*君の あなたの 微笑に




「お風呂、お風呂・・・と。」

先生はそう呟きながら、元来た道をゆっくりめに車を走らせる。

ぬわぁっ。乾いてきたら肌がカペカペしてきたっ!早くお風呂に入りたいなぁ。

私は乾燥してきた自分の肌をペタペタと触りながら、辺りを見回す。

「ないかなぁ。」

「んー。さっきの旅館街に戻ろうか。旅館なら温泉だけとかでも入れるところもあるだろうし。」

「ほんとぉ?泊まらないのに、お風呂だけでも入れるの?」

「多分ね。それまでの道であったらそこに入ればいいし。少し時間かかるけど我慢できる?」

「うん、大丈夫。私も色々見ておくね。先生が注意散漫だったら危ないもん。」

「あははっ。じゃぁ、お願いします。」

「はーい。」

先生は笑いながら私の頭を優しく撫でると、再び私の手を繋ぐ。

私も先生の体温を感じながら、どこかないかな?と景色に視線を向ける。

と、暫く走ったところで大きな看板が目に映った。


『宿泊¥○○,○○○:休憩¥○,○○○・・――』


「あっ!先生、あそこのホテルは?」

「ん、どこ?」

先生は私の声に反応をして、ゆっくりと脇に車を停める。

「ほら、あそこの綺麗なホテル。宿泊と休憩って書いてあるから、泊まらなくても入れるんじゃないの?」

「・・・・・・・。」

私の指差す方向へ視線を向けた先生の声が止まる。

「先生?」

「・・・千鶴、あれってどういうホテルか分かってる?」

「ん?どういうホテルって?普通のホテルじゃないの?でも、すっごい綺麗。」

「んーとね、ブティックホテルって言うの。」

「ブティックホテル・・・。」

・・・へぇ。ブティックホテルってビジネスホテルみたいなものなのかな?

そこまで深く考えずに、先生の言葉に首を傾げると、彼は小さなため息を漏らしてから徐に口を開く。

「俗に言う、ラブホテル。」

「ラブ・・・って、えっ!?あっあれが??」

ラブホテルって・・・つまりはその・・・えぇぇぇ!!!



***** ***** ***** ***** *****




――――ラブホテル。

あっあれが噂のラブホテルなの?あんなの全然えっちくないじゃない。

外観なんて、どこからどう見ても普通のホテルにしか見えないし・・・。

私が先生の言葉に真っ赤になりながら、目を白黒させてると、彼はクス。と小さく笑って、

「ほか、探そうね。」

と、軽く頭を撫でてくる。

「・・・・・いい。」

「・・・・・へ?」

咄嗟に漏れた小さな私の声。

先生はそれを聞き取れなかったらしく、ハンドルを握ったまま私の顔を覗きこんでくる。

「私、ここが・・・いい。」

「ち・・づる。何言ってるの?今、説明したよね。それが何をするための場所だか千鶴にだって分かるでしょ?」

「・・・わかる。だから・・・ここがいいの。」

私のその言葉に先生は困ったような表情を浮かべる。

「だって、先生の誕生日に一つになれたけど、それからは全然何もないんだもん・・・。」

「それはっ・・・。」

「分かってる!分かってるよ?先生が私の事を大切に思ってくれてて、すっごく我慢してくれてるんだって・・・分かってるけど・・・でも・・っ?!」

その続きの言葉が私の口から出る前に、先生の唇がそれを塞ぐ。

先生の柔らかい唇の感触を感じていると、ゆっくりと唇を離して真っ直ぐに私の視線を捉えてくる。

「・・・・・先生?」

「もー、千鶴は。こういう所で千鶴を抱くのは・・・って、そう思って言ったのに。」

「え、先生?」

「それに、今日は少し遅くなってもいいって聞いてたから、家に帰ってゆっくりー。とも思ってたのになぁー。」

「あれ・・・っえ?」

もしかして、先生も私と同じ事を考えてた?・・・『今日とか・・』って。

でもでもさっきから穏やかな声で気付かなかったけど、何気に凄い事言ってない?

抱くとか・・・ゆっくりー・・・とかって。

ん?ん?と、頭の中にクエスチョンマークをいっぱい並べていると、先生がちょん。と鼻の頭をつつく。

「いいの?ここに入っても。」

「・・・・・うん。」

「・・・じゃぁ、入るよ?」

「うん!」

少し大きな私のその声に、先生は小さくクスクス。と笑う。

わっ!なんか、私張り切ってるみたいじゃない。

そう思うと、途端に頬が真っ赤に染まった。




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