*君の あなたの 微笑に




今日は気分が浮いたり沈んだり・・・忙しい一日。

私は連絡事項を聞いてから教室に戻ってくると、黒板の所定の位置にそれを書いてから自分の席に着く。

「・・・・・はぁ。」

「なぁに、ちぃってばまたため息付いてる。」

前の席の優実が呆れた顔で振り返る。

「だって・・・早乙女先生と私との間には壁が多すぎる。」

「壁って?」

「まず年齢・・・先生、24歳なんだって。私と6歳も離れてるんだよ?先生から見たら私なんて ただの子供だよ。」

「それと?」

「『教師と生徒』って言う大きな壁。あぁ、無理だぁ〜〜っ!!」

天井に向かって呟いて、ガクン。と机に突っ伏せる。

私ってば机に突っ伏せるの、これで何度目?

「それだけ?」

「・・・え?それだけって・・・十分でしょう。」

「何言ってるのよ、ちぃ。年齢なんてね、恋愛には関係ないのっ!!相手がどれだけ年上だろうが年下だろうが関係ないのよ。好きになるのなんて年齢じゃないでしょ?その人自身なんだから。それと、教師と生徒?だから何?『高校教師』っていうドラマがあるくらい教師と生徒が付き合ってるのなんてザラにあるんだから。そんな事でめげててどうするの。」

いや、意味が分かりません。

ドラマでやってたからって、そこいらじゅうに教師と生徒が付き合ってるなんて事があるとは限らないでしょうに・・・。

いい事を言ってるようで、どこか的が外れてる気がする優実の言葉。

それに励まされる私も私のような気もするけれど・・・・・。

「そっかな。大丈夫かな・・・。」

「そうよ。まだちぃは何も頑張ってないんだよ?頑張る前から意気消沈しててどうするのよ。そんなんじゃ応援のしようがない。」

「ん〜・・じゃぁ頑張る。」

「ちぃ・・・「じゃぁ。」じゃないでしょ?」

「全身全霊で頑張りまっす!!」

「それは大袈裟だと思うけど。」

・・・・・・じゃぁ、どう言えば納得してくれるのよ。



英語の授業中私は、どうやって頑張ろうか。という事ばかりを考えていた。

もちろん、先生を見つめながら。

授業は、「最初だから。」と言う事で、今日は視聴覚室で洋画を見る事になっていた。

丁度よかった。だって普通の授業だったらこうやって見つめてるの、モロバレだもん。

2人1組で座るようになっている長机の間に小さなモニターがついていて、それを私たちは見ている。

先生は前の席に座って自分の前にあるモニターで映画を見ながら、職員室で見たように時折何かを思いついてはノートにペンを走らせていた。

好きな者同士で座っていいって事だったから、当然私の隣りには優実が座ってるわけなんだけど、 私たち2人は洋画そっちのけで今後の作戦を練っていた。

『――――だったらさ、先生にお弁当作ってコッソリ渡しちゃうっていうのは?先生一人暮らしなんでしょ?丁度いいじゃない。』

『え〜っ!だって、私料理全くダメなんだよ?作れる物って言ったら、目玉焼きとホットケーキと・・・』

『・・・・・それ、料理って言わないから。』

『・・・・・。』

そうですか・・・やっぱりこれは料理とはいいませんよね。

ちょっと料理の勉強でもしようかな・・・・・先生の為に。

『あっ!じゃぁさ、出会ったキッカケが子猫ならその子を使ってみるっていうのは?』

『え?どういう意味?』

『んもぅ、ニブチンね。子猫を見せてくださ〜い。とか言ってマンションに押しかけちゃうとかっていいじゃない。』

優実は、これだ。と言わんばかりに人差し指を立てる。

『えぇ!突然マンションに乗り込むの?無理でしょ〜。』

『そんなのやってみなきゃ分からないじゃない。よっし、とりあえずはその作戦でGOね!!』

・・・・・勝手に決めてくれるなって。

私にも心の準備というものがいるんだからね。

スピーカーから流れる英語と音楽を何とナシに聞きながら、優実に向けた視線を再び先生の方に向ける。

微笑んだ顔も好きだけど、真剣な表情の先生もまたカッコイイ。

それを優実に言ったら、そうか?とサラリと流された。

そうかな・・・私はカッコイイと思うんだけど。そりゃ、美形とまでは言わないけれど目だって二重だし鼻筋も通ってるから見れない顔じゃないよ。

って、何気に酷い事を言ってるかしら私って。

『カッコイイ』と言っておきながら『見れない顔じゃない』と言う。

ん〜・・まぁ、私がカッコイイと思ってるならそれでいいって事で。

私は自分に言い聞かせると、画面に視線を移す。

丁度画面はエンドロールが流れ出した所。

うわっヤバ。イッコも見てないこの映画。

「よっし。終わったね・・・じゃぁ、次の授業ではこの映画についてプリントを作っておくからそれに添って進めて行きたいと思います。ちゃんと内容覚えておいてね。」

じゃぁ、授業終わります。と最後に付け加えて本日第一回目の英語の授業が終了した。

途端に、ざわざわ。と騒がしくなる視聴覚室。

私と優実はお互いに顔を見合わせて苦笑を漏らす。

「全然見てなかったね。」

「次の授業どうしよう。」

「ま、何とかなるでしょ。」

「そりゃ優実は英語できるからいいよ。私なんて英語ちんぷんかんぷんなのに・・・。」

「早乙女先生の為に頑張ってみたら?」

意地悪い笑みを見せる優実に、ジロッ。と視線を送ると、優実が思い出したように私の背中を叩く。

「ちぃっ!今、言いに行って来たら?先生、まだ何か残って書いてるみたいだからさ。他の子達も殆ど帰っちゃったから、今がチャンスだよ!!」

「えっ?えっ?!何のチャンス?」

「だから、さっき言ってた子猫を使う作戦よ!!」

「えぇ〜!!今?」

「今言わないでいつ言うのよ。ほら、行った行った。」

これから卒業までまだ日があるんだから、何も「今」じゃなくっても。

そう思いながらも足は勝手に先生の方に向かっていた。




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