*君の あなたの 微笑に




私が、チーの体を抱きしめていると、何故か胸元辺りから温かい物がシャツを伝って下の方に広がっていく感触が肌に伝わる。

「・・・・・ん?・・・って、わぁっ!!」

一旦チーの体を自分の体から離すと、胸元を見て驚きで目が点になる。

「どうしたの?」

「チーが・・・チーがお漏らししたっ!!」

「うわっ!マジで?!・・・すぐに洗濯しないとシミになっちゃうかも。」

「えっ・・えっ・・・ど、どうしよう。」

「とりあえず、リビング出たすぐ右のドアが洗面所になってるから、そこに水を溜めてシャツを浸けておいで。気持ち悪いだろうから、そのままシャワー浴びるといいよ。ちょっとまだ寒いかもしれないから温度を高めに設定したらいいし。着る物は・・・俺の服を出してくるから。急いで!!」

私はチーを床におろすと、先生に言われた通りに洗面所に小走りで入り、水を溜めてシャツを脱ぐ。

よかったスカートとブレザーには付いてないみたい・・って、うわっ。ブラは濡れちゃってるよ・・・。

悩んだ挙句、臭いが残っても嫌だったからブラも外してシャツと一緒に水に浸ける。

『狭山さん、大丈夫そう?服、ドアの所に置いておくね。シャワーの使い方は、多分君の家と同じだと思うから・・・。』

ドア越しに先生の心配そうな声が聞こえてくる。

「あ、はい。大丈夫だと思います。すいません、シャワーと服お借りします。」

リビングのドアが閉まる音が聞こえてから、そっと小さくドアを開け床に置かれた先生の服とバスタオルを取り込んで、身につけていたものを一旦全部脱いで浴室に入る。

何だかとんでもない展開になっちゃってるんだけど・・・・・。

シャワーの栓を捻りながら、この状況に少し戸惑っていた。

だって、先生の家に来られただけでも驚きなのに、その上お風呂まで借りちゃうなんて。

私はあまり髪の毛を濡らさないように注意しながら、シャワーを全身にかける。

ちょっとボディーソープ借りてもいいかな・・・。

ラックに立てかけてあるボディーソープのボトルから少しだけ中身を出すと、先程チーにかけられた部分に擦り付ける。

先生が使っている物を自分も使っているという事に幸せを感じながら、ラックに立てかけてあるシャンプー類に視線を移す。

へぇ。先生ってシャンプーとリンス、それにボディーソープもこのシリーズで揃えてるんだ。

以前、自分も使ったことのあるメーカーの物・・・あの時は然程いい匂いだとは思わなかったのに、 先生が使ってるって思っただけで、何故か特別な物に感じられた。

――――先生と同じもの・・・私も買おうかな。



***** ***** ***** ***** *****




私は浴室を出ると、先生が用意してくれたバスタオルで体を拭き、トレーナーの上下を身に纏う。

ふわっ。と先生の香りに包まれて、こんな状況なのに幸せな気分に浸ってしまった。

なんか・・・先生に抱きしめてもらってるみたい。

――――全てが先生に包まれてるようで、とても幸せだった。

脱いだ制服を持って外に出ると、ふわっ。と美味しそうな香りが鼻をくすぐる。

「わぁ〜。いい匂い。」

「あ、上がってきたね。大丈夫だった?」

「はっはい。すいません・・・いろいろとお借りしちゃって・・・。」

「いいよいいよ。それよりも、ごめんね。チーがえらい事しちゃって。お詫びと言っちゃなんだけど、家にあるものでおかず作ったからそれも一緒に食べよう。」

「えっ!先生、料理できるんですか?」

意外・・・男の人だから料理しないのかと思ってた。

小さなダイニングテーブルの上には、自分が買ってきたコンビニのお弁当と共においしそうなおかずが何品か並んでいる。

「クスクス。意外だった?これでも俺、高校時代から一人暮らししてるから料理は慣れてるんだよ。」

「えっ、えっ?!高校時代からですか?家族とは一緒に住んでなかったんですか?」

「ん〜・・て言うか、俺の両親って車の事故で他界しちゃったんだよね。親戚の所に厄介になるのもなんだから、それを機に一人暮らしをはじめたんだ。」

「あ・・・ごめんなさい。」

そっか・・・先生のご両親てもう・・・。

「全然、狭山さんが気にする事じゃないからね。今は俺も元気にやってるんだから。さ、冷めないうちに食べよう。」

「はい、いただきます。でも、すご〜い。これ先生が自分で作っちゃうんですか?私には出来ないなぁ。」

「クスクス。だからコンビニ弁当なんだもんね。」

「うっ・・・。痛いところツッコまないでください!」

「あははっ!ごめんごめん。」

先生はおかしそうに笑い声を立てながら、椅子に腰を下ろす。

私も少々頬を膨らましながら、先生の正面に腰を下ろしてコンビニのお弁当についていた割り箸をパチンッと割る。

でも、何年ぶりだろう。誰かと一緒に夜ご飯を食べるのなんて。

一人で夜ご飯を食べるのなんて全然苦じゃなかった・・・だけど、先生と食べるご飯は本当に美味しくて、いつもお弁当の半分も食べずに残してしまうのに、今日はペロっと全部平らげて尚且つ先生の作ってくれたおかずにまで手を出していた。

誰かと食べるご飯って、こんなに美味しいんだ。しかもそれが先生が作ってくれたものだとしたら尚更。

「あぁ〜。美味しかった。こんなに夜ご飯食べたの初めてです。ご馳走さまでした。」

「クスクス。お粗末さまでした。でも、よく食べたね。そんなに細いのにどこに入った?」

「細くなんかないですよ。でも、先生の作った料理本当に美味しかったです。今度作り方教えてください。」

「いいよ、でも授業料は高いよ?」

「えっ・・・授業料取るんですか・・・。」

「クスクス。嘘。」

「う・・・うわっ!ひっど〜い。先生たるものが生徒に嘘付いてもいいんですか?わ〜わ〜酷いんだっ。ちょっとチー、この先生嘘つきだよ?どうする?」

私は足元に寄ってきたチーを抱き上げると鼻をチーの鼻先にちょこっとくっ付ける。

「・・・ミャーッ。」

「あ、ほら。チーも酷いって。」

「今のは、酷くないよ。って鳴いたの。」

「勝手な解釈ぅ。」

「お互いさま〜。」

お互いのその言葉に顔を見合わせて笑い合い、暫く雑談をしてから机の上のお皿を片付ける事にした。




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