*Love Game――――月曜日。 会社が定休日で休みだったあたしは、夕方になるのを待ってから、とある場所へと車で向かっていた。 車を走らせながら、友人に聞きだした事を思い返す。 『ごめーん、唯。あの時酔っ払っちゃってて、あんたの事あの玲って高校生の子に聞かれたから全部喋っちゃったのよぅ。よかった?』 いいわけないでしょうがっ。 なんで見ず知らずの高校生のクソガキに、あたしの素性を知られなきゃなんないのよ。 こんなの断然不利じゃない!あたしは何にもあの子の事知らないんだから。 それに引き換え、あたしがその友人から聞き出したネタが、玲の通ってる高校の名前…のみ! のみってちょっと…。 もう少しマシな情報をゲットしておきなさいよね…あれだけコンパの間はあの子にべったりくっついてたんだから。 あいつはあたしの事を知っていて、あたしはあいつの事を何も知らない…知っているのは彼の名前と、ここら辺じゃ有名な進学校に通ってるという事だけ。 ………手駒が少なすぎる。 別に玲の弱みを握ってどうこうするつもりはないけれど、何も知らないでヤツを堕とそうと目論んでいるあたしって、結構無謀? いや。でも、この勝負だけは負けられない。 女の意地にかけて…あたしのプライドにかけて堕としてやる。 あの何とも言えず、綺麗な笑みの下でほくそえんでいるヤツの顔を踏みにじらなければ気が済まない。 あたしは大きく聳え立つ、ある建物の少し手前で車を停めてサイドブレーキのペダルを踏む。 そして徐に、カチッとジッポでタバコに火をつけて、横を通り過ぎていく制服の群れを、吐き出される煙と共に目で追っていた。 ここは男子校で、当然だけれど出てくるのは男子ばかり。 通り過ぎる子達がみんな、あたしを物珍しそうに見ていく。 察するに、「お!すげーいい女じゃん。誰?誰かの女か?」などと噂をしながら見てるんだろう。 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてコッチを見て行くから大体想像がつく。 あたしはそれに臆する事無く、目的のヤツが出てくるまでの時間を車の中で過ごしていた。 ………って、言うか。 今更ながらに気付いたけど、どうしてあたしがここまでしなくちゃいけないのかしら。 これじゃ、あたしがまるであの子を迎えに来てるみたいじゃない!? 別にあの子の事が分からなければ、友人を介して玲の友達に色々聞けば済む話じゃない。 それなのにあたしったら、わざわざ自分から出迎えるような事をするだなんて…。 ……どうかしてるわ。 バカバカしくなってきた。 あたしは吸い終わったタバコを灰皿に押し付けると、はぁ。とため息をついてからサイドブレーキを解除しようとレバーに手をかけた。 と、そこで見知った顔が校門から出てくるのが視界に映る。 黒い普通の学ランで身を包み、友人達と笑って話をしながら出て来た彼。 彼は先日とは少し雰囲気が違っていて、今はメガネをかけて白い歯を覗かせながら楽しそうに笑っている。 そう、どこにでもいる至って普通の高校生の男の子のように。 やっぱり…あたしの想像通りだわ。 昼間は普通の高校生の男の子の仮面を被ってるわけね。 視力も悪くないくせに、優等生ぶってメガネなんてかけちゃって? まぁ…ここは有名な進学校なんだから、本当に頭はいいんだろうけど。 彼が普通の高校生を演じていても周りの子と少し違うのは、やはり格段に目を惹き付ける存在だと言う事。 ……これで共学だったら大変でしょうね。 可愛らしく笑って、一見真面目そうに見える玲。 こうして見たら、あんなに小憎たらしい事を言うヤツだなんて想像もつかない。 でも紛れもなくあれは、先日あたしのプライドを尽く傷つけてくれた可愛くないクソガキ…塩谷玲だ。 玲はあたしの存在に気付くと、スッと目を細めて笑顔を閉じ込める。 そして小さく口元をニヤリと上げた。 一緒に出てきた玲の友人達があたしの存在に気付いて、 「誰、誰?あのきれーな女の人」 などと、コソコソと盛り上がりながら車の横を通り過ぎていくのを横目で流し見ながら、彼の次の行動を伺う。 すると玲は車を通り過ぎた辺りで足を止めると、友人達に向かって、 「ごめん、迎えが来てるから」 と、可愛らしく笑って助手席側に回り込んで来た。 それを見た友人達から、 「えーっ!お前の迎え?うっそマジで…今度紹介しろよー」 と叫ばれたのに対し、 「俺の姉貴だから紹介するまでもないって」 と、返しやがった。 姉貴…ね。 まあ、周りの子にどう思われようが構わないけれど。 紹介するまでもないって、どういう事よ! まるで存在価値がないような言い方をしてくれるじゃない…どこまで人をバカにすれば気が済むのよ。 それに…いつあんたの身内になったんだ、とツッコミを入れておこうかしら。 |