*Magical hand






内藤は私の体をベッドに組み敷くと、頬にかかった髪を指先で掬い取りながら、視線を絡めてくる。

「須藤?この先、待ったは聞けないから…マジで俺でいいの?」

「ん…内藤がいい。内藤こそ私でいいの?私…初めてだし…」

「言ったろ、ずっと前からお前を求めてたって…ぶっちゃけ、シミュレーションは何度かしたけど、実践は俺だって初めてだから…その…優しくできっか分かんないけど…きっとあっけなくイっちゃうと思うし…さっき須藤に触られたから尚更…いや、なるべく痛くないようにすっし…っつぅか、俺日本語話せてる?すげっ…緊張して…その…何話してっか分かんない」

その内藤の様子に笑っちゃいけない場面なんだろうけど、笑いがこみ上げてきて。

クスクス。と小さく笑っていたら、おぃ。と言うような目で軽く睨まれてしまった。

「ごめっ…笑うつもりはないんだけど、今の内藤すごく可愛かったから…けど、ありがと…なんか緊張せずにいられそう」

「ありがとって……俺、すんげぇ緊張してるんですけど…」

お前には参るよ。なんて苦笑を漏らしながら、内藤は準備をぎこちなく済ませると私の体に覆い被さってくる。

「須藤…いい?」

「うん…優しく…してね?」

内藤はその言葉に大きく頷くと、ゆっくりと彼自身を入り口にあてがい、蜜で先端を濡らすようにミゾをなぞりそれを広げるように指を動かす。

その仕草を何度か繰り返してから、少しずつ中に入ってきた。

「んっ!!」

途端に余りの圧迫感に私の眉間にシワが寄り、顎がグッと上がる。

内藤はそれを心配そうな表情で見つめながら、私の頭の両脇に肘をつけると、ゆっくりと息を吐きながら、入り口付近で出入りを繰り返す。

「んっ…須藤…だい…じょうぶ?」

「だいっ…じょうぶっ…あぅっ」

「マジで?…すげっ…痛そうな顔…なんだけど…やめ…る?」

徐々に進みつつあるものを途中で止めて、そう言ってくる内藤の表情がとてつもなく辛そうで。

私は大袈裟な程に首を横に振り、大丈夫だから。と何度も繰り返す。

キスをしたり、耳朶を甘噛したり。内藤は騙し騙しゆっくりと時間をかけて私の中に入ってくる。

「ぁっ…すげっ…きつぅ…最後まで…中々、入んな…いっって、すっ須藤泣いてんのか?そっそそんなに痛い?」

「えっ?あ…ちっ違うのっ…ここコンタクトが…」

「コンタクトって…お前コンタクトなんてしてねぇじゃんっ!」

「わっ!じゃっ…じゃ、なくて!えと…えとえと…ごっゴミが目に入ったの!だっだから痛くて泣いてるんじゃないからね?」

「嘘付け…痛いんだろ?…俺のやり方がマズかったのかな…やっぱ止めようか?痛いよな?今度にすっか?」

「だっダメ!大丈夫…本当に大丈夫だから…お願い止めないで…最後まで…して?」

「…須藤」

ゆっくりと名残惜しそうに腰を引こうとする内藤の体を手で止めると、ぎゅっとそのまま腕を背中にまわして力を入れる。

「ごめんな、須藤。すぐイクから…っつぅか、マジでそんな持ちそうにないし…最高だよ、須藤の中。俺だけ気持ちいい思いして、マジごめん」

「ううん、内藤が気持ちよくなってくれるだけで私は幸せだよ?何かね、不思議なんだけど…ダイエットしてた時も辛くて投げ出しそうになっても、内藤が『頑張ろうぜ』って言ってくれるだけで頑張れちゃうの。筋肉痛で死にそうだった時も内藤が『大丈夫か?』って優しく撫でてくれるだけで筋肉痛がどこかへ行っちゃうの。だからね、今だってちょっぴり痛かったんだけど、内藤が『気持ちいい』って最高だよって言ってくれたから痛みなんてどこかへ飛んで行っちゃったんだ。だから、もっと気持ちよくなって?」

「須藤…んな、可愛い事言うなよ…でも、ありがと…最高の女だよ、須藤は。俺の自慢の女」

「ありがとう…嬉しいよ、内藤…あっんっ!!」

内藤は唇を塞ぎながら、再びゆっくりと動き出す。

お互いの体を強く抱きしめあい、肌の温もりを感じながらキスを交わす。

ゆっくりとした律動から、徐々にリズミカルに動き出す内藤の体。

いつの間にか唇が離れてて、耳元からは内藤の荒く色っぽい息遣いが聞こえ、自分の口からは甘い吐息が漏れていた。

本当にさっきまでの痛みはどこかへ消えていて、全く別の体の芯をきゅんっとした刺激が襲いはじめる。

あ…なんだろ…さっきの内藤の指の時とよく似た感覚。

すごく、すごく切ないこの感じ。

私がそれを感じながら内藤の背中にまわした腕に力を込めて抱きしめると、内藤も律動を送りながら掠れた声を耳に響かせる。

「いっ…いいよっ…すげっ、気持ちいっ……ごめっ…も…止まんない」

「ないっ…と…んっ…あぁんっ!なんかっ…なんかっ…あぁぁんっ!!」

「あっ…いっ…イクっ……あけ…み…明美っ…もっ、もぅっ…イクっ!!」

「ん…んんっ…幸一っ…好き…大好きっ」

「俺もっ…好きだよ、明美っ…んあぁっ!ごめんっ、もう限界っ!!」

内藤は私の体を強く抱きしめると、激しく奥まで突きあげて揺さぶってきた。

最後、強く軋むベッドの音と、頭の中が真っ白になるのを感じながら、私は大きく息を吐いて覆い被さってくる内藤の体を愛しい気持ちで抱きしめていた。




「あ…下に何か敷くの…忘れてた…」

落ち着きを戻した内藤が私の体を綺麗に拭き取ってくれながら、小さくボソっと呟く。

「ん?…って、わぁっ!ごっごめん…内藤のベッド汚しちゃった」

「あ!や、俺のベッドがどうなろうがどうでもいいんだって…それよりも、大丈夫か?痛くない?」

ベッドに少しだけついてしまった私の処女の証である赤いシミ。

内藤はそれを近くにあったハンドタオルで隠すように広げると、心配そうに私の顔を覗きこんでくる。

「ううん、私の方は全然平気だよ。でも、ごめんね?どうしよう…お母さんとかに怒られちゃわない?」

「あぁ、いいってマジで。鼻血が出たとか何とか言うからさ…須藤…あー、いや…明美が大丈夫ならそれで…いい」

自分で言い直しておきながら照れたのか、少し頬を赤く染めて頭を撫でてくる内藤に私の口から小さな笑いが漏れる。

「お前…イチイチ笑うなよ」

「だって…ごめん。でも、ちょっと名前呼ばれて嬉しい…いつも男の子からは苗字か裏のあだ名でしか呼ばれた事なかったから。」

「もうお前をチビデブスなんて言うヤツはいないから、安心しろって」

「…ん。ありがと、内藤」

ニッコリと微笑んで内藤を見上げると、彼はフッと笑みを漏らしながら私の体を抱きしめる。

「お前は俺の事を名前で呼んでくんないの?」

「え?あ…えと…こう…いち」

あ…やっぱ言い直すと照れる。

同じように頬を少し赤らめると、頭上からクスクス。と、小さな笑い声が聞こえてくる。

……なによ。

「何か今改めて須藤明美が俺の彼女になったんだって実感できた」

「えー?」

「あ〜ぁ。学校サボってエッチして…何やってんだろうな、俺達」

「あははっ。ホントだね…まぁ、でも今日は特別って事で」

「そうだな。俺達の記念日って事で…いっか!」

「うん!いいの、いいの。私にとってはもんのすごい記念日なんだから。」

「もんのすごいって?」

「幸一のおかげで綺麗に痩せて、幸一のおかげで綺麗に変身できて…幸一の腕の中で女になれた。チビデブスだったあの頃の私じゃ考えられない事ばかりだもん…こんな素敵な彼氏が出来るなんて夢にも思わなかったし。幸一ってホント凄いよ。だから、色んな意味を含めてもんのすごい記念日」

「お前褒めすぎ…その大半は明美が頑張ったからだろ?俺はその手助けをほんの少ししただけ…そう、何度も言ってんじゃん」

「その手助けが幸一だったからここまで出来たんだって!だからね、幸一の彼女になった特権として…我侭をちょっとだけ言ってもいい?」

体にまわされている内藤の腕にそっと手を添えて、彼の顔を見上げると、何?とニッコリ笑って軽くキスをされる。

「幸一の為にもっともっと綺麗な女になりたいから…この先もずっと幸一のこの手で私を綺麗にしてくれる?」

「あぁ。とびっきりのいい女にしてやるよ…この先もずっとずっと俺の手で」

「ありがと。幸一にそう言ってもらえると、本当にそうなれる気がするよ。私もリバウンドが来ないように頑張るからね?」

「まぁ…俺的には、前の明美でも全然OKなんだけど?」

「えーっ!!チビデブスがいいの?」

「だって、ほら。そしたら悪い虫がつかないだろ?今の綺麗な明美ももちろんいいんだけど、前の明美も俺だけが独占できてていいかも…って?」

「んー…じゃあまた前の私に戻った方がいい?」

「嘘々。折角長い期間かけて綺麗に痩せたんだ。ずっとそのままでいろよ。ただし、俺以外の男に目を向けたら前の姿に戻してやるから」

そう意地悪く笑って頬を撫でてくる内藤に、軽く睨みをきかせながら、幸一以外誰も見ないもん!と、頬を膨らませる。

「あ!そういえば肉まん…食べるの忘れてるじゃない。あーぁ。冷たくなってるよ?きっと」

「あー。でも、中身が美味いんなら冷めても美味いだろ」

「じゃぁ、冷めてるけど食べる?」

「折角だからチンして食う。俺が一個半で、明美はその残りな?」

「えーっ!!なんでよぉ」

「肉まん食って太ったらどうする?」

「…嫌かも」

「だろ?だから、仕方なく俺が一個半食ってやるの」

「とか何とか言いながら、幸一が食べたいだけなんじゃないの?」

「あ…バレた?」

「そんな事してると、幸一の方が今度はおデブになっちゃうよ?」

「どうする?俺がおデブになったら」

「ん〜………」

「って、考えんなよ!」

「あははっ、嘘々。どんな幸一でもきっと好き」

「マジで?」

「マジで」

「……やっぱ明美に嫌われたくないから、一個だけにしとく」

「肉まん半切れぐらいで変わらないと思うけど……」

「じゃぁ、やっぱ一個半」

「もぅ、どっちよ!!」

私の言葉にクスクスと笑いながら服を着て肉まんの袋を持つ内藤に向かって、同じようにクスクスと笑う。



――――中身あっての外見だろ?だから俺は基本は中身重視。中身がよければ自ずと外見も伴ってくんの。



肉まんの袋を見ながら、内藤が言ってた言葉を再び思い出す。

中身がいいって言ってもらえるのはもちろん嬉しいけれど、やっぱり外見だっていいって言っててもらいたいよね?

私は中身も外見も内藤にずっと好きって言っててもらいたいから……

まだまだ、もっともっと自分を磨き続けて行かなくちゃね!!

私、頑張るから!だからずっと応援しててね?

恋する女は好きな人の為にどんな事だって頑張れちゃうんだから、ね♪


*** Web拍手連載『Magical hand』 FIN ***




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