俺は年下は射程範囲外なんだよ。 和希が頭の中で葛藤していると、そっと唇が離れクスっと笑う声が聞こえてから、 私ってキス上手いでしょ?と甘い囁きが彼の耳に届いたのはしばらく経ってからの事だった。 |