*恋のちから








♡ First Contact ♡



「おっはよぉ〜!!」

麗香はいつもにも増して元気な声で教室に入った。

「おはよう。なぁに、麗香。満面の笑みを浮かべて・・・何かいい事でもあった?」

そう微笑みながら出迎えてくれたのは、ずっと1年から仲良しの安達里美(あだち さとみ)だ。 彼女は麗香の思い込みにより振り回される事が多いが、それに対して文句も言わず微笑みながら 付き合っている。『天然系』と言われる里美だからこそこなせるのであろうけど。

「聞いてよっ里美ぃ。遂に!遂に見つけたの!!私の王子様♪」

「・・・・・またですか。」

ため息まじりにそんな言葉が里美の口から漏れる。

「うっ。またって・・・こっ今度こそは本当なんだからっ。」

「そんな事言ってぇ。前もどこぞで見かけた人を運命の人だ。とかって言って散々追いかけまわした 挙句、彼氏になったかと思ったらやっぱり違ったぁって言って別れちゃったじゃない。 あの後大変だったんだよぉ、麗香に連絡が取れなくなったってこっちに何度も電話かかって くるし・・・。」

「ん〜。ごめぇん。私だって本気で好きになってずっとずっと努力して頑張ったんだよ?だけど、 付き合ってみたらしょうもない男だったんだもん。甲斐性はないし、自分 勝手だし。私というかわいい彼女がいながら浮気なんて事をするんだよ?信じられる? 私みたいなかわいい女はアイツにはもったいないっての。」

はいはい。といつもの病気が始まったよ、とばかりに苦笑を漏らすと、今度はどんな人なの?と 里美は笑顔で聞いてくる。

普通ならここで大抵の人間が呆れて離れて行くのだが、ここが里美の凄い所。最後まで話を聞くのだから 大したものである。

「あのねっ。今日電車で痴漢に会った時に助けてくれた人なんだけど、これがすっごいカッコよくってね。 もぅ、私の理想にピッタリって人なの!!名前は幸田和希、年は私の5つ上で23歳。でねでね、」

「うんうん。」

「ここからがまさしく運命を感じちゃうんだけど、何と!勤め先がお兄ちゃんと一緒のCafeなの!! これってちょっと凄くない?」

「わぁ!そうなの?お兄さんって秀さんだよね?最近凄い人気のあのCafeでしょ。すごぉい。」

「でしょでしょ?もうこれは運命を感じずにはいられないわっ。」

麗香は意味もなく胸の前でガッツポーズを決める。その姿は、もうこの恋を勝ち取った勝者のようでもあり ――――。

「それならどうしてもっと早く知ってた筈でしょ?」

「そうなのよ。私とした事が迂闊だったわ・・・お兄ちゃんのCafeって遊びに行った事がないのよ。 学生の時の友人と2人で立ち上げたって聞いただけで軽くあしらってたんだけど。その友人って人が 和希さんだったのよぉ!!」

「でも、あの人気のCafeのオーナーならその和希さんって人も競争率高いんじゃない? もしくはもう彼女がいるとか・・・。」

「それがね、私の調べた所によると今の所彼女ナシ。そりゃ、競争率が高いだろうけど・・・負けて なるもんですかっ。この瀬能高校一の美少女が見つけた王子様なのよ!」

相変わらずすごい自信。しかもいつの間にそこまで調べたの?と言いたいのを我慢し、走り出した 恋に意欲を見せる麗香に笑顔を向ける里美であった。



***** ***** ***** ***** *****




放課後、麗香は早速里美を連れてCafeに遊びに行くことにした。

思い立ったが吉日。即行動が麗香のモットーである。

店の前に立つと中は若い女性客で賑わっていた。噂には聞いていたものの結構な繁盛振りに麗香は驚く。

うわぁ。お兄ちゃん、結構やるじゃない。って言うかこれはきっと和希さんのお陰なんだわ。 だってあのお兄ちゃんがここまで出来るとは到底思えないもの。さすが、私が惚れただけの事はあるわ。

そんな勝手な事を心の中で思いながら、2人で店の中に入る。

中は女性が好みそうな、お洒落なレイアウトが施されている。

辺りをキョロキョロと見渡すと、厨房らしき所から見知った顔がひょこっと現れた。

「おぉ。麗香じゃねぇの。何、珍しい。初めてじゃん、ここくんの。」

「やっほー。遊びに来てあげたわよ。」

彼の名前は柳瀬秀(やなせ しゅう)。麗香の兄である。 秀は少し長めの髪を茶色く染めていて、麗香とよく似て目鼻立ちが整っている長身の『いい男』だった。

ある意味、この顔と和希さんの顔でお店がもってるのかも・・・。と内心思いながら案内された席に 腰を下ろす。

「里美ちゃんも久しぶり。よく来てくれたね。今日は俺が奢ってあげるから、好きなものたのんでね。」

「うわぁ。ほんとですかぁ?ありがとうございます。」

「いいっていいって。どうせいつも麗香が迷惑かけてんだろ?そのお詫び。」

「わぁ。何それ、お兄ちゃんひっどぉい。」

「――――なぁ、秀。この商品の在庫だけど・・・・・・・っげ。」

そんな事を話していると、伝票に目を落としながら奥から麗香の意中の彼、和希が顔を出す。

麗香の顔を見た途端、固まったようにその場に立ち竦む。

げっ。て・・・今『げっ』とかって言いました?ううん、私の聞き間違いよね。彼が私に対してそんな事言う筈 ないわ。

そんな事よりも、なんて素敵なの!スーツ姿もカッコよかったけど、白いシャツに 腰に巻いている黒のロングエプロンがすっごく似合ってるぅ。はぁ・・・惚れ直したわ。

少し離れた所で固まっている和希と、うっとりとした目で和希を見つめる麗香を見て、秀は少し首を傾げる。

「お前ら・・・知り合いだった?」

「ううん。今日知り合ったの。痴漢にあった私を助けてくれた救世主なのよ。ね、和希さん♪」

にっこりとこの上なく幸せそうな顔で微笑む麗香。

その顔に引きつり笑いを浮かべた和希。

「な、なぁ。もしかして、この子・・・秀の・・・。」

「お?おぉ。俺の妹。見た事なかったっけか?」

はぁぁぁぁ。マジかよ。誰か、嘘だと言ってくれ。

今朝の痴漢騒ぎの後、さんざ根掘り葉掘り聞かれてやっとこさ開放されたかと思ってたのに ――――よりによって同じ経営者の妹だってか?

名前を名乗られた時、『柳瀬』と聞いてちょっと嫌な予感がしたんだよ。

勘弁してくれよ・・・マジで。

『前途多難』・『お先真っ暗』――――そんな言葉が和希の脳裏を横切った。


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