*君の あなたの 微笑に 結局先生が帰って来たのは日付が変わる頃だったから、昨日は会えずジマイだったんだけど、今日は先生の誕生日。塾も休みだったから一日先生と一緒にいられて昨日の寂しさを忘れてしまうくらい私は幸せだった。 ビデオ見たり、ゲームしたり・・・少しばかり勉強を教えてもらったり。 何でこんな時まで勉強せにゃならんのだ? でもでも、すっごく幸せな気分。 私が一人でニコニコとしていると、先生が不思議そうに私に向かって微笑んでくる。 「千鶴、今日はすごくご機嫌がいいみたいだね。何かあったの?」 「だって先生の誕生日だもん!それに・・・先生と一日一緒にいられてすっごく幸せなの。」 「クスクス。そう?それを聞いて俺もすごく嬉しいよ。だけど、今日は天気がいいからどこか遊びに行けたらよかったのにね、ごめんね。」 「んもぅっ。謝らないでくださいって。私は全然そんな事気にしてないよ?先生とね、一緒にいられるだけでいいの。充分楽しいもん。」 先生に向かって、にっこりと笑うとつられて先生も笑顔になる。 あ、この笑顔・・・すっごく好き。 優しくて、温かくて。すごく安心できる笑顔。 「ありがとう、千鶴。俺もすごく楽しいよ。誕生日にね、千鶴と一緒に過ごせてすごく幸せ。誕生日が夏休みでよかった〜。」 「あははっ。ほんとだぁ、学校とかある日だったらゆっくり一緒にいられないもんね?」 そう2人で笑い合って、自然と近くなる2人の距離。 先生は私の頬に手を添えて、ちゅっ。と軽く唇を重ねてすぐに離す。 「もっと・・・。」 「え?」 「先生・・・もっとキスして?もっともっと大人なキスして欲しい。」 「・・・千鶴。」 自然と口から出た言葉に、先生は少し驚いた表情を見せる。 「・・・・・ダメ?」 「ダメ・・・じゃないけど・・・。」 そう言葉を濁す先生に、先生?と言って少し不安げな表情で彼の顔を覗きこむ。 「ん〜とね。その、色々と事情がね・・・あるわけで。」 「事情って何?私が子供だから?先生の生徒・・だから?」 「ううん、それは違うよ。前にも言ったでしょ?俺は千鶴の事を子供だなんて思ってないって。生徒だからって言うのも関係ない。だからそんな変な心配はしないで。」 「じゃぁ色々って何?」 「ん〜・・色々。」 「そんなのじゃ分かんない!!絶対絶対ダメなの?」 私が先生に食い下がるように彼を見上げると、困ったような表情を浮かべる。 ・・・・・どうして、先生?そんな、色々。だけじゃ意味が分からないよ。 「・・・・・じゃぁ、ちょっとだけね。」 「ちょっとだけ?」 「ん。」 先生は小さく頷いてから、私の頬を両手で挟むとゆっくりと唇を重ねてくる。 啄ばむようなキスを繰り返してから、私の唇を舌先で割って中に入ってくると私の舌をゆっくりとなぞり絡めてきた。 それだけでも頭の中が、ぼぅ。っとしてきちゃって、胸の奥がきゅん。となる。 「・・・・・んっ。」 突然口から漏れた私の甘い声に自分でもびっくりしていると、先生もビクッと頬に添えた手を一瞬動かしてから、唇を離す。 やっ・・・もっとキスして欲しいのに。 「・・・・・はい・・・おしまいね。」 「・・・・・先生?」 唇を離した彼の顔が一瞬辛そうな表情に見えて、思わず先生の顔を覗き見る。 でも、先生はいつものような優しい笑顔になってて、そろそろ夕食の用意でもしようか。って言って私の頭を軽く叩いてきた。 先生・・・今の表情って・・・? 今日は先生の誕生日だから、私が夕飯を作るって事でキッチンの前に立つ。 さっきの事は少し気になるけど・・・今は夕飯を作る事に専念しよう。 あまり自信のない手料理。だけど、先生がおいしいって言ってくれるようなモノに仕上げたいな。 私は頑張って作り上げた物を少し小さめのダイニングテーブルの上に載せる。 「オムライス?」 「ん。頑張って作ったんだけど、やっぱり上に乗せる卵を失敗しちゃった。ごめんなさい。」 テーブルの上のお皿に乗せられたどう見たってオムライスに見えない、卵焼き&ケチャップ色ライスを見て私の口から大きなため息が漏れる。 はぁぁ。先生の誕生日に、こ〜んな得体の知れない物を作ってしまって・・・どうすんのよ。 それでも先生は嫌な顔をするどころか、すごく嬉しそうな表情をしてくれて。 「ありがとう、千鶴。俺の為に頑張って作ってくれたんでしょ?すっごく嬉しいよ。」 「でもでも・・・本当にごめんなさい。作ってあげるなんて偉そうに言ったクセに、こんな物しか出来なくて。」 「いいって。ほら、千鶴も座って食べよう?」 先生は私に座るように促して、スプーンを手に取る。 「あ、先生?お誕生日、おめでとう!!」 「クスクス。ありがとう。じゃぁ、いただきます。」 「美味しくないと思うけど・・・どうぞ召し上がれ〜。」 私がじぃっと見つめる中、先生は卵焼き&ケチャップ色ライスをスプーンで掬うと口へ運ぶ。 すっごいドキドキするんですけど。おっおいしいかな? 口へ運んだ先生の動きが一瞬止まってから、ゆっくりと動き出す。 ・・・・・何故止まる? 「・・・・・美味しく・・・ない?」 「ん〜〜〜〜〜・・・食べられなくはない。」 食べられなくはない?・・・って事は美味しくないって事じゃん!! 私も急いでスプーンで掬って口へ運ぶ。 ・・・・・。 ・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・マズッ。 なっ何コレ?!すっごくマズイんですけど!! 慌てて先生の方を見ると、黙々と口を動かして食を進めて行く。 「わぁぁぁぁぁ!!せっ先生!!こんなの食べちゃお腹壊すって!!!たっ食べないで。」 「ん?どうして?千鶴が折角作ってくれたのに。俺はコレでいいよ?」 「だっダメだって!美味しくないもん。味もしゃしゃりも無いし・・・絶対お腹壊す。」 「大丈夫、大丈夫。慣れてきたら結構食べられなくもないよ?」 いやいや、慣れてきたらって・・・慣れなきゃ食べられないって事でしょ? あぁ。もうサイアク・・・何で、私って料理できないのかしら。 つくづく自分の腕の無さに嫌気が差してくる。 気づけば先生のお皿は綺麗に無くなっていて・・・そんな無理して食べなくてもいいのに。 先生はスプーンをお皿に置くと、にっこりと私に向かって笑いかけてくる。 「千鶴、ご馳走様。作ってくれて本当にありがとう。」 「せんせぇ・・・。」 その言葉が、私は泣きたいくらい嬉しかった。 先生、私の方がありがとう。だよ。 |