*君の あなたの 微笑に チャイムが鳴る一歩手前で教室に滑り込むと、息を切らしたまま席に着く。 ――――と、同時に満面の笑みを浮かべた優実が後ろを振り返る。 「随分と長い逢引だこと。」 「あっ逢引って・・・別に、普通の会話をしてただけだよ。でもね、でもねっ。いっぱい嬉しい事あったよ。」 「わぁ、よかったね。これで一歩前進って所かしら?」 「ん〜・・どうだろう。猫を見に行く事もやんわりと断られたし・・・やっぱり先生にとって私はただの生徒の一人なんだと思う。」 「そっかぁ。でも、まだ始まったばかりじゃない?これから頑張ったらいいんだよ。」 「ん・・・・・そだね。」 先生の家に行く事は拒まれちゃったけど・・・その代わりに先生からメールを送ってもらえるんだ。 そう思うと自然と顔から笑みが漏れてくる。 携帯に先生からメールが来るかもしれないって優実に言っちゃおうかな・・・でも、もし来なかったら悲しいし。もう少し後で報告しよう。 私は一つ息を付くと、次の授業の教科書を机の引き出しから引っ張り出す。 「ちぃってば、よっぽど先生と話せた事が嬉しかった?」 「え?どうして?」 「だって、幸せそうな顔してるよ?」 「そっ・・・かな。」 ――――『幸せそうな顔してるよ?』 だって幸せなんだもん。先生と話せて、同じ携帯を持ってるって知って・・・おまけに先生からメールが来るかもしれないだなんて。 幸せになるな、と言う方が難しい。 きっとニヤけてるんだろうな、私の今の顔。鏡を見なくても分かるもん。ずっと頬が緩みっぱなしで、多分気持ち悪いくらい・・・。 先生、いつメールくれるかな。今日だといいな。 私は次の授業中、ぼぅっ。とそんな事ばかりを考えていた。 「――――・・早乙女先生、もう学校から帰ってきてるのかな。」 今日は塾の日じゃなかったから、学校から直接家に帰ってくると私服に着替えて携帯を肌身離さず持ってる私。 ふと時計に目をやると、時刻は夜の8時をまわっている。 「メール・・・まだかなぁ。」 何度もセンター問い合わせをしながら、その度にため息が漏れる。 うちの両親は共働きで、夜遅くにしか帰ってこないから夕飯はいつも母親が作り置きしてくれてるものか、塾のある日はコンビニでお弁当を買って帰って食べてる。 今日は母親が作っておいてくれた肉じゃがを一人で食べた。 一人でいる時程時間の流れが遅いものはない。 それが、何かを待っている時は尚更。 私は10分おきぐらいにセンター問い合わせをしては、ため息をついていた。 何やってるんだろう、私。先生だっていろいろする事があるだろうし、もしかしたらメールを送るっていう事を忘れているかもしれないよね。 はぁ・・・時間が経つのが遅い。 自分の部屋のベッドにうつ伏せになりながら、時折携帯を眺めてはため息を付き、再びテレビに視線を向けるという無駄な時間を過ごしていた。 そんな無駄に長い時間を過ごし、ウトウトと瞼が落ちかけた時、突然メールの着信音が部屋に響く。 「うわっ!!びっびっくりした。」 私はその音にびっくりして飛び起きると、携帯を手に取りメールを確認する。 アドレスを見ると、誰か分からないアドレス番号。 ――――ドキンッ!! もっもしかして、早乙女先生?! 一人顔を赤く染めながら、高鳴る心臓を抑えつつメールを開く。 5/15 22:53 =ロングメール= kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp [件名] 早乙女です。 [本文] 遅くなってごめんね。職員会議の後 俺の歓迎会とか言って飲みに連れだ されちゃってこんな時間になりました。 約束してた子猫の画像送るね。 早乙女 恭一 [添付] ―――――― 画面を見た途端、私の顔から最大限の笑みがこぼれる。 先生・・・約束ちゃんと覚えててくれたんだ。 「うわぁ〜。かっわいぃっ!!ちっちゃぁ〜い。あの時は雨に濡れてたからあまり分からなかったけど、ふわっふわの茶色い毛だ。」 笑顔のまま呟き、添付されてきた画像に目が釘付けになる。 つぶらな瞳をカメラに向けて首を傾げてる画像。とても愛らしくてずっと見てても飽きない感じ。 私は早速返信ボタンを押してメッセージを打つ事にした。 5/15 23:08 =ロングメール= kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp [件名] Re:早乙女です。 [本文] 早速ありがとうございます(o^-^o) すっごい可愛いから思わずニヤけちゃい ました!!名前決まったらまた教えてく ださいね♪ P.S 二日酔い大丈夫ですか? 狭山 千鶴 ピッ。という音と共にメールが送られる画像が流れる。 すごく嬉しい!!もぅ、その一言に尽きる。 私は携帯を握り締め、そっと胸に当てて目を瞑り、暫しの間感慨にふける。 「あ、そうだ。アドレス登録しちゃってもいいかな・・・。」 ぼそっと呟いて再び携帯を開くと、先程送られてきたメール画面を開く。 何度見てもニヤけてきてしまう私の顔。 カチカチ。とボタンを操作して、自分の携帯に登録をする。 『恭一先生』 私だけが見るんだから、名前で登録しちゃってもいいよね。 自分で勝手に解釈をして、登録されたアドレスと名前を見ながら再び気持ちの悪い笑みを漏らす。 と、再びメールの着信音が鳴り響く。 慌ててメール画面を開くと、そこには先程登録した『恭一先生』の名前。 5/15 23:20 =ロングメール= 恭一先生 kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp [件名] Re.Re.早乙女です。 [本文] 遅くまで起きてるんだね。 って、俺のメールで起こしちゃった? それならごめん。 二日酔いになるほど飲んでないから 大丈夫だよ。ありがとう。 猫の名前決まったら教えるね。 また明日学校で。おやすみ。 恭一 「恭一だって・・・うわっ。何か・・どうしよう。すっごく嬉しくなってきちゃった。」 だってさっきはフルネームだったのに・・・これじゃあまるで彼氏みたい。 私は泣きそうなくらい嬉しくなって、再び返信を打つ。 5/15 23:25 =ロングメール= 恭一先生 kyou-sa_0825@x.xxxxx.ne.jp [件名] Re.Re.Re.早乙女です。 [本文] いつもこれくらいの時間は起きてま すよ。いつも両親が帰って来るのが 遅いから寝るのは1時くらいなんで す(o^-^o) 二日酔い大丈夫みたいで安心しまし た(笑)猫の名前楽しみにしてます♪ お休みなさい。 狭山千鶴 パタン。と携帯を閉じると、携帯を握り締めたままベッドに仰向けに寝転がる。 ――――今日はいい夢、見れそうだなぁ。 |