*君の あなたの 微笑に 「お風呂、お風呂・・・と。」 先生はそう呟きながら、元来た道をゆっくりめに車を走らせる。 ぬわぁっ。乾いてきたら肌がカペカペしてきたっ!早くお風呂に入りたいなぁ。 私は乾燥してきた自分の肌をペタペタと触りながら、辺りを見回す。 「ないかなぁ。」 「んー。さっきの旅館街に戻ろうか。旅館なら温泉だけとかでも入れるところもあるだろうし。」 「ほんとぉ?泊まらないのに、お風呂だけでも入れるの?」 「多分ね。それまでの道であったらそこに入ればいいし。少し時間かかるけど我慢できる?」 「うん、大丈夫。私も色々見ておくね。先生が注意散漫だったら危ないもん。」 「あははっ。じゃぁ、お願いします。」 「はーい。」 先生は笑いながら私の頭を優しく撫でると、再び私の手を繋ぐ。 私も先生の体温を感じながら、どこかないかな?と景色に視線を向ける。 と、暫く走ったところで大きな看板が目に映った。 『宿泊¥○○,○○○:休憩¥○,○○○・・――』 「あっ!先生、あそこのホテルは?」 「ん、どこ?」 先生は私の声に反応をして、ゆっくりと脇に車を停める。 「ほら、あそこの綺麗なホテル。宿泊と休憩って書いてあるから、泊まらなくても入れるんじゃないの?」 「・・・・・・・。」 私の指差す方向へ視線を向けた先生の声が止まる。 「先生?」 「・・・千鶴、あれってどういうホテルか分かってる?」 「ん?どういうホテルって?普通のホテルじゃないの?でも、すっごい綺麗。」 「んーとね、ブティックホテルって言うの。」 「ブティックホテル・・・。」 ・・・へぇ。ブティックホテルってビジネスホテルみたいなものなのかな? そこまで深く考えずに、先生の言葉に首を傾げると、彼は小さなため息を漏らしてから徐に口を開く。 「俗に言う、ラブホテル。」 「ラブ・・・って、えっ!?あっあれが??」 ラブホテルって・・・つまりはその・・・えぇぇぇ!!! ――――ラブホテル。 あっあれが噂のラブホテルなの?あんなの全然えっちくないじゃない。 外観なんて、どこからどう見ても普通のホテルにしか見えないし・・・。 私が先生の言葉に真っ赤になりながら、目を白黒させてると、彼はクス。と小さく笑って、 「ほか、探そうね。」 と、軽く頭を撫でてくる。 「・・・・・いい。」 「・・・・・へ?」 咄嗟に漏れた小さな私の声。 先生はそれを聞き取れなかったらしく、ハンドルを握ったまま私の顔を覗きこんでくる。 「私、ここが・・・いい。」 「ち・・づる。何言ってるの?今、説明したよね。それが何をするための場所だか千鶴にだって分かるでしょ?」 「・・・わかる。だから・・・ここがいいの。」 私のその言葉に先生は困ったような表情を浮かべる。 「だって、先生の誕生日に一つになれたけど、それからは全然何もないんだもん・・・。」 「それはっ・・・。」 「分かってる!分かってるよ?先生が私の事を大切に思ってくれてて、すっごく我慢してくれてるんだって・・・分かってるけど・・・でも・・っ?!」 その続きの言葉が私の口から出る前に、先生の唇がそれを塞ぐ。 先生の柔らかい唇の感触を感じていると、ゆっくりと唇を離して真っ直ぐに私の視線を捉えてくる。 「・・・・・先生?」 「もー、千鶴は。こういう所で千鶴を抱くのは・・・って、そう思って言ったのに。」 「え、先生?」 「それに、今日は少し遅くなってもいいって聞いてたから、家に帰ってゆっくりー。とも思ってたのになぁー。」 「あれ・・・っえ?」 もしかして、先生も私と同じ事を考えてた?・・・『今日とか・・』って。 でもでもさっきから穏やかな声で気付かなかったけど、何気に凄い事言ってない? 抱くとか・・・ゆっくりー・・・とかって。 ん?ん?と、頭の中にクエスチョンマークをいっぱい並べていると、先生がちょん。と鼻の頭をつつく。 「いいの?ここに入っても。」 「・・・・・うん。」 「・・・じゃぁ、入るよ?」 「うん!」 少し大きな私のその声に、先生は小さくクスクス。と笑う。 わっ!なんか、私張り切ってるみたいじゃない。 そう思うと、途端に頬が真っ赤に染まった。 |