*恋のちから 次の日の土曜日。 和希は久しぶりの遅番でゆっくりとした朝を迎えていた。 昨日はアイツ・・・麗香とか言ったっけ?閉店まで粘りやがって。 マジ疲れた。例により、質問攻め・・・好物は何だとか、曲は洋楽か邦楽かどっちが好きだとか。 どうでもいいだろ、そんな事。 こっちは仕事中だっつうの。後片付けも残ってるのに、アイツらが残っていたせいで帰るのいつもより 遅くなったし。 秀のやつもさっさと帰らせろっつうんだよ。ったく、無神経兄妹めっ!! 大体、最近の女子高生は何を考えてるんだ。人の仕事を邪魔してからに・・・。 そんなオヤジ臭い事を考えていると、ピンポ〜ン。と玄関のチャイムが鳴り響く。 ――――誰だ?こんな中途半端な時間に・・・宅急便かな? そんな事を考えながら玄関まで足を向けると、徐にドアを開く。 「・・・こんにちはっ!えへっ来ちゃった♪・・・・・わっ、ちょっちょっ――――」 ヒュー、バタンっ・・・ ――――何故いる。 和希は無言でドアを閉めるとその場で片手を頭に添え、ため息と共に目をつぶる。 ドアの向こうではドンドンッ。とドアを叩き、何か喚いているよう・・・だから勘弁してくれって。 一息ついて、もう一度ドアを開けると満面の笑みを浮かべた麗香の顔が目に映る。 はぁ・・・・・何だってんだ。 「お前、何しに来たんだよ。何で俺のマンション知ってんだ?」 「今日は遅番って聞いたから出勤するのは午後からでしょ?お昼一緒に食べようと思って。場所は 兄から聞いたの。一発で来れちゃった!!私ってすごくない?」 秀のヤロー。いらん事を言いやがって。 「すごくないから・・・帰れって。」 「いやんっ。折角お昼作って一緒に食べようと思って材料買って来たんだから!!」 じゃぁ、お邪魔しま〜す。と了解も得ずに和希の横をすり抜けて上がりこむ。 「わっ。おいっ俺まだいいって言ってっ・・・・・。」 だぁぁぁっ。もう何なんだよコイツは。 「すぐ作るから座って待っててね♪」 麗香は和希の制止も聞かず、ふんふんっ。と鼻歌を歌いながら食事の支度を始めてしまった。 ・・・・・・・誰か・・・こいつを止めてくれ。 チーッン。と言う音と共に食卓に並ぶ2つのお皿。 「・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・。」 「・・・何だよコレ。」 「・・・炭火焼マカロニ・・・グラタン・・・?」 もくもくと上がる黒い煙。 辺りには香ばしいような焦げ臭いような異様な匂いが立ち込める。 「炭火焼・・・って焦げてんじゃねぇかよ!!しかも昼からグラタンって重いだろうがっ。」 「うわぁっ。ごめんなさいって!!だってだってうちとオーブンレンジの勝手が違うんだもん! けどっ一生懸命作ったんだからぁ。」 「一生懸命作ったって・・・食えってか?殺す気かてめぇは。」 「食べて。とはさすがに言いません・・・何か食べるものある?」 にこっと悪びれる様子もなく笑いかける麗香。 ・・・・・・どこまで図々しい女なんだ。 勝手に上がりこんで料理をしだしたかと思えば、失敗したから他に何かないか。だとぉ? こう、くちゃくちゃに丸めて窓から放り投げてぇっ。 和希は込み上げてくる怒りを抑えつつ、キッチンにある適当なものを雑にテーブルに放り出した。 「それ食ったらさっさと帰れ。」 「いや〜ん。折角来たんだから、掃除とかしようとか思ってるんだから!!」 「んなもん誰も頼んでねぇだろうが。鬱陶しいからさっさと帰ってくれって。」 うっ鬱陶しいって・・・私が?この私が鬱陶しいですって?!初めてだわよ。そんな言葉を言われたの。 麗香は急に込み上げてくる切ない感情を感じずにはいられなかった。 「ひどいっ。鬱陶しいって・・・私は、和希さんを好きなの。昨日出会って運命を感じちゃったんだもん。 和希さんは私の王子様なんだからぁ!!」 「・・・・・・はぁっ?!」 王子様って・・・バカじゃねぇの、コイツ。高校生にもなって何が王子様だ。寝言は寝てから言って くれって。これだから嫌なんだよ・・・年下の女ってもんは。 「絶対この恋は叶えてみせるんだからっ。和希さんは私の事をきっと好きになる!!じゃないとおかしい もんっ!!!」 「あのなぁ・・・俺は年下は対象外なんだよ。俺はお前を好きになったりなんかしない。わかった? だから諦めて帰れ。」 「い〜っや!諦めないっ。」 「ガキみたいに駄々こねてんじゃねぇよ。そんな乳臭せぇガキはお断りだ。さっさと帰れ。」 「ちっ乳臭いですってぇ!この私に向かって乳臭いとは聞き捨てならないわ。いいわ、そこまで言うなら 1週間・・・ 1週間私に時間を頂戴。その間に和希さんを振り向かせてみせる!!瀬能高校一の美少女の名に懸けて あなたを落としてみせるんだから。」 麗香は立ち上がると片手を腰に当て、もう片方の手を和希に向ける。 その手にはしっかりと先程出されたパンが握られてはいたが・・・・・。 「ほぉ・・・おもしれぇ事言うじゃねぇか。1週間経って俺の気持ちが変わらなければ?」 「潔く諦めるわ。」 「ふぅん。1週間ね・・・ま、どれだけ時間をかけたとしても揺らぐ事は絶対ねぇけど。」 「恋する乙女を侮ってもらっちゃ困るんだからっ。その言葉、覚えてらっしゃい。絶対私の虜にして みせる!!」 「お前も忘れんじゃねぇぞ。1週間だからな。」 1週間で解放される・・・この悪夢から。しばしの我慢だ・・・頑張れ、俺。 はてさて本当に解放されるのであろうか・・・柳瀬麗香の恋の力から。 |