*恋のちから




<ご注意>こちらの作品は、性的描写が含まれております。
       申し訳ございませんが、18歳未満の方、そういった表現が苦手な方は、ご遠慮ください。







毎朝の如く揺られ、押し潰されそうになりながらの通学&出勤ラッシュの電車の中。

ふと彼に運命を感じてしまったんです。

そう・・・やっと見つけた――――・・王子様。

何がなんでもこの恋、叶えてみせます!!

だって恋する乙女に『不可能』なんて言葉・・・ないんだから――――。


♡ turning−point(ターニングポイント) ♡



今朝もいつものように家を出て、いつものように混み合う電車に背中から乗り込み、閉まったドアに へばりつく。それももう、3年も続いてきた日課。自分の事ながら、よくもまぁ頑張ってこんな混んだ電車に 押し潰されそうになりながら3年間もきたもんだ、と苦笑が漏れる。

何でみんな自分と同じ時刻の電車に乗るんだ。と自分勝手な言葉さえ、口から漏れそうになってしまう。 そんな言葉をごくっ。と飲み込み、彼女は目の前を流れる景色に目をやる。

季節は秋。遠目に映る山々も紅葉を見せ始め、所々が紅く染め上げている。

高校3年生のこの時期、受験戦争真っ只中だと言うのに彼女は既に推薦で大学行きが決まっており、 一人悠長にこの時期を過ごしていた。

電車のドア付近に立つ彼女は、腰まで伸びた手入れの行き届いている綺麗なストレートの髪に 聡明さを感じさせる整った顔立ち。胸の前でカバンを抱えている腕は細く、スカートからすらりと伸びる足 からも彼女が華奢だと言う事を物語っている。

彼女の名前は、柳瀬麗香(やなせ れいか)

自他共に認める、瀬能高校一の美少女――――そして思い込みが激しく、最強の自意識過剰のおめでた娘でもある。

今日も麗香はいつもと同じ様に同じ時刻の同じ車両に乗り込んでいた。

そして、いつもと同じように背後から迫り来る異様な気配。何度身を置き換えても付いてくる。

(もぅっ。まただわ・・・何度言ったら分かるのかしら?痴漢は犯罪よ!いくら私がかわいいからって 毎回毎回あったまくる。んっとに、もうっ!!)

その可愛さ故の出来事か?――――麗香はこの3年間、毎日と言っていい程『痴漢』というものに 会っている。

最初は驚き、慌てふためきただ俯く事しかできなかった彼女も3年も経てば怖いものナシである。

ここ数日で何度駅員の所まで突き出した事か。

彼女は大げさにため息を付き、一呼吸置いて振り返ろうとした――――その時、

「おっさんもさぁ、いい年こいて女子高生のケツ触ってんじゃねぇよ。」

ふと頭上から降り注ぐ透き通ったような、綺麗な男性の声。

その声に顔を上げた麗香の目に映った男性・・・・・・そこそこ背が高く、凛とした顔立ちに スーツをパリッと着こなした姿。鋭い眼光の中にも優しさが感じられ、 歳はそこまで変わらなさそうなのに、大人の風格さえ感じられる。

――――かっカッコいい!!

これって、これってもしかして・・・ううん。もしかしなくっても『運命の出会い』ってヤツよね!?

どっどうしよう。見つけた!見つけてしまったわ!!私の王子様!!!

麗香は自分が痴漢されていた事などすっかり忘れ、自分の隣で痴漢をしていたであろう中年男性の 手を掴んでいる男性に釘付けだった。

「いっいや。私はそんな事など・・・」

手を掴まれた中年男性が脂汗を額に滲ませ、うろたえた声を出す。

「往生際が悪いって。俺、見たぜ。この子が何度位置変えても後付いて触ってたろ?なぁ、分かって んだろ?痴漢は犯罪だって。このまま行くとこ行ってもいいんだぜ?」

「ひぃっ!それはご勘弁を・・・私には家族とか立場とかありまして。もうしませんからっ!!」

そう言って掴まれた手を振り払うと、すごすごと運良く開いたドアから一目散に逃げて行った。

「あっこらっ待てよ!!」

男性の凄みも空しくドアは閉まり、電車は再び走り出してしまった。

ったく。と声を漏らした男性の視線が今度は麗香に移る。

「お前もさぁ、そのスカートの丈どうにかしたらどうだ?」

「へっ?!」

男性と中年とのやりとりの間もずっと彼に見とれていた麗香は突然自分に向けられた言葉を理解できないで いた・・・否、何を言われても理解できなかったであろう。

今の彼女には――――。

「だからっ、そんな短いスカート履いてりゃ触ってくれって言ってるようなもんだろうが。ったく、 もうちょっと自己防衛できないもんかね。最近の女子高生はこれだから・・・。」

「あっあの。名前・・・お名前なんとおっしゃるんですか?」

「はぁ?」

こいつ・・・人の話し聞いてねぇ――――彼の口から思わずため息が漏れる。

俺は今、スカート丈の話をしてるんだぞ?何で『名前は何?』が出てくんだよ。

「私、柳瀬 麗香と言います。瀬能高校の3年生です。彼氏ダントツ募集中です!!それも年上の!!! で、あなたの名前教えていただけませんか?」

「・・・・・幸田和希(こうだ かずき)。」

彼氏ダントツ募集中って・・・んな事聞いてねぇっての。大体、ダントツってどういう意味だよ。

ぶつくさ文句を言いながら、素直に答える彼も彼であるが・・・・・。

「和希さんですね!いや〜ん、何てカッコいい名前。ほんっとありがとうございます!! これは運命的な出会いだわっ。いやん。どうしよう、私ったら。」

・・・いきなり名前で呼ぶか、普通。何か・・・頭痛ぇよコイツ。運命的な出会いとか言いやがったぞ。 嫌〜な予感がするのは俺だけか・・・・・?

おいくつですか?お勤め先は?・・・などと湯水の如く浴びせられる質問に目の前が暗くなるのを感じ つつ、もしかしたら助けるんじゃなかったかも?などと自責の念に駆られる和希。

そう。彼の嫌〜な予感はあながち間違っているとは言えなかった。

想像もしなかったであろう。今日、柳瀬 麗香を助けた事によって、 これから予想だにしない出来事が和希自身の身にふりかかろうとは・・・。


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