*君の あなたの 微笑に




教師2人が教室を出て行った後、私は今朝とは意味合いの違う大きなため息をつき、再び机に突っ伏せる。

前の席の優実が上半身だけをこちらに向かせて、私の顔を覗きこんできた。

「・・・・・もしかして、今の?」

「・・・・・・はぁぁ。」

返事の代わりに出た大きなため息。

それを見た優実が思わず苦笑を漏らす。

「あっちゃぁ。偶然の再会とは言え・・・教師とはねぇ。」

「・・・・・サイアク。」

「でも、彼がねぇ・・・ちぃのタイプなんだぁ。」

「ぶさいくって言いたいんでしょ。」

「まぁカッコイイとは言えないわね。でもブサイクでもない。」

「・・・・・何よ、それは。」

「普通・・・よりちょっと上。」

「・・・・・微妙ぉ〜。」

「クスクス。でも、いいんじゃない?何か優しそうだし。銀縁の眼鏡も似合ってるし、背もそこそこあるしね。スーツのセンスも悪くない。」

「顔を褒めてよ顔を。」

ぶくっ。と頬を膨らます私を見ながら、もっとブサイクを想像していた。と笑いながら優実は私に言う。

・・・・・これまた微妙な答え。

別にいいもん。誰もカッコイイと言わなくても・・・私にはカッコよく見えるんだから。

「でも、ちぃどうするの?一目惚れした彼が自分のクラスの担任だったなんて。」

「どうしよう・・・。」

「先生だからって諦める?」

「ん〜・・諦めた・・・くないかも。」

「クスクス。凄いわね、ちぃ。それこそ本物の恋かもよ?うわぁ〜。教師と生徒の禁断の恋かぁ。憧れちゃうわ。」

優実は胸の前で手を組むと、瞳をうるうるとさせる。

「優実・・・・・面白がってんでしょ。」

「まっさかぁ。ちぃが幸せになれるんだったら、どんな恋でも応援しちゃうわよ?」

ジト目で優実を睨むと、手をひらひらさせながら、クスクス。と笑う。

完璧面白がってるよね・・・優実さん。

「ほんとにぃ?」

「もっちろん!ダメもとで頑張ってみれば?私に出来る事があれば何でも協力してあげるからさ。ちぃには幸せになってもらいたいもん。」

応援されてるんだか、面白がられてるのか微妙なラインの優実の言葉。

それでも、その言葉に背中を押されるように私は頑張ってみようと思った。

先生との・・・恋を叶える為に。



うわぁ。何か緊張してきたよ・・・。

今日の1限目は、あの彼・・早乙女先生の英語の授業。

・・・・・で、今日の日直は私だから連絡事項を聞きに職員室に行かなければならない。

――――嫌だなぁ。

さっき頑張ってみようと決めたばっかりなのに・・・教室を出る時も優実に「頑張って!!」と思い切り背中を叩かれたけど。

どう頑張れって言うのよ、教師相手に・・・彼にとって、私なんてイチ生徒でしかないに決まってるもん。

年も随分離れてるに違いないし。

そういえば、早乙女先生はいくつなんだろう?

大学を卒業してからだから、22歳は絶対過ぎてるよね。

仮に23歳としたら、私が18歳だから・・・・・5歳?!

あぁ。最低5歳も年が離れてるんだ。しかも、私は早乙女先生のクラスの生徒。それならきっと早乙女先生は私の事なんて恋愛対象としては見てくれないんだろうな――――私がどんなに頑張ってみても。

こんなんじゃ頑張りようがないよ。

一人でそんな事を悶々と考えながら、やってきた職員室。

最大限に心臓を高鳴らせながら職員室の机で何やら書き物をしている彼の元に歩み寄る。

「あの・・・・・。」

「・・・・・ん?あっ!さっきはびっくりしちゃったね。まさか狭山さんがここの高校の生徒だったなんて。」

「え、名前・・・覚えてくれたんですか?」

「だって、自己紹介し終わった途端立ち上がられたから印象に残っちゃって。しかも昨日の今日だし。いろんな意味で一番に覚えちゃったよ。」

クスクス。と私を見ながら微笑まれて、言葉に表せないくらい幸せな気分になる。

だって、私の名前を覚えてくれたんだよ!しかも、一番にっ!!

先程の悶々とした気分は何処へやら・・・途端に私の顔から笑みがこぼれる。

「嬉しいです、一番に名前覚えてもらえて。あの、それと。昨日の子猫ちゃん、元気ですか?」

「うん、元気だよ。昨日あれから動物病院に連れて行って検査してもらったんだ。寒さと飢えで衰弱はしてたけど、体自体に問題はないって。帰って子猫用のミルクやったらすっごい勢いで、フニャフニャ言いながら飲んでた。」

「クスクス。そっかぁ、よかった。安心しました。私、猫大好きなんですけど母親が嫌いで飼えないからどうしようって思ってたんです。先生に貰ってもらえてよかった。」

「あの時、子猫抱えながら泣きそうな顔してたもんね。俺・・・じゃなくて僕、それ見て一瞬焦ったもん。」

慌てたように「俺」を「僕」と言い換える先生を見て首を傾げる。

その様子に気づいた先生が、苦笑しながら頭を掻く。

「やっぱり「先生」となると、『俺』って言うのもどうかなぁって思って・・・『僕』って言うように努力してるんだけど、ついつい出ちゃうね。」

「え〜、別に『俺』でもいいと思いますけど。だって他の先生も『俺』って言ってますよ?」

「そうだね。でも、俺ってまだ新人だからさ・・・他の先生の前でも『僕』って言うようにしないとね。その練習の為に、って言ってる矢先に俺って言ってる。」

バツが悪そうに顔を顰めながら頭を掻く姿に、自然と笑いが込み上げてくる。

なんか、可愛い。年上なのに可愛いって表現は失礼かもしれないけど・・・とにかく可愛いって思ってしまった。

ゆっくり穏やかに話す口調も、優しく微笑む顔も。

「そういえば、先生はおいくつなんですか?」

「お・・僕?24歳だよ。」

「にっ24歳ですか・・・。」

愕然とうな垂れる私と、その様子に首を傾げる先生との間に「年齢差6歳」&「教師と生徒」という2つの壁が立ちはだかる。

むっ無理なんじゃないの・・・コレって。私の明るい未来が一歩遠のいた気がした。




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