*大嫌い!!




はじめまして、私、中里優里(なかさと ゆうり)って言います。

年は24歳、彼氏いない歴2年。目下淋しい一人身を謳歌してます。

仕事は建設資材の卸をしている会社で営業事務をしてるの。

これがまた、「超」が付くほどおもしろくない。彼氏がいない私としてはこの辺でって思うじゃない?でもさ、私が相手する取引先と言えば、言葉もガサツで横柄な態度の職人気質のオヤジばかり。 ついついこっちまで言葉が乱暴になってしまう・・・社員だってパッとしないし。こんなんじゃ彼氏なんて見つけられないよね。

私は大きくため息を付くと、先ほど注文のあったサッシ(窓枠)のコードを少し乱暴にコンピューターに打ち込む。

「おぃおぃ〜。そんな乱暴に扱ったらパソコン壊れっちまうだろ?」

突然背後から男性の声が聞こえてきた。

私はその声に眉を寄せながら振り返る。

「なによ、奥田。文句あるっての?」

ふん。と鼻を鳴らしながら、私は奥田隆志(おくだ たかし)に向かって悪態を付く。

彼は私の2つ年上なんだけど、同期入社だから上下関係はナシって事で勝手に呼び捨てで呼んでいる

ま、私ぐらいなんだけどね。コイツを呼び捨てで呼ぶのって。

だって、奥田は会社内では「カッコいい」存在だから。背が高くて顔がよくて、服のセンスもいい。発せられる声が微妙に渋くて、オマケに営業成績がダントツ1位とくれば・・・ねぇ?

非の打ち所がないってのはこういう事を言うのかしら。

だからうちの女子社員が黙っちゃいないのよ。「奥田さ〜ん♪」とか「隆志く〜ん♪」とかって甘い声で色目を使う。

・・・全くやってらんない。

で、私は何故か奥田が苦手。

どうして?って聞かれると困るんだけど、敢えて言うなら、調子乗ってる?みたいな所が。 見た目からして女遊び激しそうだし、誰にだって気軽に声かけるし。そういう軽そうな所が苦手。と、言うよりむしろ嫌いな部類に入る。

「お前ね、仮にも俺はお前より2コも年上なんだぞ?いつも「奥田」って呼び捨てで呼びやがって。」

「はぁ?何よ、今更。入社してから1年も経ってんのに、そんな小さな事でウダウダ言わないでよね。」

私は軽くため息を付くと、エンターキーをポンッ。と叩く。

「ったく、可愛くねぇ女だな、お前は。もうちっとしおらしくしたら、すっげぇいい女になんのに。」

「なっ何言ってんのよ!!変な事言わないでよ。可愛くなくて結構。こんな仕事してたら自然とこうなっちゃうんだから、放っておいてよ。」

私は奥田の言った言葉に少し頬を赤く染めながら、更に彼に向かって悪態を付く。

「・・・・・ところで、俺の見積もりやってくれた?明日提出なんだけど。」

「もぅ!どうして私がいつもいつもあんたの見積もりをしなきゃなんないのよ!こっちは仕事溜まってて忙しいの。他に沢山いるでしょ?奥田の見積もりだって言ったら快く引き受けてくれる子そこらじゅうにいるわよ。」

その言葉にクスクス。と笑い声を立てながら奥田はパソコンデスクに腰を預ける。

「あぁ、だろうね。いっぱいいんのは分かってっけど、俺はお前に頼みたいんだけど?仕事も速いし、正確だし。後でメシも奢らなくていいし?」

その嫌味たらしい言葉にカチンとくる。

「この自意識過剰男!!それにどういう意味よ、後で奢らなくていいって。」

「そりゃぁ、やっぱりやってもらったらお礼しなくちゃなんないじゃん?それ目当てでやってくれる子が多いんだけど、結構カネかかるんだよ。その点、お前は俺の誘いを尽く断ってくれっから助かるんだよね。カネもかかんねぇし。」

意地悪く笑われて、そんな皮肉めいた言葉を浴びせられる。

・・・そう。何度か誘われた事はある。

「見積もりのお礼にメシ奢るよ。」そう言われても私は一度もOKした事がなかった。

「あんたなんかとね食事行ったら何されるか分からないでしょ?自分の身は自分で護るのよ。」

「あははっ。俺ってそんな信用ねぇか?こう見えても付き合う女に結構一筋なんだけどね。」

「はぁぁ!?どこをどう見て一筋だって言うのよ。いっつも周りに女の子はべらせてさ。天狗のように鼻高々にしちゃって。プレイボーイも程ほどにしなさいよ。」

「・・・お前、それ偏見だぞ。見た目で判断すんなよ。周りの女の子だって俺が頼んでいてもらってるわけじゃねぇし、俺のプライベート見た事あんのかよ。」

「興味ねぇっつうの。奥田のプライベートなんて見て何が楽しいのよ。毎日入れ替わる女の子見ろって言うの?私はごめんだわよ。」

「お前、ほんとその口の悪さ何とかしろよ。可愛い顔が台無しだぞ?まぁ、俺のプライベートに興味ねぇのはいいけどさ・・・あんま外見だけで人を判断すんなよ。」

奥田はそう呟きながら、私の頬をうにっ。と摘む。

そして付け加えるように、 「見積もり、明日の午前中に提出だからな。必ずやっとけよ。口達者なお嬢さん。」 と言葉を残してどこかに行ってしまった。

「なっ?!ちょっちょっと待ちなさいよっ・・・」

なによ・・・あの最後の悲しそうな表情。

もしかして傷つけた?って、正直な事を言っただけじゃない。

それに、気安く人の頬っぺた触らないでよ・・・。

私は顔を真っ赤に染めながら、摘まれた頬を軽く擦る。

・・・どうして私、顔が赤くなっちゃてるのよ。もぅ!!



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