*君の あなたの 微笑に ホテルの中に入ると、一番にいろんな部屋の写真が貼られているパネルが目に飛び込んでくる。 ・・・・・なに、これ? 先生に連れられて入り口で立ち止まり、私の首が傾く。 「千鶴、どの部屋がいい?」 「どの部屋って・・・選べるの?」 「うん、明るい所が空いてる部屋だから。気に入った部屋のボタンを押して。」 「わぁ、ほんとに?どれにしよー。全部入ってみたいけど・・・。」 いろんな部屋がありすぎて、どれにしようか迷ってしまう。 はぁ。こういうの決めるの苦手。どれもこれもよく見えてきちゃって決められないよ。 あぁ!あれ、綺麗・・・でもでも、こっちは可愛いし。 私が顎に人差し指を当てながら真剣に悩んでいると、全部はちょっと無理かな。と、横で先生が小さく苦笑を漏らす。 ・・・でも、先生こういうホテルの使い方知ってるんだ。 そりゃそうだよね、先生だって大人の男の人だもん。過去に彼女の一人や二人いたっておかしくない。 今までそんな事思ってもみなかったけど・・・ちょっと悲しいかも。 でも、今はそういう事は考えない事にした。 だって、「今」が大切だから・・・先生は、今は私の事を大切に思ってくれてるんだから。 ・・・それでいいよね。 私は少しの不安を振り払い、散々迷った挙句ボタンを一つ押す。 「じゃぁ、行こっか。」 「え、あ・・うん。」 何がどうなっているのやらさっぱり分からずに、私は先生に促されるまま後をついていく。 「うわぁぁ!すごーいっ!!」 部屋に入った途端、私の口から大きな声が漏れる。 目の前に開かれるその場所は、どこかのお城のお姫様が使っている部屋を、そのまま切り取ったような豪華で綺麗で可愛い部屋だった。 うわー、なにこれ。こんなところを使ってもいいの? 私は何故か込み上げてくる笑みをそのままに、キョロキョロと辺りを見渡す。 先生も隣りで驚いたように、すごいねぇ。とため息交じりの声を漏らす。 「うわーうわー。すごーい。ゴージャス!!これでホテル?」 「クスクス。ほんとだね。」 殆ど感嘆の声しか出てこない私。 「わわわっ。先生、先生。見てみて!!お風呂もすっごく広くて綺麗・・・うわっ!あっちからお風呂の中見えるよ?」 「あははっ。丸見え・・・どうする、千鶴?」 「えっえっ!?みっ見ちゃダメだからね?」 「さぁ・・・それはどうでしょう?」 「先生がそんな事しちゃダメだもん!!」 なんて、こんな場所に一緒に来てるクセにそんなおかしな言葉が出てくる。 「じゃぁ一緒に入る?」 「うわぁーっ!それはもっとダメ!!」 「どうして?」 「だっだって恥ずかしいもん。だからダメ・・・先生はあっちで目を瞑ってて!」 「寝ちゃうかも。」 「・・・・・そしたら起こすもん。」 頬を赤く染めながら、俯いてボソッ。と呟くと、先生は優しく頭を撫でてくる。 「じゃぁ千鶴が先にお風呂入る?体、気持ち悪いでしょ?」 「ううん、先生が先でいいよ?私、後から入るから。」 「そう?じゃぁ、俺が先に入るね。冷蔵庫の中の物、好きなヤツ飲んでていいからね。」 「はーい。」 私はお風呂場に先生を残して、一人で先ほどの部屋へ戻る。 ・・・・・に、しても。 何度見ても口があんぐりと開いてしまう。 ベッド広っ!!・・・これって、キングサイズベッドってやつかな?すんごく大きい。 でも、ここで今から先生と。なんて事が頭を過ると、途端に心臓が高鳴り出して頬が独りでに赤くなる。 「ジュース飲もう。」 私はコホン。と一つ咳払いをすると冷蔵庫からジュースを一本取り出す。 ジュースを持って再びベッドのところまで戻ると、上の方に何やら色んなボタンがある事に気付く。 「なんだろ、これ?」 試しに一つ・・・。 ポチッ。と一つ押してみると、玄関の辺りがフッ。と突然暗くなる。 「おぉ!これで点けたり消したりできるんだ・・・じゃぁこのボタンは?」 などと、一人でブツブツいいながらボタンで遊んでいると、こらっ。と、背後から声が掛かる。 「わぁっ!・・・せっ先生。あがってたんだ、気付かなかった。」 「何して遊んでるの?」 クスクス。と笑って濡れた髪をタオルで乾かしながら私に近づいてくる先生に、一瞬ぽーっと見とれてしまう。 バスローブに身を包んでて、そこから覗く先生の肌。 なんだかそれが妙に色っぽい。 いや、男の人に色っぽいって言うのもなんだけど、眼鏡をかけてない先生は、やっぱりいつもと違う先生に見えてきて、まるで別人のようにも思えてくる。 「千鶴・・・どうしたの?」 「あっあっ、別に何もないよ?私もお風呂入ってこよーっと。」 慌てて先生から視線を外すと、パタパタっと足早にお風呂へ向かった。 |