*君の あなたの 微笑に 暫く車を走らせていると、山間の切れ目から遥か先の地平線まで広がる青い海が見えてきた。 「わぁーっ!先生、海だぁっ!!きれー。」 私は車の窓にへばりつき、太陽に照らされてキラキラと光る海を見つめる。 「おっ。見えてきたね。もうちょっとで着くからね。」 「わっ!せっ先生は余所見しちゃダメっ。ちゃんと前を見て運転してください。」 「クスクス。はいはい。」 慌てて先生に向き直ると、彼は苦笑を漏らしながら前を向く。 もー。すぐ横見ちゃうんだから・・・ちゃんと安全運転でお願いします。 私は、こらっ。と先生に呟いてから、ドリンクホルダーに置かれているジュースを手に取ると、くぃっと一口飲む。 「千鶴、俺にもジュースちょうだい?」 「ん?あ、はーい。」 片手でハンドルを握る先生はあいた手は私と繋いだままだから、さっきから私が取ってあげてるの。 ストローが差し込まれているジュースの缶。 買う時にわざわざ先生がストローもつけるように言ったのを首を傾げて見てたんだけど、あぁ、これの為か。と後で納得をした。 缶のままじゃ私が飲ませてあげるの、難しいもんね。 私は缶を手に取ると、先生の口元に運ぶ。 ・・・と、そこで小さな悪戯心がわきあがってきて、彼が口を少しあけてストローを咥えようとした所で、ひょいと缶を少し上に上げた。 「・・・・・こら。」 ストローは先生の口に入る事はなく、その少し上の鼻の下にストローの先がペタッ。とつく。 「クスクス。先生、お間抜けー。」 「あ、そういう事をしますか?だったら・・・。」 「わっ!わぁぁぁぁあっ!!せっ先生あっ危ないーーーっ!!!」 先生はストローの先が鼻の下に着いたまま、ニヤッ。と意地悪く笑うと、ハンドルをグネグネと左右に動かし始める。 途端に車内も揺れて、体がうねうねと揺れる。 「千鶴・・・何か言う事は?」 「だぁぁっ!ごっごめんなさぃー。あっ謝りますから・・・やっやめてー・・・。」 「クスクス。よろしい、許してあげる。」 先生はにっこりと笑うとハンドルを定位置に戻し、揺らすのを止める。 ・・・・・しっ死ぬかと思った。 「もぅっ!先生、死んじゃったらどうするの?」 「先に悪戯をしたのはだぁれ?」 「・・・・・小さな出来心だもん。」 「俺もそうだもん。」 いや、あなたのは事故に繋がるから止めてください。 私がぷくっ。と頬を膨らますと、先生は、あははっ。とおかしそうに声を立てて笑う。 高速を下りて暫く下道を走らせたところ。 ここら辺は観光地らしくて、旅館やみやげ物屋が軒並み立ち並ぶ。 わぁー。いつか先生とこんな所へ泊まりにきたいなぁ。 そんな事を思いながら、ぼー。と外を眺めていると、 「いつか、一緒に旅行に行こうね。」 と、先生が私の心を見透かしたかのように呟く。 ・・・・・いつか一緒に。 「うんうん、行きたい、行きたい!!」 私が満面の笑みを浮かべて先生を見ると、彼も、うん。と優しく笑う。 「あ、千鶴?海に行く前に、ここら辺をちょっと歩いてみる?お土産とかいろいろあるし。」 「うん!そうしよう。」 先生は私の返事を聞くと、近くのパーキングに車を停めた。 車を降りて2人で手を繋ぎながら歩いていると、すごく幸せな気分になってくる。 先生と手を繋ぎながら、こういう所を歩けるなんて・・・。 当分無理だろうな、と諦めていただけに嬉しさが余計に募る。 「千鶴、すごく楽しそう。女の子ってこういうお土産モノとか見るの好きだもんね。」 「ううん、違うよ?先生とね、こうして手を繋いで歩ける事がすごく嬉しくて・・・卒業するまでは無理かなぁ。なんて思ってたから。」 「千鶴・・・ごめんね、俺がもっと早く車を買ってたらいろいろ海水浴とかにも連れて来てあげられたのに。」 「もー、先生はそうやってすぐ謝るー。いいの!あれはあれで幸せだもん。それにね、これから先はいっぱい色んなところに連れて行ってもらえるもん。」 ねー?と、笑いながら先生の顔を覗き見ると、彼は素早く私の頬に唇を寄せてから、もちろん。と言って微笑む。 「っ!!せっ先生?!」 「なぁに?」 「ひっ人前!」 「・・・だから?」 真っ赤に頬を染めながら、目を丸くして先生を見上げると、だからどうしたの?と言うような彼の表情。 「せっ先生・・・恥ずかしいって。」 「クスクス。千鶴があまりにも可愛かったから、ついついね。」 「本当にせんせい?」 「あははっ。なぁに、それ。いつもの俺じゃないみたい?」 「んー・・いつもの先生は先生だけど・・・なんか、大胆?」 「クスクス。そうかなぁ?あっ!コンタクトにしてるから人格変わっちゃったのかな?」 やっやっぱりそうなの?コンタクトにしたら人格も変わっちゃうの? 悪戯っぽく笑う先生の言葉を、真剣に真に受けちゃってるバカな私。 |