*君の あなたの 微笑に




「――――・・今日は本当にご馳走さまでした。乾燥機まで貸してもらっちゃって・・・お陰でシミにならずにすみました。あの、これ本当にお借りしちゃってもいいんですか?」

私は玄関先で先生のトレーナーを着たまま靴を履く。

「うん、どうぞ。水に浸けておいただけだから、やっぱり気持ち悪いでしょ?帰ってから綺麗に洗剤で洗うといいよ。そのトレーナー、返してくれるのはいつでもいいからね。」

「はい、ありがとうございます。お邪魔しました。」

「気をつけて・・・って、すぐ下の階だけど。」

先生のその言葉にクスクス。と笑って見せてから、お休みなさい。と呟いた。

「お休み。また明日学校でね。」

向けられた先生の笑顔を噛み締めながら、私は一つ下の階の自分の家へと向かった。

どうしよう・・・すっごく幸せだ、私。

そうだ、すぐに先生にお礼のメールしなくっちゃ。

自分の部屋に入るとすぐにカバンから携帯を取り出し、登録されている『恭一先生』を呼び出す。


           5/16 22:30
          =ロングメール=
           恭一先生
           kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp
           [件名] 今日は・・・
           [本文] 本当にありがとうございました。
                すっごく楽しかったです。料理も美味し
                かったし♪本物のチーを見れてとても
                嬉しかったです(o^-^o)
                狭山 千鶴


ピッ。という音と共にメール送信の画像が流れる。

携帯を閉じて、今、自分の身に纏っている先生のトレーナーの襟元をそっと自分の鼻先に近づけてみる。――――先生の香り・・・安心できちゃう優しい香り。

そんな感慨に耽っていると、メール着信音が鳴った。

「うわっ。びっくりした・・・。」

ドキドキと胸を高鳴らせながら、画面を開く。


           5/16 22:35
          =ロングメール=
           恭一先生
           kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp
           [件名] Re.今日は・・・
           [本文] どういたしまして。
                俺も誰かと夜ご飯食べるの久しぶりだった
                から、とても楽しかったよ。一人で寂しい時
                はいつでもおいで。
                恭一


うっそ・・・。――――『いつでもおいで。』

本当に?ほんとにいつでも行っちゃってもいいの?

私は更に嬉しくなって、即座に返信を打つ。


           5/16 22:40
          =ロングメール=
           恭一先生
           kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp
           [件名] Re.Re.今日は・・・
           [本文] 本当にいいんですか?
                そんな事言ったら本気で行っちゃいますよ?
                そのまま先生の彼女として居ついたりして
                (笑)
                狭山 千鶴


ピッ。と、送信して一息ついてから読み返し、「しまった!」と、思わず口から漏れる。

嬉しくて調子に乗って、『先生の彼女として』って書いちゃった・・・うわっ、どうしよう。

こんな事書いたら先生引いちゃうよね・・・あぁ、どうしよう。「今のは冗談です。」って送り直そうかな。

でも、私にとっては冗談なんかじゃないし。

どうしよう・・・さっきはすぐに返ってきた先生からの返事。

今度は返事が返ってくる気配すら感じられない。

絶対、「うわ〜。」とかって思ってるんだ・・・私ってば浮かれて、なんて事を送ってしまったんだろう。

私は先生からの返事を待ちきれずに、更にメッセージを打つ。


           5/16 22:43
          =ロングメール=
           恭一先生
           kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp
           [件名] Re.Re.今日は・・・
           [本文] あのっ。嘘です。さっき送った私の内容。
                冗談なので、あまり気にしないでください。
                楽しかったのでついつい。早乙女先生は私の
                担任の先生ですもんね・・・すいません。
                狭山 千鶴


ピッ。という送信音がヤケに悲しく耳に響く。――――何やってんだろ・・・私。

はぁ。と、一つため息を付いてベッドに仰向けに寝転がる。

すると、再びメールが届いた着信音が耳に届く。

見なくても分かる。多分これは先生の答え――――・・見ちゃいけない、先生の答え。

私は震える手で携帯を開き、メールボックスを開ける。

「――――・・バカだ。私・・・自分で・・・チャンスの芽を摘んじゃったよ・・・。」

私の目から溢れ出す涙。

さっきまであんなに幸せな気分だったのに・・・今は嘘のようにその気分は脆くも崩れ、悲しみが溢れ出す。

もっとゆっくり進まなきゃダメだったのに。

調子に乗らなきゃ、あのまま幸せな気分になっていられたのに・・・。


           5/16 22:47
          =ロングメール=
           恭一先生
           kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp
           [件名] Re.Re.Re.今日は・・・
           [本文] あはは。そう来るとは思わなかった。
                冗談でもそんな事言っちゃダメだよ?
                ごめんね、俺も楽しくってついつい調
                子に乗っちゃって・・・そだね、やっぱ
                りもう俺の家には来ない方がいいね。
                狭山さんは大事な俺の生徒さんだか
                らさ。
                また明日学校でね。お休み。
                早乙女 恭一


先生・・――――冗談なんかじゃないんだよ・・・。




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