〜*〜 One night romance 〜*〜
――――キッカケなんて些細な事。 久し振りに自分の唇に感じる柔らかい感触。 最初は触れるだけのソフトなキス。 それから上唇と下唇を順に挟み込むように、啄ばむように正樹の唇が触れ、それに酔いしれはじめると、ゆっくりと舌先が唇をなぞる。 「なんか…すげー久し振り。こうやって誰かの唇に触れんの」 一通り軽いキスを堪能してから、唇が触れてる状態で、正樹が視線を絡めながら小さくそう呟く。 「私も……」 いつの間にか正樹の首の後ろにまわっていた自分の腕。 正樹の方も片腕を私の首の下に通して、もう片方の腕で私を引き寄せて距離を縮めると、再び唇をしっかりと重ねてくる。 角度を変えて啄ばむようなキスを繰り返し、それを堪能し終えると、ゆっくりと正樹の舌が中に入ってくる。 最初は浅く唇の内側をなぞるように舌先が這い、唾液がこぼれそうになるとチュッと軽く吸い上げる。 私も彼と同じように舌を動かしながら、流れ込んでくる彼の唾液をチュッと吸って飲み込む。 徐々に深い位置で絡み始めるお互いの舌。 なるべく音を立てないように、なるべく声を出さないように気をつけながら。 すぐ傍のベッドの上で眠る2人の存在を意識しつつも、それでもキスを止める事は出来なかった。 少しのスリルと甘すぎる空間にどっぶりと深く浸り始めていたから。 正樹が言った通り、彼のキスは悩殺威力があると思う。 それはもしかしたらアルコールのせいかもしれないし、暫く体感してなかった刺激だったからかもしれない。 だけど、キスに夢中になってる事だけは確かだった。 だから… 自分の口内から、彼の舌が出て行くのを名残惜しく感じて、ゆっくり目を開け彼の視線に自分の視線を絡ませる。 「もっとして…」 「ん……いいよ。俺ももっとしたいから…」 2人共、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声。 視線を絡ませたまま、再び唇をしっかり重ねて熱い舌を絡ませる。 お互いの唇を吸いあう音が、2人の寝息に混じって薄暗い部屋にヤケに大きく響いているように感じてしまう。 「んっ…正…樹」 「沙…代子」 次第に息が上がり始める私たち。 いつの間にかお互いを強く抱きしめあい、自然と貪るようなキスに変わっていく。 正樹からのキスを受けながら、もう一つの欲望が私の中から湧き上がって来るのを感じずにはいられなかった。 熱くなってくる中心に、もぞもぞと自分の足が何度も床を擦る。 その事を知ってか知らずか、正樹は少しだけ唇を離すと私が思っていた事を小さく口に出す。 「沙代子…このままシテもいい?」 「ダメだよ…向こうで2人が寝てるんだよ?聞こえるって」 「あいつら相当アルコール入ってるから、よっぽどの事がない限り起きないと思うけど」 「でも…」 「沙代子はしたくならない?俺、すっげぇしたいよ。お前とこんなキスをして、途中でなんてやめらんない」 「私だってそうだけど…こんな事知れたら大変だって」 「ああ、分かってる…分かってるけど、無理。沙代子が欲しくてたまんない」 その気持ちは私も同じだった。 今の私は、正樹が欲しくて堪らなくて、すぐにでも火照った体に触れて欲しかった。 でももしこのまま壁を越えてしまったら…… 「一線を越えてしまったら、今まで通りの関係じゃいられなくなる」 私と正樹は男と女。 触れたらその先が欲しくなるのは必然で。 何がそれを邪魔してるのかと言うと、『仲間』と言う言葉だけ。 どうしてそこまでそれにこだわるのかと言うと、大した理由は見当たらない。 ただその頃の私達の暗黙の了解だっただけ。 ――――仲間なんだから、そういう感情はいらないよな。って。 だけど、私と正樹は男と女。 快感も快楽も知ってる男と女。 キッカケなんて些細な事。 キッカケに触れてしまった先は、どうなるのかなんて目に見えている。 「正樹…今だけ私の恋人になって」 暫くの沈黙を置いて、小さく漏れた私の言葉。 ただ、仲間と言う言葉から一瞬だけでも逃れたかった私の浅はかな提案。 「え?」 「仲間じゃなくて…今だけ一人の女として、正樹の恋人として私に触れてよ」 それで何かが変わるわけじゃない。 ただ、自分の気持ちを軽くしたかっただけ。 「沙代子」 「彼氏に触れてもらえない寂しさを今だけ忘れさせて?正樹が彼女に触れられない寂しさを私が今だけ忘れさせてあげる。今夜限り、一日だけの恋人になって」 「……分かった。忘れさせてやるよ、お前の寂しい気持ち。俺はお前に満たしてもらう。沙代子?信じないかもしれないけど、これだけは言っておく。でも、忘れろよ?ずっと封印してた事だから……キスをしたのも、その先に進みたいって言ったのも、沙代子だったから。俺、女もいなくてお前と仲間としてつるんでなかったら、きっと沙代子を好きになってたよ」 「正…樹」 「別に、これから沙代子を抱けるからって、調子こいて言ってるわけじゃないからな?ヤりたいって気持ちは嘘じゃないけど、誰でもいいわけじゃなくて、それは沙代子だからって事…とりあえず言っときたかった。まぁ、この状況で何言っても奇麗事にしかならないけどさ」 「分かってるよ」 ずっと仲間やってきて、素の正樹とずっと接してきたんだから、そういう軽い事を言うヤツじゃないっていう事ぐらい分かってるよ。 だから今までつるんでこれたんだし… 「私も一緒。きっとサークル入って、気の合う仲間じゃなかったら、きっと正樹の事好きになってた」 「沙代子……そっか。なんだ、両想いじゃん俺ら」 「ホントだ。両想いだったんだね?」 顔を見合わせて、クスクスっと笑い合う私達。 だったらなんでお互い相手と別れて一緒にならないんだ?って思うけど、何故か2人共そうしようとは思わなかった。 そうなったらお互い寂しさを忘れて、幸せな生活が始まったかもしれなかったのに。 ホンの少しのスリルを味わう楽しみと、仲間と言う心地よい空間を壊したくなかったから…って言えば理由になる? ←Back Next→ |